十五話
「……何しに来た」
もう布団に入っていた俺を起こしたのは、四宮 澪奈の声だった。
「ずっと、あなたに隠していたことを話に来たの。あなたに夏燐を救う手伝いをしてもらうために」
不快感が、こめかみを走った。
「また、夏燐を救う、か。だからどうでもいいって言ってるだろ。俺は夏燐にもう嫌われてるんだから」
四宮は黙って首を横に振った。
「……まずは、私の話を聞いてくれないかしら」
「……」
俺は黙って先を促した。四宮は静かにしゃべり始める。
「……あの時の夏燐は、精神を操作されていたのよ」
……は? 俺は一瞬、意味が分からない。
「マインド・コントロールにでもかかっていたって言うのか?」
四宮は俺の目をじっと見つめて言う。やけに真摯な瞳だ。
「違うわ。外部の装置によって、夏燐は感情を操作されていたのよ。あの瞬間だけ、あなたを嫌うように」
俺は唖然とする。突然何を言い出すのだこの女は。そんな与太話で俺が納得すると――
「あなたに告げなかった理由を説明するわ」
恐ろしく誠実な瞳が俺を射抜いた。まるで嘘を言っているようには見えない。
「あなたは触れた機械を全て壊す、間違いないわね?」
「ああ。そうだ」クソみたいな特殊体質だ。
澪奈が息を吸う。もう一度俺の瞳をじっと見つめる。
「夏燐はアンドロイドなの。だから、あなたにそれを告げることはどうしてもできなかった。あなたがそれを知れば、触れるだけで夏燐を破壊してしまう。それを恐れて、私たちはあなたにそのことを告げなかった。……ずっと隠していて、ごめんなさい」
……? 俺の中は『?』でいっぱいになった。四宮は一体真面目な顔して何を言ってるんだ?
そんな俺を置いてけぼりに、澪奈は次々とまくしたてる。
「出会った最初、あなたは夏燐のスマホを壊したけれど、あの子は全く怒らなかったでしょう? それはあの子の優しさもあるけれど――何より、通信するためのスマートフォンが必要ない、という理由が大きいのよ。アンドロイドは自分自身に情報端末としての能力があるから、本当に必要なかったの。
その次の日確か私と徳永と会ったわよね。それは私と徳永が夏燐の監視役だからなの。触れた機械を全て破壊する危険人物と夏燐を仲良くさせるわけにはいかないと、徳永も私もそう考えていたのよ。だからあんな奇妙な話し合いになった。あなたの体質を見せてもらうことになった。そして徳永が危険だと判断して、夏燐と徳永は喧嘩した。
そして、夏燐はあなたの体質を解析したでしょう? あなたが機械だと認識したものを壊す体質であるって。あんなことをできたのはあの子がただ賢いという理由だけではないのよ。あなたに興味を持って、あなたと仲良くなりたいと思ったから、私たちを説得するために、その事実を発見したの。その事実の発見なくして、夏燐はあなたと喋ることは危険でしょうがなかったから」
蘇ってくる怒涛の記憶。あの時あの瞬間の謎に意味が付け加えられていく――
「さらに言うわ。あの日、夏燐を襲った襲撃者――彼らはなぜ夏燐を連れて行こうとしたの? ヤクザの娘だから? いいえ、あんなのは嘘っぱち。本当はね、アンドロイドだからなの。だから改造人間なんて異常な連中が手を出してきた――そういうことなのよ」
一気にしゃべった四宮の頬は少しだけ上気していた。
「……確かに、つじつまは、合うな」
俺は何とかそれだけ言った。まだ完全に信じたわけじゃなかった。
「そして花火の日から、夏燐は自宅を出ることを禁じられた。だけど――あなたに会いに行った。ただあなたのことが好きだったから。あなたに会いに行った。そしてそれは重大な規約違反だったの。夏燐は明日――記憶を消去されてしまう。ほかでもない、東雲 俊一と出会って過ごしたこの一か月のすべてを、完全に忘れてしまう」
「……!」
俺は目を見開いた。四宮は泣きそうになりながら言う。
「そんなのって、あんまりでしょう? 初恋の人を忘れさせられて、あなたには治らない心の傷だけ残して、それってあまりに許されがたいことでしょう?」
「……」
俺は返事をすることができない。
「だから……お願い。夏燐を助けて。あなたの力がどうしても必要なの」
「……」
その時、四宮は入ってちょうだい、と声をかけた。すると部屋の中に身長が百八十はあろうかという強面の男が入ってきて――
「お前は……」
かつて夏燐を襲った連中のボスだった。確か、俺が足の機械を破壊した男。
「――よう。お前のせいでとんでもねぇ金がかかったよ」
「彼は石田よ。この作戦のメンバーの一人。今から作戦の説明をするわ」
四宮は涙を拭ってから、そう言った。




