十一話
目の前にはすっかり生気を失い、廃人のように頬も痩せこけた東雲が座り込んでいた。
「四宮……」
唖然としていた。澪奈はまくしたてる。
「夏燐を助け出すためには、あなたの力が必要なのよ」
東雲の顔に不快の色が灯った。
「夏燐? なんで俺があの女を助けなくちゃならないんだ……? 俺はあいつに振られたんだぞ」
まるで吐き捨てるかのように東雲は言う。想定済みだ。澪奈は用意してきた説明をする。
「この間の花火のとき、東雲くんはその……いろんなものを壊したでしょう?」
東雲は虚ろだ。
「……ああ」
澪奈は息を吸う。
「それをヤクザの組合の総長が知るところになったの。それで、そんな危険な男と付き合うのはやめろ、っていうお達しが出たのよ」
「……そうか」
それがどうかしたのか? とでも言いたげな瞳で澪奈を見つめている。
「だから夏燐は、あなたにあんなキツいことを言った。正直に事情を話せば、あなたは夏燐に対する未練を断ち切れないだろうと彼女は思った。だから心を鬼にした。ヤクザの総長の一言というのは、それだけの重みがあるのよ」
どうだ、と澪奈は思った。しかし東雲の顔は浮かなかった。
「……俺にはそうは見えなかったけどな。一之瀬は本心で、心から俺のことを嫌っているみたいに見えた」
「それは演技よ」
澪奈は断定した。だが実際は、演技ではなかったけれど。
「……どうして断定できる? そもそも俺はさ、あんたらが本当にヤクザなのかすら、怪しいと思ってるんだ。一か月一緒にいて、何かを隠されてることくらい、俺にだってわかるさ」
どきりとした。やはり、不自然さはどこかで出ているものなのか。
「……それで夏燐は今家から一歩も出られない状況なの。明後日には本家へと送還されてしまう。もう二度と会えなくなる。あなたはそれでいいの?」
東雲の目に依然として色はなかった。
「ああ。それでいい」
「そんな……」
澪奈は憤った。
「あなた! 夏燐が一体どんな思いであんなことを言ったと思ってるの!? あなたは夏燐の恋人でしょう!? 何をうじうじ言っているのよ!?」
しかし東雲の目に――灯ったのは怒りの色だった。
「……黙れよ」
そのあまりの凄みに澪奈はひるむ。
「もうどうでもいいんだよ」
ぽつり、と言う。
「……全部俺の体質が原因なんだろ。じゃあどうしようもねぇじゃねぇか」
「あなたは夏燐が好きじゃなかったの?」
東雲は澪奈を睨みつけた。ひどく鋭い眼光だった。
「好きだったに決まってるだろ! 未練だってあるさ、でもな、どうしようもないんだよ! 俺の体質がある限り、恋愛なんて望むべくもないんだよ!」
澪奈は立ちすくむ。
「四宮も一之瀬も徳永だって、思えば最初からおかしかった。何がヤクザだ? 敵だ? 友達だ? ふざけるのもいい加減にしろよ。お前らが何かを隠しているのはわかってるんだ。そうか、最初から俺は信頼すらされてなかったわけか。一之瀬に二日で捨てられるんだ、無理もない。おもちゃだったってわけか」
「それは……」
違う、と言いたかったが、隠し事をしているのは真実なのだ。でもそれを伝えることはどうしてもできない……。
「なあ四宮、お前は何しにここに来たんだよ? 俺を総長とやらのところにまで連れていくのか? それとも本部に送る車を俺に破壊させるのか? また俺の体質で何かを壊させるのか?」
「……」
澪奈に返す言葉はなかった。
「もう帰ってくれ。ウンザリなんだ。もう人間に疲れたんだ」
東雲の言葉に、澪奈は静かに外へと出て行った。




