第九話
白くて、四角い部屋だった。ベッドの横にはコンセントがあって、それ以外には何もなかった。部屋自体が絶縁体でおおわれてるみたいで、どんな電波も入ってこなかった。いつまでも静かだった。私はずっとベッドの端っこで膝を三角に抱えてぼんやりと白い壁を見つめていた。
『もう二度と私の前に姿を現わさないで。不快なの』
胸の内に黒いものが沸き上がった。それは怨念みたいな色彩を帯びていて、私に悔しさと、痛みだけを与えた。……私には後悔する権利すらない。私はあの瞬間あの言葉を選んだわけではなかったから。もどかしくて死んでしまいそうだった。
「……シュン」
ふとつぶやいた言葉。シュンに謝りたい。それだけだった。
『一週間後、夏燐を本部に送り届ける』
静にそう言われてから、六日が経った。恐らく明日か明後日中に、私は会社の本部へと届けられるそうだ。……何をされるのかまでは、聞かされていない。静はシュンを嫌っていた。その理由はわかる。シュンの体質は確かに危険だ。私がアンドロイドであることがバレなければいいというが、それでバレたときにはもう遅いというのも、よくわかる。だからきっと、私とシュンは引きはがされる。本当に悔しくて堪らないけど、この間静が私を操ってシュンに暴言を吐かせたのは、きっとシュンに別れをつらくさせないため……。そう思ってもやはり、納得することはできない。
もうシュンに二度と会えないのではないか。そう思った。嫌だ、そんなのは嫌だ。心のそこで叫ぶ私がいた。でももう一人の冷静な自分が、そうなるかもしれない、と言っていた。
横に首を振った。会えるに決まっている。何度だって、会えるに決まっているではないか。そう言い聞かせた。でもダメだった。ネガティブな思考はじわじわと脳を侵食していって、私は身動きが取れなくなる。もう会えない、会えない。シュンと会話することも、できない?
「……っ」
涙を拭う。じゃあせめて、忘れないようにしよう、そう思った。
私のピンチを救ってくれたヒーローを、私が恋した王子様を、ずっと好きでいたいとそう思った。いつか私が自由になるその日までその思いを保っていられたら、私はきっとシュンに会いに行く。その日まで、その日までこの想いを握っていられたら――私はほんの少しだけ希望を持った。そうだ。私がずっと好きでいればいいんだ。それできっと田舎に住んでるシュンを見つけ出して、ポンと肩を叩くんだ。「ごめんね」って言うんだ――。
私が覚えていればいい。そう思うと、私の心は少しだけ晴れた。




