第八話
「ねぇ、静」
モニタールームに立つ静に対し、澪奈はそう言った。
「……なんだ」
無表情のまま静は返答する。
「今回のことは、いくら何でもやりすぎではないかしら」
澪奈は憤っていた。先ほどの夏燐と東雲のやり取りは、夏燐に内蔵された視点共有機能によって、すべて二人に筒抜けだった。
「……冷静かつ、客観的な判断だ。東雲に諦めてもらうための、な。そうすることで夏燐は潔く新しい生活を営める」
澪奈はカッとする。
「あなたね! 夏燐だって大きなショックを受けているに決まってるじゃない!」
静は告げる。
「……記憶の抹消を行う」
澪奈は一瞬、自分の耳がおかしくなったのではないかと思った。
「……は?」
「……東雲と夏燐が出会ってからの、この一か月の記憶を夏燐の中からすべて削除する。もっとわかりやすく言うならば、夏燐を本社に送りつけて内部ストレージから特定の記憶をバックアップごと消去する」
唖然とした。いったいこの男は何を言っているのだ。
「……そうして我々のこの拠点は放棄だ。新しい拠点を設け、そこでもう一度新しい生活を始める。東雲 俊一などという害虫のいない、新しい場所で新たな調査を行うのだ――」
「害虫ですって!?」
静は眉一つ動かさない。
「……ああ害虫だとも。何をいまさら説明する必要がある? 触れた機械をすべて故障させる人間なんて、アンドロイドにとっては害虫以外の何物でもないだろう」
東雲くんの体質を害虫呼ばわりするこの男が、赦せなかった。
「あなたなんかに害虫呼ばわりされるような人じゃないわ! 東雲くんはね!」
静は不快そうな表情をする。
「……ずいぶん東雲に入れ込んでいるんだな。任務に私情を挟むとは、情けない」
澪奈は静を睨みつける。
「黙りなさい……」
爆発寸前の怒りが腹の内を渦巻いている。
「もうこれは決定事項だ。夏燐は一週間後本部へ強制送還させる。そしてメモリーを消去し、もう一度我々と生活および調査を行う。これは責任者としての命令だ。くれぐれも余計なことを考えるなよ」
「……」
澪奈は返事をしなかった。できるわけがなかった。
「……澪奈、これは仕方がないことなんだ。わかるか。東雲は夏燐の横に置いておくには危険すぎる。上だってきっとそう判断することだろう。お前も優秀な人間なら、ちゃんと折り合いをつけることだ。そうするべきってことくらい、わかるだろう?」
静の必死の説得だった。澪奈はそれでも返事をしなかった。
「澪奈。繰り返すぞ。俺はお前を買っている。だからこそ言う。愚かなことを考えるな。それはお前の身を滅ぼすだろう。お前だって自分の身がかわいいはずだ。たかだかガキ一人のためにどうしてそこまで怒る必要がある? これはもう決定したことなのだ。だからお前も優秀な一エージェントとして、最後まで任務を全うしてくれ。頼むよ」
その静の言葉に澪奈は、澪奈は――
「……ええ、ごめんなさい。頭に血が上ってしまったみたいだわ」
穏やかな声色で、そう答えた。




