第七話
私の身体は、私の意志とは無関係にただただ前へと走り続けていた。雨の中を前へ、前へ。
……あんなこと言うつもりじゃなかったのに。ただ私はお別れを言おうとして、それでなんでかイライラして、あんな言葉が――
引き返さなきゃ。引き返して、謝らなきゃ。シュンに、ごめんって言わなきゃ――
「……?」
私は依然として、前へ前へと走り続けていた。
身体が、言うことを聞かなかった。私の意志を無視するように、身体は雨降る森の中を突き進んでいく。ロボットがただ目的地を目指すみたいに。
身体に力を入れようとする。入らない。私の命令に、私の身体が従わない。もどかしさに心が逸る。何……これ? 今すぐシュンのところに戻らなきゃいけないのに、無慈悲にも身体は前へ前へと突き進んでいく。
『絶対服従』逆らうことは、できない。
唐突に浮かんだ一つの言葉。私を制御することができるたった一つの方法――それは、静が持つコントローラだけなのだ。まさか……と思ったけど、いろんなことを考えてみると合点がいくことに気がついた。
『じゃ、私帰るから。もう二度と私の前に姿を現わさないで。不快なの』
あの時唐突に、私の内側から沸き立った怒りを思い出す。目の前のシュンがうっとうしくて仕方なくって……なんでそんなこと思ったの? 本当に私はそう思ったの? 確かに私が目を覚ました時、シュンはそこにいなくて寂しくてなんだか苛立って――そもそもあれは私の怒りだったのかな?
そうだ。と思った。私を制御するためのコントローラだ。感情も制御できないはずがない。
「……!」
愕然とした。静は私を連れ戻すためにコントローラを使ったのだ。きっと、シュンに対して怒りの感情が沸くように指令を飛ばしたに違いないんだ。私の中に怒りが沸きあがる。
「……っ! ふざけっ、ないでよ……っ」
悔しかった。ただ悔しかった。なんで私の身体と心なのに、私の思い通りにならないんだろう。なんで私は自由に恋しちゃいけないんだろう。なんで私はアンドロイドなんだろう……?
足掻いた。必死にシグナルを送って、引き返そうと試みた。電源を切ろうとした。それすら出来なかった。身体はずんずん静のいる家に向かって突き進んでいった。全速力で私は自宅に向かって疾走していた。やるせなかった。悔しいなぁ。シュンに謝りたいのに、ごめん、大好きだよ、って言いたいのに。
走るのをやめて歩いた。そろそろ家が近いみたいだ。雨はずっと降り続いていた。
「……ひっく……ひっく……うぅ」
涙が、あふれた。
……私が人間だったなら、コントローラなんて、ないのになぁ。
私が人間だったらなぁ。なんで、私はアンドロイドなんだろう?
「……ひっく、あぁ……うぁあ……」
嗚咽は止まらなかった。きっと顔がくしゃくしゃだ。
私が人間だったなら、シュンに好きって言えるのになあ……?




