第五話
「夏燐!? 夏燐!?」
俺は何度も肩を揺さぶる。なのに彼女の身体は力なくうなだれていて微動だにしない。
「夏燐! どうしたんだ!?」
頬を叩く、身体を揺する。けれど夏燐は何の反応も示さない。
「おい……おい!?」
俺は耳を夏燐の胸に当てた。息を深く吸って鼓動の音に耳を傾ける。
ぎょっとした。鼓動の音が聞こえなかった。
心臓麻痺? 急性の病気? いくつもの疑問が俺の中を駆け巡っていく。なんで夏燐は倒れた? 俺とキスをしたから? ――俺の体質が原因で?
違う。違うと思いたかった。だって夏燐は人間じゃないか。どうして俺の体質でぶっ倒れることになるってんだ? そんなわけねぇだろ。そんなわけねぇだろ……?
俺は駆け出していた。公衆電話――公衆電話で救急車を呼ぶんだ。その一心で俺は自転車にまたがり田舎の何もない道を駆け巡った。次第に雨が降り始め、俺のシャツはびしょ濡れになった。
「ハァ……ハァッ」
かなり走り回ったその先に、ぽつんと一個の公衆電話があることに気が付く。俺は車輪を全速力で回転させ、その前で急ブレーキを踏む。ドアを開けて中に入り、公衆電話の緊急ダイヤルに掛けようとして――愕然とする。
「壊し……ちまうじゃねぇか」
触れた機械をすべて破壊する特異体質。またお前か。またお前が……俺の邪魔をするって言うのか?
俺はすぐさま公衆電話を飛び出した。無意味だ。俺は電話すら掛けられない。
「クソッ!」
怒りに任せてボックスをガンと殴った。俺はまた自転車に乗る。家だ。誰でもいい、家を見つけなきゃいけない。それで救急車を呼んでもらうしかない。
「……ッ!」
その時だった。体の芯がぐらぐらと揺れるくらいの、轟音が俺の肉体を横殴りにする。雷だ。ピカッと景色が真っ白になり、俺は雷が落ちたらしい場所へ振り向く。夏燐がいるはずの森の方で煙が上がっている。
「……まさか」
嫌な予感がした。俺は自転車を反転させる。戻らねぇと――ッ。
「ハァ……ハァッ……」
息を荒げながら森の入り口に自転車を放り投げる。へとへとの体にムチを打って夏燐の方に走っていく。大丈夫だよな? なあ、まだ大丈夫だよな?
どれもこれも、俺の体質が悪いんだ。俺の体質がなけりゃ――今頃救急車が呼べていたはずだし、それにもしかしたら夏燐が倒れることだってなかったかもしれない。なんで俺にはこんな体質があるんだよ? こいつのせいで……どれだけ俺は苦労するんだよ?
必死に走った。夏燐のいるところまで。頼むから生きていてくれ、生きていてくれ――たどり着いたのは、雨がより一層強まり地面がぬかるんだその先――
「……ッ?」
人が一人、立っていた。それは、俺のよく知る人物だった。だが俺は一瞬、その人がその人であると気が付かなかった。気が付けなかった。
「……か、りん、なのか?」
カラカラの声を、絞り出す。確証がなかった。なぜなら俺には、その人物が夏燐に見えなかったから。だけどその顔、その体、その髪は夏燐そのもので――
「……」
びしょ濡れのまま、じっと見つめてくる人がいた。
死人みたいな表情した夏燐が、木のすぐそばに立っていた。




