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一之瀬夏燐は憧レル。  作者: 木邑 タクミ
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第一話



 転校早々のあいさつで言うべきこととはいったい何か。

 思い切って、五年程温めていたギャグを披露するのも悪くない。それによってクラスが冷たい風にさらされるのもまた一興というものだろう。もしくは堅実に趣味の話、無難な自己紹介を行うのも良い判断だ。じゃあ俺はいったいどんな言葉をその場に放てば良いというのか。いや実を言うと何を言うかはとっくに決まっていた。必要だったのはそれを言う勇気だけ。

 季節は七月。もう夏休みの直前だ。いろいろあってこんな時期に俺――東雲 俊一はこんなド田舎に転校してきた。目前には俺の顔をじっと見つめる生徒が三十人強。やめろよ緊張するじゃねぇかって思っても口腔内の渇きは収まりそうにない。だったら最初から決めてる一言を言うほかない。俺は覚悟を決めて息を吸う――



「東雲 俊一です。よろしくお願いします。俺の前では絶対にケータイを使わないでください」



 ずっと温め続けた、一言だった。予想通り、クラスメイトのほとんどは驚愕に目を見開く。そして、話は数か月前へと遡る。
















――家の中。電気のつかない暗い部屋でかーちゃんは申し訳なさげにこう言った。

「アンタ……転校したほうが、いいと思うの」

 俺の内側に苦い塊がじわりと広がった。

「そう……だな、これ以上ここにいたら、みんなの迷惑に、なっちまう」

 馬鹿な俺にだってわかっていた。俺がこの家にいるだけで出した損害はおそらく百万円を超える。そんな俺の存在なんて家族にとっては鬱陶しいものに決まってるよな、うん。

「探すよ。ド田舎にある高校。そこに、転校する。もちろん電車も使わない。自転車でそこまで行く。かーちゃん電話するくらいは手伝ってくれるよな?」

 俺の言葉にかーちゃんは嬉しそうに目を開いたが、しかしすぐにその目は沈んだ。かーちゃんだっていろんなことを考えてるに違いないんだ。

「もちろん手伝うわ。パソコンを使って高校を調べてあげるし、その高校に電話して頼み込む。アンタの役に立てるように、頑張るわ」

「かーちゃん……ありがとう!」

 その後紆余曲折があり、俺はついに内陸に位置する公立蓮田高校に転校することとなった。





 まずここで俺の体質について話さなきゃいけない。あれは何歳だったかな、確か小学校に入ったくらいのことだったと思う。俺がかーちゃんと乗ってた車が突然ショートした。かーちゃんも初めてのことでびっくりしたんだが、修理に出すと電気系統が完全にやられていると言われて高額の修理費を請求された。

はじめはそんなもんだったんだ。偶然だと思いたかったんだが残念なことに――俺の周りで怪現象は続いた。携帯ゲーム機が壊れ、家の電灯のスイッチがおかしくなり、さらには冷蔵庫がぶっ壊れた。そろそろ俺は気が付きつつあった。俺がいったいどういう人間なのか、ってな。


 なんでかはわからない。なんでかはわからないんだが――俺が機械に触れると、その機械は再起不能なレベルでぶっ壊れちまう。意味わかんねぇって思うだろ? でも事実なんだよな、これが。だから俺はテレビに触れないしエアコンのスイッチにも触れないし車に乗れないし電車にだって乗ることができない。だって全部ぶっ壊しちまうから。

 そしてそれから数週間後。ちょうど俺が転校してくる三日くらい前。ありえないほどの量の汗に俺のTシャツはベッタベタだった。当たり前だ。上には馬鹿みたいにパワー全開の太陽がギラギラと俺を照らしているし、日本海側のこの地域はハンパじゃなく湿度が高い。新幹線も飛行機も電車も車も使えないから、自転車を走らせて三日。俺はようやく新居に到着しつつあった。

 周りを見渡すと田んぼ田んぼアンド田んぼ。マジ信じらんねぇくらい田舎なんだが、これがかえって安心できたりする。だって何も壊せないからな。

 昔からみんなひでぇんだぜ? なんかゲームが壊れるだろ、そしたらすぐ「俊一君ガー」「俊一君ガー」って言うんだ。馬鹿の一つ覚えかよ。俺は外でしか遊んでまっせーん。でも相手の親がキレたりして仕方なく金払って――かーちゃんマジごめんな。俺は涙を拭いた。

「ん? 新しくこの辺に住む人? 珍しいね、こんな田舎に」

 少しノスタルジックになりかけた俺を現実に引き戻したのは透明感のある少女の声だった。田舎の人は温かみがあるって聞いたアレはマジだったのか、とか思いながら俺は振り向く。そしてすぐに俺はぎょっとする。なんでって? その子がめちゃくちゃ可愛かったからだ。ぱっちり開いたまん丸の瞳に可愛らしいほっぺ。短パンの上にうっすいTシャツ。そのTシャツの薄さたるや薄すぎてブラの色が分かるレベル。俺くらいの紳士だとそんな色にこだわったりはしない。だが今日の空の色も青かった。

「そ、そうだ。ここらへんに越してきた」

 俺はどもりながらもなんとか返答する。可愛い子を前にすると舌回らんくなるんですがこれ病気かな?

「ふーん。ここ何もないでしょ。暑いし」

 そう言って少女は微笑んだ。その微笑みたるや俺の童貞ハートを射抜くのには十分すぎた。俺にはその子の笑顔の周囲にキラキラしたエフェクトが見えたね。え? これ初対面だよね? ちょっと可愛すぎない?

 まあ確かにここの街には全く何もねーなーと思っていた。近場にスーパーが一軒あるだけ。当然家はスーパーに近いところを選んだ。当たり前だが車なんてつかえねーからな。ついでに言うと野菜を保存するための冷蔵庫も使えない。

「まあご近所さんってことでよろしくな、んじゃ俺は新居に向かうわ」

 高鳴る心臓を抑えながらなんとか少女に向けてはにかんだ。

「うん! じゃあね!」

 その子もまた可愛く言って小さく手を振った。

この新しく来た町での初めての出会いだ。しかも美少女。正直言うと、もうちょっとでもしゃべっていたかった。でも俺はそれをしない。なぜか? 今どきのJKはケータイ持ってるだろ。それで俺が近づくと些細な、本当に些細なことで――彼女の大事なケータイをいともたやすくぶっ壊しちまう。そういうのって、俺もあの子にもつらいことだ。だから俺は不用意に人と接近したくない。部活くらいはやってもいいけど、友人づきあいはかなり慎重なものになるはずだ。大事な機械を破壊して、友情関係も破壊したくねぇしな。


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