ろくでもないフェロモン、再び
「創太さ~ん」
「だから駄目だって言ってるだろ!? 学校には連れていけないんだっての! 昨日みたいな騒ぎになったらどうすんだ! 早く帰れ!」
「そんなぁ~、一人にしないで下さいよぉ~。人に使われる為に作られた私は、人より人恋しくなっちゃうんですぅ~。もう絶対創太さんに迷惑かけませんからぁ~」
「知るか!」
朝の通学路。
キヨメさんが今日も、昨日同様一緒に学校に行きたいと騒いでいる。
(どうしたもんか……)
今日は俺が家を出るまで静かだったから、昨日の事もあるし、てっきり大人しく留守番する気になってくれたんだと思っていたのに。
どうやら違ったらしい。
家を出た後からごね始めて、そのままどさくさに紛れて学校まで付いてくるつもりらしいのだ。
……汚い手を考えたものだ。
一旦外に出てしまえば昨日みたいに縛りつけておく事も出来ないし、人目がある以上家の中に居る時みたいに無茶は出来ない。
そして遅刻する危険を考えれば長々と構ってもいられないし、かと言って無視したまま歩き続けていれば、結局はキヨメさんを連れたまま学校に到着してしまう。
「あのな? キヨメさ……」
どうにか説得しようと振り向いたところで。
「んん!?」
突然キヨメさんの姿が消えた。
そして、横を走り去っていく一台のハイエース。
「えぇ!?」
(誘拐!?)
慌てて手を上げてハイエースを追いかけようとしたところで。
「うおぉ!?」
ハイエースの天井やドア、窓ガラスなんかが一斉に吹き飛び、そこから触手がにゅるにゅると伸びたかと思うと、そのまま車体を完全に大破させてキヨメさんが中から飛び出して来た。
壊れた車の残骸に紛れて、下半身を突き上げながらよだれを垂らし、ビックンビックンと激しく痙攣している何人かの男性の姿が見える。
一見チンピラ紛いの恰好をしている様に見えるが、どの服も新品。
恐らく見た目そのままの奴らではない。
まぁそんな事よりもだ。
「キヨメさん大丈夫か!? 怪我は無いか!?」
「こんな事どうでもいいです! それよりも、私も学校行きたいです! 連れてって下さい!」
「はぁ!? こんな事って、それこそ学校の話こそこんな事だよ! それより今の誘拐劇は何だ!?」
「あぁ、あんなの一々気にする事でもないですよ。私はこれでも世界最高峰の技術の結晶ですからね。狙われる位しょっちゅうです」
「そうなのか!? それ危なくないのか!?」
「大丈夫ですよ。見ての通り、それに対抗する力も十分以上に備わっていますから」
ハイエースの残骸と誘拐犯達の末路を見る。
「確かにそうなのかもしれないけど……」
と言ったって、やっぱり心配だ。
俺の考えが足りなかった。
そりゃ当たり前だ。
本人の言う通り、キヨメさんは超技術の塊なんだ。
狙われるのも当然だ。
(……仕方ない)
それを知って、彼女を一人で帰らせる訳にはいかない。
「キヨメさん」
「はい?」
「……絶対に変な事はしない。騒ぎは起こさないって、約束出来るか?」
パァッ、とキヨメさんの表情が明るくなる。
「それってもしかして……!」
「いいから、答えろ。約束出来るか?」
「はい、はい! 勿論です!」
「……じゃあ、付いてきても……いいぞ」
「やったぁ! ありがとうございます! 創太さん!」
「抱き着くな! 離れろ!」
キヨメさんを振りほどきながら、後で日和に連絡してキヨメさんの安全について確かめようと思った。
空は快晴、ぽかぽかと暖かい教室。
「ふぁ……」
教師の抑揚の無い喋り方が眠気を誘う。
周りを見れば、まだ今日始まったばかりの一時間目の授業なのに、もうこっくりこっくり船を漕いでいる生徒達がチラホラと目につく。
(俺も眠いけど……)
「ひゃん」
膝の上に座るキヨメさんの頭に、顎を乗せる。
空気を抜いて小さくしたキヨメさんを膝に座らせると、頭の位置が顎を乗せるのにちょうど良い所に来るのだ。
そしてキヨメさんには、黒板の内容を俺の代わりにノートに写させている。
一旦開き直ってしまえば、中々に便利な彼女だった。
催眠能力で周りからキヨメさんの存在を認識できない様にして、膝に乗せる。
そうしたら後は居眠りしているだけでいい。
キヨメさんに対して同様、俺に対しての認識にも催眠をかけているので、俺が寝ようが何してようが、当たり前の事として誰も気にしない。
(はぁ……)
本人には言わないけど、この姿のキヨメさんを抱きかかえていると良い匂いがする。
子供特有の、大人とは違う匂い。
体臭だけではなく、体温も子供みたいに少し高めなので、こうして密着しているとじんわりとそれが伝わってきて、温かくて気持ちいい。
正に寝るのに最適な環境だ。
「~♪」
そしてキヨメさんも、この体勢だと俺と密着して触れていられるのでご機嫌らしい。
これなら彼女が面倒事を起こす事も無いし、全てが丸く収まる。
(それにしても可愛いなぁ、キヨメさん……)
「はぅんっ」
ぼんやりとろんとした頭で、キヨメさんの首筋に顔を埋めてキスをする。
本当にどこから調達してきたのか、今の小さい体型に合うサイズの制服を着ているキヨメさん。
そのスカートの裾から伸びる、まだ肉付きが未発達な太ももを右手で撫でさする。
子供特有のぷにぷにとしたこの肌の感触は、大きくなってしまってからでは味わえない、貴重な物だろう。
勿論、肉体が成長した後の、筋肉と脂肪が適度に付いた、柔らかくも張りのある、むちっとした触り心地も実に素晴らしい物だと思う。
けど、これはこれで悪くない。
そうやって右手で太ももを堪能しながら、左手を別な場所に伸ばす。
(成長した後にあんな大きな物を抱えるとなると、こんなに小さな頃からもう、その片鱗があるんだな)
「ぁ……創太、さん……」
まだ膨らみかけの幼い胸を、左手でまさぐる。
触ってみれば、小さいながらもその存在をしっかりと主張する柔らかさがあり、将来性を感じさせる。
見た目を変えているだけで、中身は同じキヨメさんだとわかってはいるのだが、視覚情報ってのは重要だ。
頭の中では理解出来ていても、こうしているとやっぱりどうしても、幼い子にイタズラをしている様な、悪い事をしている気分になってくる。
同時に、キヨメさんはそれをしても許される相手だと頭ではわかっているので、その形だけの薄っぺらな罪悪感が単純に興奮を増すスパイスとなり、俺をより高ぶらせる。
「キヨメさん……」
我慢が出来なくなってきた。
キヨメさんのスカートをゆっくりとめくり始める。
そして――
「いてっ!」「はぐっ!」
突如、ガンッ、と頭に強い衝撃を感じた。
キヨメさんの頭頂部に顎がぶつかる。
「…………ん?」
そして、ふと今の状況に気付いて、血の気が引く。
「お、おお……」
(俺今何やってた!?)
「まさかっ」
キヨメさんの頬を両側から掴んで上を向かせる。
「キヨメさん……もしかして俺に……」
「……てへっ」
「ふんっ!」
「ごへっ!」
ヘッドバッドをかます。
「俺に催眠かけるとはいい度胸じゃねぇか……」
「いたた……。違いますよ、催眠なんてかけてません」
「え?」
「使ったのはバレない様微弱に抑えた、催淫フェロモンです!」
「ふんっ!」
「がふっ!」
再度ヘッドバッド。
「キヨメさんにはまた説教が必要な様だな……」
「いたた……。これじゃ説教じゃなく体罰じゃないですかぁ……」
「うるさい!」
「それにぃ……」
「?」
ぬふふ、とムカつく笑顔を浮かべる。
「創太さんは私の事を絶対に嫌いにはならないんですよね? だったらこの程度、可愛いイタズラじゃないですか~」
「コイツ……」
どうやら色々とわからせてやる必要がある様だ。
「……一つ、覚えておけ」
「はい?」
「大切な相手だからこそ、より厳しく接したり。相手の為を思うからこそ、キツい仕置きをする事だってあるんだぞ?」
「…………え?」
都合のいい事に、催眠のおかげで誰に咎められる事も無い。
残り時間は本気でガッツリ説教をしたので、結局この時間のノートを写す事は出来なかった。