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才能と劣等感

 夕食時。


「「………………」」

「えぐ……うぅ……」


 俺と光は居間のテーブルで食事をしていて、キヨメさんは廊下で一人、段ボール箱をテーブル代わりに食事している。


「おにいちゃん……」

「わかってる。……ほら、キヨメさん。いい加減こっち来い。さっきから言ってるだろ? 俺別に怒ってないから」

「えうぅ……すびばせん……」


 首の吸入口から空気を抜いて、幼稚園児位のサイズになったキヨメさんが、一人寂しく泣きながらご飯を食べている。


「あれはそもそも俺が許可した事だったんだから、俺にも責任がある。キヨメさんだけのせいって訳じゃない」

「れもぉ……」

「いいから、ほら。そこでそんな辛気臭い顔で食べられたらこっちまで気が滅入る。早く来い。てか、命令だ。こっちに来て一緒に食え」

「う、うぅ……はいぃ……」


 頷いたのを確認すると、光が段ボール箱ごと料理を居間に引っ張ってきて、それからテーブルの上に茶碗や皿を一つずつ移し始める。

 結局触手騒ぎはキヨメさんの催眠能力を使って、その場にいた全員の記憶を消す事で誤魔化した。

 勿論撮影した写メ等もバッチリ消させた後に。


(にしても、少し驚いたな)


 駄目だと言っても勝手に学校まで付いてきたり、部室で待てって言ってるのにこっそり抜け出そうとしたり。

 いくら注意しても何かと騒ぎを起こすので、キヨメさんはてっきり人の言う事は一切聞かない、反省なんて言葉知らないタイプなのかと思いきや。

 放課後の触手の件では見ての通り、必要以上に反省していた。

 彼女の中の良い事悪い事を判断する基準がイマイチよくわからない。


「キヨメさん、おかわりいる?」

「はい、食べますぅ……」


 泣きながらも光にサッと差し出される空のご飯茶碗と味噌汁のお椀。

 ……やっぱりあんまり反省してないのかもしれないな。


「よくわかんない人だな、キヨメさんも……」

「え?」


 独り言のつもりだったけど聞こえていたらしく、キヨメさんがこちらを見る。


「昼間、勝手に学校来た事とかで怒った時はヘラヘラしてたのに、放課後の事は逆に、いくら俺が怒ってないって言っても聞かないし」

「それはぁ……」


 箸で食べかけのおかずをつつきながらポツリとつぶやく。


「怒られるのは良いですけど……これ以上嫌われるのは、嫌なんです……」

「怒られるのは良いって何だよ」


 本当にろくでもない。


「それに、キヨメさんを嫌う? 俺が? ……何を変な心配してるんだ。俺がそんな事でキヨメさんを嫌ったりする訳が……」


(あれ?)


 違う。

 キヨメさんは今、ただ嫌われたくないって言ったんじゃない。


「キヨメさん。『これ以上』嫌われるのは嫌って、どういう事だ?」

「あ」


 しまった、という顔をする。

 これ以上って事はつまり……今既に、俺が多少なりともキヨメさんを嫌っているって言い方。


「……俺は、キヨメさんの事嫌ってなんか……無いぞ?」


 実際、嫌ってるつもりなんて無い。

 本当に。

 でも……。


(何だ? この心のモヤモヤは……)


 嫌っていない筈、なのに、キヨメさんの言葉を笑い飛ばす事が不思議と出来ない。


「………………」


 キヨメさんが、何も言わずにジッと俺の目を見つめる。


「…………ごちそうさま」


 その視線から逃げる様に座布団から立ち上がる。


「あれ、おにいちゃん?」


 キヨメさんのおかわりを持ってきた光が不思議そうな顔をする。


「ごちそうさま、光。俺、部屋に戻るから」

「う、うん」


 突然の俺の行動に不思議そうな顔をするが、深くは聞いてこない。

 俺はそのまま、逃げる様に居間を出て自分の部屋に戻った。







「…………嫌ってる、か」


 自室の畳に寝転んで、天井を見上げる。

 さっきキヨメさんに言われた事を思いだしていた。


「…………別にそんな事……」


 ……無い、筈だ。

 無い筈。

 でも、だったら何でキヨメさんはあんな事を?

 そして、俺もどうしてあんなに動揺してしまったんだ?


「俺は……」



 トン、トン



 部屋の戸がノックされた。


「………………ノックだけ?」


 ノックの後、少し待ってみたけど戸は閉まったまま。

 光の場合、ノックをした後すぐ声をかけてくるので違う。


(とすると……)


「どうぞ」


 スーッと、戸が引かれる。


「あの……失礼します」


 予想通り、ノックの主はキヨメさんだった。

 あの後首の後ろから空気を入れたらしく、外見年齢が幼稚園児位から高校生位へと変わっている。


「少し、宜しいですか?」

「あぁ」


 上半身を起こす。


「先程は、妙な事を言ってしまい申し訳ありませんでした」

「いや、こっちこそ悪い」


 キヨメさんに頭を下げる。


(あ)


 しまった。

 頭を下げて謝ったって事は。

 俺がやっぱり、キヨメさんを嫌っているという事になる。


(いや)


 違う。

 それは違う。

 断言出来る。


(だったら、何だ?)


 俺がキヨメさんに対して後ろめたく思ってしまっているこの気持ちは、何だ?


(嫌いとは違う。この気持ちは……)


「苦手……意識」


(え?)


 苦手意識。

 その言葉が自然と口から出た。

 そして、口に出すとその言葉がとてもしっくりきた。

 嫌ってなんかいない。

 けど、そうだ。

 俺はキヨメさんに対して、苦手意識を感じている。


「…………苦手意識……ですか……」


 キヨメさんがそれを聞いて、寂しそうに微笑む。

 そりゃそうだ。

 嫌っていると言うのとこれじゃ変わらない。

 そしてキヨメさんの表情を見ると、こっちまで申し訳ない気持ちになる。


「違う、違うんだ。聞いてくれ。勘違いするなよ? キヨメさんの事を嫌ってる訳じゃないんだ、本当に。そういう気持ちは全く無い」

「はい……」

「…………ただ、ちょっとだけ……その……」


 ふとした瞬間に、思ってしまう。

 気まずさみたいな、そういうザワザワとした落ち着かない気持ちを、キヨメさんに対して抱いてしまう。


「………………」


 勿論そんな事、直接本人に言える訳が無い。

 けど、だからと言ってキヨメさんに、本音を隠した嘘もつきたくない。

 そうなると、何も口に出せなくなる。


「……………………」

「……………………」


 沈黙。

 沈黙が続く。


「……違う」

「え?」


 その沈黙が嫌で、口から勝手に言葉が出てしまう。


「違う。そう、違うんだ。嫌ってる訳じゃないんだ。キヨメさんの事は……」

「………………」

「嫌ってなんか、無いんだ……」


 けど、何も考えず咄嗟に出した言葉は薄っぺらく、さっきと同じ内容を繰り返し言うだけ。

 重ねた言葉がその場しのぎの嘘の様に響く。

 けど、本当なんだ。

 俺はキヨメさんを嫌ってなんかいないんだ、本当に。


(何を俺は焦っている?)


 心がざわつく。

 キヨメさんのその寂しげな表情を見ると、何か言ってあげたくなる。

 キヨメさんに、俺がキヨメさんを嫌っていると思ってほしくない。 

 キヨメさんは色々と俺を怒らせたり迷惑をかけてくるけど。

 それで彼女を嫌ったりなんかしない。

 あぁ、そうだ。

 そんな事が嫌う理由にならない位には、彼女は俺にとって大切な人になり始めている。

 嫌っていると思って欲しくないと、辛そうな顔をして欲しくないと、そう思ってしまう位には、大切な人になり始めているんだ。


(……会ってまだ一日だけどな)


 俺もチョロい男だ。


「だから……」


 だから、言わなければいけないだろう……。


「聞いて欲しい……」


 俺が……。


「俺が、どうしてキヨメさんにそういう、苦手意識みたいな物を抱いてしまうのか」


 キヨメさんとしっかり目を合わせる。


「キヨメさんの事を嫌ってなんかいない。これは本当だ。だから、聞いてくれ。俺がどうしてキヨメさんを不安にさせる様な態度を取ってしまうのか。…………キヨメさんに言われるまで、自覚すらしていなかったんだ。自分がキヨメさんに対して苦手意識を持っていただなんて……」

「………………」

「俺が自覚していたのは、いつの間にかキヨメさんが俺にとって、とても大切な人の一人になっていたという事だけだ」

「え?」

「笑えるよな。たった一日しか一緒に過ごしていないキヨメさんの事をだぞ? いくら怒らされようと迷惑かけられようと、どうせ嫌いになんてなれないと断言出来てしまう位、大切に思える様になっていたんだ」

「えっ……ええぇぇええええ!?」

「だから、俺はキヨメさんに俺から嫌われているだなんて思って欲しくない。そんな勘違い、して欲しくないんだ。だってそうだろ? キヨメさんの事を俺が嫌うだなんて、まず絶対にあり得ない事なんだから」

「あ、ああ……あり、あり得ない事、なんですか!?」

「あぁ、あり得ない。絶対に、あり得ない」


 力強く断言する。


「そして俺は、それ位大切に思っているキヨメさんに、そんな寂しそうな顔をして欲しくない。辛そうな顔をして欲しくない。俺はキヨメさんに、いつも笑って、幸せそうな顔をしていて欲しいと思ってる。初めて会った時に俺を見て浮かべてくれた、あの笑顔。俺はキヨメさんに、あぁいう表情をいつもしていられる様な生活を送らせてあげたいんだ。……そんな事を考えてしまう位、俺はキヨメさんの事を大切に思っている」

「ええぇぇ!? いや、その……ええぇぇええ!?」


 これが俺の本音。

 頭に浮かんだ思いをそのまま口にしただけなので、まとまってなくてぐちゃぐちゃだ。

 俺の言いたい事が、これでどの程度伝わるかはわからないが。


「…………え……えぇーと……」


 キヨメさんが、顔を赤くしながら上目遣いで言ってくる。


「あ、あの……」

「ん?」

「そ、それはその、つまり……。私に対しての、こ、告白……なんでしょうか?」

「は? ちげぇよ全然。どこがだよ」

「ええぇぇ!?」


 やっぱり俺の言いたい事は伝わらなかったらしい。

 残念だ。

 今のどこが告白なのか。

 意味がわからない。


「そ、そうなんですか!? いや、だって今のどう聞いたって……ええぇぇええ~……?」


 その後もぶつぶつとしばらく独り言を呟いた後。


「その……はい。何というか、ぬか喜びさせられたというか、多少ショックな気もしますけど……。とりあえず、創太さんのお気持ちはともかく、おっしゃりたい事はわかりました。何て言うか……えと、嬉しいです、はい……」

「?」


 やっぱり伝わっていない。

 嫌ってはいないと言っただけで、苦手意識を抱いているのには変わらない。

 なのに何故嬉しいと思えるのか。


「では、教えて下さい。創太さんが、何故私に対してその様な苦手意識を抱いてしまうのか」

「……あぁ」


 頷く。

 そう、これはキヨメさんには言っておかなければいけない話。


「正直……かなりダサくて格好悪い話だから、あまり人に話したくはないんだけどな。……キヨメさんには話しておきたいんだ。キヨメさんを誤解させたままにしておきたくないから」

「大丈夫ですよ、創太さん」


 キヨメさんが笑う。


「人に話し辛い内容でも、私は人じゃなくて性具ですから。遠慮せずにどうぞ」

「馬鹿。上手い事言ったつもりかよ」


 キヨメさんの額を軽くつついて、俺も笑う。


「じゃ、聞いてもらうとするかな」

「はい」

「これは、今よりちょっと昔の話なんだけど……」




      *




 実は、幼い頃は俺も他の家族達みたいに発明を楽しんでいた。

 俺が他の家族達と比べて才能が劣っていたのは事実だけど、それでも普通の人達に比べれば、自分で言うのもなんだが比較にならない程の才能があった。

 だからそういう事は全然気にならず、毎日研究室にこもってあれこれと作っては、家族達に見せてはしゃいでいた。

 そんなある日、俺はテレビの巨大ロボットアニメにはまった。

 強くて格好いい、無敵の巨大ロボット。

 それを見て俺は、そういう物を自分でも作りたいと思った。

 そして、アニメに出てくる物に比べればずっと小さいものの、一体のロボットを作り上げた。

 小さい代わりに人工知能を搭載させて、呼べば来る、操縦なんてしなくても命令すればそれだけで動く、そんなロボットを。

 家族に見せると皆喜んで褒めてくれて、当時は仲が良かった光の姉の日和にも自慢した。

 日和はそのロボットを見ると、すごいすごいと何度も笑顔で言ってくれて、俺はそれを聞いて得意になった。

 更に俺の自慢相手は家族だけに収まらず、ロボットを外に連れ出して、近所の人達に見せびらかしたりもした。

 どうだ、凄いだろう、と。

 そうやって発明家としての実力を周りに見せつけて、調子に乗っていたのだ。

 そんなある日。

 日和の家で何枚かの設計図を見つけた。

 日和も俺同様色々な物を発明していたので、その時の俺は単純に日和が何を作ろうとしていたのか気になって、その設計図を見てみた。

 そして、ショックを受けた。

 何故ならそれは、俺の作った物よりずっと大きくて出来の良い、本当の意味での巨大ロボットの設計図だったからだ。

 しかもその設計図には、細かな部分を日和の両親や俺の両親なんかに相談した、書き込みの跡もあった。

 つまり、だ。

 俺が自分の作ったちゃちなロボットを自慢してはしゃいでいた時。

 日和は俺の事を褒めながら、裏ではそんな物よりもっとずっと高度な物を作ろうとしていたのだ。

 そして家族達も、俺の作った物を表面上褒めはしていたが、実は裏で同じ歳の日和がもっと凄い物を作ろうとしていた事を知っていた。

 それを知ってしまった俺は、恥ずかしさと自分の才能の無さにショックを受けて、発明を止めた。

 理由はそれだけじゃない。

 他の家族達と自分との考え方の違いに気付き、ショックを受けたのもあった。

 あの人達は、自分の作った物を一々自慢なんてしない。

 名誉や名声なんかに一切の興味を持たない。

 人なんてどうでもよくて、ただ発明する事そのものを楽しんでいる。

 作った物を人に見せて、褒めて貰いたがる俺とは根本的な所が違う。

 それに気付いてしまうと、もう駄目だった

 日和が自分の作ろうとしていた物を俺に隠していた事に、きっと深い意味なんて無い。

 むしろ本人は隠していたつもりも無かっただろう。

 他の家族達も同じ。

 黙っていたのではなく、言う必要性を感じていなかっただけ。

 人が何を作ろうと自分の作る物には関係無い。

 彼らにとってはそういう話。

 彼らは俺の劣った才能を決して見下したりはしていなかった。

 俺を褒めていた時は、本当に心から褒めてくれていたんだろう。

 才能が無い俺が、才能が無いなりに頑張っている、と。

 馬鹿にされていた訳じゃない。

 けど、馬鹿にされているよりも酷い。

 対等の存在として見られていなかった。

 そういう風に考える様になると、発明どころか、家族達と顔を会わせる事自体が苦痛になった。

 だから俺は、家族達が海外に移住すると聞いた時、そのまま日本に残る事にした。

 逃げたかったんだ。

 家族達からも、発明からも、全てから。




      *




「…………そういう話だ」

「………………」


 話し終えるとキヨメさんが、話の内容は理解出来たが、それと俺がキヨメさんに苦手意識を持つ事がどう繋がるのかわからないという顔で俺を見る。


「…………キヨメさんさぁ」

「ひゃん」


 キヨメさんの柔らかい頬をつつく。


「顔とか体型の基礎構造が、どことなく日和に似てるんだよ」


 最初会った時の、妙な既視感みたいな違和感はそのせいだ。

 これが偶然という事は無いだろう。

 キヨメさんを作る時、日和は自分の体を基礎にして、この姿をデザインしたんだと思う。

 そこにどんな意味があるのかはわからないが。


「キヨメさんを見ていると、つい日和の事を思い出して、自分が逃げ出した発明の事とか、日和の才能の事を思い出しちまうんだ。多分、キヨメさんが俺に嫌われてるって感じたのは、それが原因だと思う」


 そして、部長同様、キヨメさんの姿に日和の凄さを思い知らされて辛くなったのもある。

 部長に対してあんな事言ったくせに、実際のところは俺自身も全然割り切れてなんかいなかったんだ。


「創太さん……」

「だからキヨメさんは何一つ悪くない。全部、俺自身の弱さのせいだったんだ」


 頭を下げる。


「辛い思いさせて、本当にすまなかった」

「そ、そんな事! 顔を上げて下さい!」


 慌てる様に手を振るキヨメさん。


「それにそんなの……そんなの私の方こそ……。それでしたら、私――」

「戻るだなんて言わないでくれよ? 日和のとこに」

「ふぇ?」


 むにゅ、とキヨメさんの頬を片手で優しくつまむ。


「言っただろ? もうキヨメさんは俺にとって、光達同様、大切な家族の一人なんだ。なのに――」

「ふえぇぇぇぇええええええええ!?」

「!?」

「ひゃ、ひゃいへひゅっひぇ、ひゃひょひゅひょひへへひゅひゃ!?」

「?」

 

 何言ってるのかサッパリわからないけど、俺の言葉の何かに驚いた様だ。


「……何言ってるのかわからないけど、そういう事だ。だから今更家を出るだなんて言われたら、困る。…………キヨメさんが居なくなったら寂しいだろ、俺が」


 更にもう片方の手も使い、両側から頬をつまんで軽く引く。


「だから、さ。そんな事言わないで、居てくれよ。これからもずっと、この家に。家族としてさ」

「ひょ、ひょうひゃひゃん……」


 熱を測るみたいに、キヨメさんの額に自分の額をコツンと当てる。


「……ありがとな、キヨメさん」

「ひぇ?」

「今の話、聞いてもらえて少し気が楽になった。それだけで完全に気持ちを切り替えられる様になったかと言ったら、また違う話だけど。少なくとも、キヨメさんに対しては普通に接する事が出来る様になったと思う。だから、明日からはもう、今日までみたいな態度はとらない」


 元々無意識にとってしまっていた態度なんだから、そんな事断言出来る筈なんて無いのに。

 不思議と言い切る事が出来た。


「ひょうひゃひゃん!」

「そして……」


 ギュウっと頬を強く引っ張る。


「いひゃいいひゃいいひゃい! いひゃいれす!!!!」

「……人が真面目な話をしてるっていうのに、その恰好はどういうつもりなんだ? おい」


 途中で気付いてはいたが、あえて突っ込まずにおいた。

 けど、話も一区切りついたし、もういいだろう。

 俺が話をしている間に、いつの間にかキヨメさんは、黒のマイクロビキニに二ーソックスだけという、どこまでも意味不明で頭の悪い恰好に変わっていたのだ。


「ひゃ、ひゃっへ!」


 俺の手から逃れてキヨメさんが叫ぶ。


「私てっきり、これは好感度が上がったCG回収&ルート確定イベントが発生したんだと!」

「言ってる意味がさっぱりわからんし、そもそもそれとその恰好にどんな関係があるんだよ」

「え!? そ、それはですから、その……流れに乗って興奮しやすい様に……ちょっとしたおめかしを……」


 馬鹿じゃねぇのこいつ。


「どこの世界にマイクロビキニに二ーソックス履かせて興奮する馬鹿が居るんだよ!」

「ここに居るじゃないですか!」

「はぁ!?」


 何の根拠があって俺をそんな変態性癖の持ち主と決めつけたこいつ!?


「私です!」

「お前かよ!」


 背中を痛くない程度に叩く。


「ひゃんっ」

「ほらほら、話はもうおしまいだ。部屋出てけ」

「ちょ、ちょっと待って下さい! イベント! イベント回収を!」

「うるさい!」


 スパーン、と戸を閉めて部屋から追い出した。


「ふぅ……」


 とは言え、戸には鍵なんか付いてないので、戻って来ようと思えば簡単に戻って来れる。

 けれど、空気を読んだのかキヨメさんはそのまま自分の部屋に戻ったみたいだ。


「……はぁ」


 言っちまったな。

 この秘密を喋った相手なんて、片手の指でも余る位しかいないのに。


「けど……」


 言って良かったと思う。

 本当に少しだけ、だけど。

 気が楽になった。

 流石にこれだけで発明をまたするとかそういう気持ちにはならないけれど。

 それでも、大分気持ちが整理出来た。

 いつか、この事を日和本人にも打ち明けられる様になれれば良いなと思う。


「今はまだ無理だけど……いずれ、きっと……な」

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