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てんたくるマッサージ

 放課後になり、部長と一緒にキヨメさんを迎えに行くと物凄く怒っていた。


「酷いですよ創太さん!」

「仕方ないだろ? キヨメさん鍵開けておいたら勝手に出るんだから」

「けど! まさかお昼の間もずっと部室に放置されるとは思いませんでしたよ! お昼ご飯!」

「昼飯? 部室にお菓子とかなんか食べ物あっただろ? それに冷蔵庫にも色々入ってた筈だけど」

「ありましたけど! ……そんなの勝手に食べる訳にはいかないじゃないですか」

「食べてよかったのに。妙なところ真面目だよなキヨメさん」

「う~……」

「ごめんねキヨメちゃん。私が気付いてあげればよかった」

「……いえ、部長さんは悪くないです。酷いのは私の持ち主であり、管理責任のある創太さんです」


 とりあえず今はこれで我慢してくれと渡したチョコを食べながら、ぷりぷりと怒っている。

 半日あそこに居た間に気持ちの整理がついたらしい。

 部長への態度が普通に戻っていた事にホッとする。


「ところで、俺達が付き合う用事って何ですか?」

「あぁ、それは」


 三人でグラウンドに出る。


「言ったでしょ? 本当に大した事じゃないのよ。ただ、折角だからキヨメちゃんの機能何か見せて欲しいなって思っただけ。こんな機会そうそう無いし」

「キヨメさんの機能ですか」

「そう。何か面白いの無いの?」

「そうですね……」


 と言われても、俺もキヨメさんにどんな機能があるのかあまり詳しくない。


「キヨメさん」

「はい?」


 本人に直接聞いてみる事にする。


「あれ? 榊原じゃん。こんなとこで何やってんの?」


 すると、聞こうとしたところで陸上部の女子生徒が部長の元へと駆け寄ってきた。

 親しげな態度を見ると、部長と同じ二年生の先輩っぽい。


「可愛いモルモット……げーっと」


 部長が悪い顔をする。 


「……キヨメちゃん。あの子に対して何か今パパッと出来る事無い?」


 小声で部長がキヨメさんに聞く。


「そうですねぇ……」

「あまり突飛な事はするなよ? 出来るだけ普通っぽい事を選べ」

「えー」


 部長が不満そうな声を出すが、ここでフェロモンだの催眠だの使われちゃたまったもんじゃない。


「えと、それなら……マッサージとかどうですか?」

「マッサージ……?」


 部長が首を傾げる。


「マッサージって……普通じゃない?」


 確かに俺も普通に感じる。

 けど、キヨメさんは生体性具なんだ。

 そう考えると、マッサージだけでも十分凄そうだ。


「よし、じゃあそのマッサージで」

「はいっ、創太さん」

「マッサージ……」


 部長が残念そうに言うが、これ位で勘弁してほしい。


「え、ちょ、何この子! すんごい美人! ちょっと榊原! 誰この子!?」


 自分がこれから何をされるのかも知らずに、興奮した声で部長の肩を揺さぶる陸上部の先輩さん。


(すみません……名も知らぬ先輩さん)


 キヨメさんのマッサージがどんな物なのかは知らないが。

 今のうちに心の中で謝っておいた。







「ん、ぁ……はぁ! んんっ……!」

「これは中々……凄いわね」


 部長が興味深々な顔で観察する。

 グラウンドの隅の芝生で、うつぶせになった女子生徒の上にまたがり、キヨメさんがマッサージをしている。


「如何でしょうか?」


 グッ、グッ、グッ、と指に力を込めながら聞く。


「はぁぁ……んぁぁ……」


 返事は無い。

 けれど、とろんとした目でよだれをダラダラ垂らしている顔を見れば、一目瞭然だろう。

 気持ちいいらしい。

 それも、かなり。


「これ、売れるんじゃないかしら?」

「……やめてあげて下さい」


 部長がろくでもない事を言いながら携帯の写メを撮ろうとしていたので、止めておく。


「ちょっと狭間ー、あんた何部活サボって楽しそうな事してんのよ」

「てかうわ、きたな! 何その涎!?」


 すると、俺達が何をやっているのか気になったらしく、他の陸上部の部員達もこちらに集まって来た。


「て、えぇ!? だ、誰よこの子!?」

「凄く綺麗……」


 そして、キヨメさんの姿を見て驚いている。


「ちょっと狭間! 誰よこの美人!」

「……聞いてる? 狭間」

「あ、えぇ……んんっ……へぇ」


 けど、狭間先輩(と言うらしい)は、返事も出来ずにただ涙目でひくひくしている。

 まぁ、この人も巻き込まれただけでキヨメさんの事は知らないので、聞かれても答えようがないだろうけど。


「ねぇ、そのマッサージそんなに気持ちいいの?」

「……あいぃ……。やぁいれす……すぉいれす……」


 日本語じゃない。

 けど、とにかく気持ちいいのだという事は伝わる。

 それを見て気になったのか、他の部員達がキヨメさんに聞いてくる。


「あのさ。ねぇねぇ、あなた名前何て言うの?」

「はい? 私ですか? 私は……」

「良かったらさ、それ。私達にもやってくれないかな?」

「え? えと……」


 周りに集まった人達を見て、困った顔をする。


「あの、こんなに沢山一度には……」

「あはは、別に一度にやれとは言わないからさ。順番で良いから、順番で。頼める?」

「はーいはい! なら次あたしね!」

「はぁ? 何言ってんの? じゃんけんでしょ?」


 揉める、という程でもないが、順番をどうするのか騒がしく相談し始める。

 そもそもキヨメさんはまだOKを出していないのだが……。


「創太さん……」


 これはもう、しないでは済ませられないだろう。


「手間じゃなければやってあげてくれ、マッサージ」

「全員ですか?」

「あー……そうだな。まぁ、全員にしてあげられるならしてあげるに越した事は無いけど、そこまで無理しなくても、適当に疲れるまでで良いと思うぞ」

「わかりました」


 コクリと頷く。


(…………?)


 ぶるっ、と一瞬震えが来た。

 ……何故だろうか。

 何か、とてつもなく嫌な予感がした。



「では、全員にするのであれば手の数が足りないので、触手を使う事にします」



「は?」


 次の瞬間。


「SNEGスキル、『万能エロ触手』!」


 キヨメさんの背中から何十本もの触手が伸びてきて、部員達を次々絡め取り始めた。


「な、何してるんだ! キヨメさん!」

「何これ!? 凄いじゃない!」


 焦る俺。


「これよこれ! こういうのを見たかったのよ!」


 部長は呑気に、驚きつつも意外な展開に喜んでいる。


「きゃぁぁああ!」「な、何これ!? 助けて!」


 辺りに響き渡る、陸上部員達の悲鳴。


「ああぁぁ……ぁあ、ん……」「たすけ……ぁ、ちょっと……ゃ」


 ……悲鳴?


「何これ……気持ち悪いのに……気持ちいぃ」

「あ、ちょ、こら駄目、そこは入っちゃ……あぁんっ」

「はぁ……んっ、ぁ」


 何かを想起させる赤黒い色をした、デコボコと気味の悪い凹凸の付いた触手は、表面に薄っすらと濁った色をした半透明の粘液を纏わせながら、ガッチリと陸上部員達を捕えている。

 着ているジャージや体操着は締め付けられ、傍目から見ているこっちとしては苦しそうに見えるのだが、やられている本人達は特に辛くはないらしい。

 辛いどころか、むしろ……。


「って、だからって放っておく訳にはいかないよな」


 触手を外す為に一番近くに居た部員の元へと駆け寄る。


「大丈夫ですか!? 今外しますから! ……ん……んん!? な、何だこれ!? 凄い滑るぞ!?」


 だが、触手の表面はローションを塗った様にぬるぬると滑って、外すどころかまともに掴む事すら出来ない。


「掴めないぞこれ!」

「どうですか? 創太さん。この触手から分泌されている特殊粘液は、あらゆる物質をぬるぬると滑らせて、絶対に掴む事が出来ない様にしてしまうんです」

「何だよそれ!」


 凄いけど、ウザい。


「触れた物はそれこそ刃物すらも滑らせて切断出来ない様にしてしまう程なので、素手で掴むのはまず無理でしょう。その気になればこの粘液は、触手に直接接触する物全てを滑らせてしまう事が出来ます」

「アホか!」

「更に、この粘液は私の好きな様に量や質を調整できるので、捕獲した相手に対して必要に応じて、滑らせたり、時には粘着させたりする事で、絶対に抜けられない様にする事が出来ます」


 部員達が触手から滑り落ちないのはその為か。


「てか、お前が自由に弄れるなら早く掴める様にしろよ!」

「あはは、凄いわねキヨメちゃん! 最高よ!」


 部長は目をキラキラさせて喜んでるけど、笑い事じゃないぞこれ。


「そして更に、快感が足りなければこの触手は先端を、吸いつく吸引型、絡みつくイソギンチャク型、挿入する卑猥な亀の頭型。そしてコアな趣味の方用の丸呑み大口型等々、様々な形に変化させる事で相手を喜ばせることが出来ます」


 自慢げに言うキヨメさんの顔がクッソウザい。


「お、おい! 何だあれ!?」

「化け物だ!」

「うぉ、すげぇ! 携帯携帯!」

「何かエロいな……」


 そしてこの騒ぎを見て、グラウンドで部活動をしていた他の生徒達までどんどん集まってくる。


(マズいマズいマズいマズい!)


「キヨメさん!」

「はいっ、創太さん!」


 この馬鹿は、何で褒めて貰えると期待した顔で俺を見るんだろうか?


「今すぐ全員をほどけ!」

「え? 何でですか?」

「当たり前だろ馬鹿野郎! 見ろよこの騒ぎ! 洒落になってないぞ!」

「で、でも、マッサージがまだ終わってないですよ?」

「んなもんしなくていい! てか、これのどこがマッサージだ!」

「マッサージですよ、ほら」


 触手で絡めた一人を俺の近くまで運んできて、何をやっているのか見せてくる。


「ふ、ん……ぁん」


 エロい。


(……じゃなくて!)


 首を振って気を取り直しよく見てみると、確かにただ触手を巻きつけて変な事をしている訳ではなく、触手表面のデコボコを大きくしたり小さくしたり、まるで指圧をするみたいに動かして、部員達の全身を揉みほぐしていた。

 どうやらキヨメさん的には本気でこれでマッサージをしているつもりらしい。

 それはわかった。

 けど、だ。


「ちゃんとマッサージをしてるのはわかった。けど、このやり方は駄目だ。目立ち過ぎる。今すぐやめろ」

「あの……でも……」

「や め る ん だ」

「…………はい」


 ちゃんと説明するとわかってくれたみたいで、反省した顔になり皆を降ろす。


「さて……」


 なんて光景だよ、おい。

 降ろされた部員達は全身粘液まみれでぐちゃどろねっとねと。

 彼女達以外にも、集まってきた生徒達は皆大騒ぎで中には写メを撮っている者もいる。


「どうしたもんかな……」


 頭に手を当てて、この騒ぎをどう収めるか考えながら、ため息をついた。

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