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発明同好会の長、榊原部長

 校舎内に戻ると次の授業が始まっていたので、廊下は静かだった。

 人目につかないのはいいが、また授業をサボる羽目になった。


「部室ですか?」

「そうだ。さっきの同好会の部室で待ってろ。放課後になったら迎えに行くから。それまで一歩も外に出るなよ?」

「はい。……ところで、どうして同好『会』なのに、部屋の呼び方が『部』室なんですか?」

「どうでもいいだろそんな事」


 ガラガラ、と部室の扉を開く。


「お」

「えぇ!?」


 キヨメさんがギョッとした顔をして驚く。

 部室の中がぐっちゃぐちゃに荒れていたのだ。


「ど、泥棒ですか!?」

「いや、違う」


 平然と答えて部室に足を踏み入れる。


「あ」


 そこでキヨメさんも気付く。

 足元をガショイン、ガショイン、と音を立てて歩く、多足歩行の小さな機械に。


「これは……」

「シッ」


 指を立てて一旦黙らせる。

 先に調べておく事があるのだ。



 パリ、パリ



 部室の奥に目をやると、パソコンの前で軽い音を立てながらスナック菓子を食べている、一人の少女の姿がある。

 長めのサイドテールを揺らしながら、手ではなく箸でポテトチップスを食べている。


(これなら大丈夫そうだな)


 ポテトチップスの食べ方で彼女の機嫌が計れるのだ。

 箸で食べている時は、普通、もしくは良好。

 何の心配も無い。

 素手で食べている時は、少しイラついていたり、少し不機嫌。

 話しかける時は多少注意が必要。

 袋の上から中身をバリバリ潰してザザッと流し込む様に食べている時は、最高に不機嫌、ストレスマックス。

 絶対に近寄ってはいけない。

 そして今は箸で食べているので、機嫌が悪くない、話しかけても大丈夫という事だ。


「部長」


 少女に声をかける。


「んー?」


 箸を口にくわえたままこちらを見る。


「どうもです」

「平賀じゃん」


 目が合った瞬間、猫みたいにくりっとした目元を細くして、叱責する口調で言ってくる。


「今授業中でしょ? 何サボってんのよ」

「お互い様じゃないですか」

「私は良いのよ、二年だから。でも平賀はまだ入りたての一年でしょ? そんな時期から教師に目を付けられる様な事したら、後から大変よ?」

「それは経験則からですか?」

「うっさい」


 未開封のポテトチップスを投げつけてくる。

 それを俺がキャッチすると「食べていいわよ」とだけ言って、またパソコンの画面を見る。


「あの……」


 キヨメさんが困った顔で俺をつつく。


「あぁ、わかってる」


 やっぱりキヨメさんの存在に気付かなかったか。

 この人はとにかく視界が狭い。

 興味の無い物は見ないというより、興味のある物しか見ない。


「部長」


 再度呼ぶ。


「何よ」


 キヨメさんの肩を掴んで俺の前に立たせる。


「この子、ちょっと見て下さい」

「この子って…………へ?」


 からん、と手に持っていた箸を落とす。


「な…………何その……誰その美人」


(おぉ)


 流石の部長もキヨメさんには驚いたらしい。


「彼女は……」


 一瞬どうしようか迷ったが。


「日和の作った人造人間です」


 正直に言う事にした。


「「え!?」」


 部長とキヨメさんが、別々の意味で驚きの声をあげる。


「ば、バラしちゃうんですか!?」

「あぁ。大丈夫だよ、この人には言っても」

「人造……人間」


 部長が座っていた椅子を回してこちらを向く。


「詳しい話、聞かせてもらえる?」







「なるほど……」


 俺からの説明を聞いた後、キヨメさんの事をジッと見ながら部長が頷く。


「キヨメちゃん、だったわよね」

「あ、はい」


 ニコリと微笑みながら部長が自己紹介をする。


「私はこの発明同会の部長をやってる、榊原よ。宜しくね」

「はい、宜しくお願いします。部長さん」


 頭を下げるキヨメさん。

 榊原部長は二年生なので、俺にとっては一つ上の先輩になる。

 同好会なのに会長ではなく部長という呼び方をさせるのは、すぐに部に昇格するつもりなのだという意思表示らしい。


「疑わないんですね、部長」

「何を?」

「キヨメさんの事です。人造人間だなんて言われて、はいそうですかとはならないでしょう普通」

「なるわよ。平賀がそんな意味の無い嘘をつくとは思わないし、何よりこの容姿よ? たまたま知り合った美人を部室に連れてきましたっていうよりよっぽど信憑性があるわ。それに……」


 箸をカチカチと鳴らす。


「『あの』杉田日和が作ったというなら、頷ける」


 そうだろう。

 日和は今までに、もっと凄い物をいくらでも作っている。

 その日和が作ったと言うなら、疑うまでもない。


「ところで、キヨメちゃん」

「はい」


 部長がキヨメさんのお腹の辺りを見ながら言う。


「キヨメちゃんには、子宮や妊娠する機能はあるの?」

「えぇ!?」

「ぶふっ!」


 真っ赤になるキヨメさん、そして思わず吹き出す俺。


「な、何聞いてるんですか!」

「? 平賀まだ聞いてなかったの? これって結構重要な事よ? 知らずに使って、ある日突然妊娠されても困るでしょ?」

「つ、使ってって部長! そ、そんな、俺は……!」

「わ、私の機能としては……一応……はい、あります……。妊娠出来ます……」


 出来るんだ!?


「あ、で、でも! 創太さんが避妊せずとも、私の場合自分で精子を遮断して卵子と受精しない様にコントロール出来ますので!」

「そんな事言わなくていい!」

「なるほどねー……ふんふん。じゃあ次。キヨメちゃんて、マニアックなプレイに対応出来る様にぼに――」

「質問タイム終わりです!」


 キヨメさんの耳を塞ぐ。


「そうなの? 残念ね……」


 あまり残念そうに見えない様子で首を竦める。


「…………」


 すると、部長が一瞬ふっと切なげな表情になり、足元を歩いていた機械を拾い上げる。


「? どうしました?」

「え? ……ううん。別に何でもないわ」


 俺が聞いた時にはもう表情は元に戻っていたが、あれは絶対に気のせいなんかじゃない。

 気になる。


「何も無い事は無いでしょう。そんな顔をして」

「……目ざといわね、平賀」


 はぁ、とため息をつく。


「こんな事、人と一々比較したって仕方ないのはわかってるのよ、私だって」

「?」

「けどさ。こんなの見せられちゃうと、やっぱり少しは考えちゃうのよ。杉田日和は私とほぼ変わらない年齢どころか、一つだけど年下な訳だし」

「あ……」

「?」


 キヨメさんがよくわからないと言う顔で俺を見る。


「………………」


 けど、俺にはわかった。

 部長の手に持った機械は、指定された到着点に向かって障害物を乗り越えながら歩き、障害物を乗り越えられない場合は自分で判断して迂回し、別ルートから到着点へ向かう、というプログラムで動く物だ。

 部屋がぐちゃぐちゃなのは、その動作をテストする為。

 安定感の無い障害物を乗り越えようとした時に足場が崩れて倒れたり、障害物が崖の様になっていた場合、坂になっている方から上った後崖みたいになっている方からそのまま落下して倒れたり、まだまだ調整が必要らしい。

 そんな物をほぼ独学で作ろうとしているのは、十分に凄い事だと思う。

 けれど、そういう物を頑張って作ろうとしている時にこのキヨメさんの姿を見てしまえば、色々と馬鹿らしくなってしまう気持ちもわかる。


「……あの……」


 ……何と言えばいいのか。

 キヨメさんをここに連れてきたのは、失敗だったかもしれない。


「……ったく」


 部長が苦笑する。


「だから何でもないって言ったじゃない、私。いい? 平賀。そういう時、例え気付いたとしても空気を読んで、時にはあえて気付かない振りをする事も必要よ」

「……すいません」


 部長のおっしゃる通り、ごもっとも。


「けど部長」

「え?」


 そう、けど、だ。

 フォローじゃないけど、一応部長に言っておく。


「本当に気にする必要は無いですよ」

「どういう事?」


 ポテトチップスの袋を手に取った部長が俺を見る。


「あの人達と俺達とでは、頭の出来の次元が違うんです。もう最初から、そういうもんだって割り切っちゃった方が楽ですよ」

「…………」


 部長がポテトチップスを手で何枚か取って、パリリッと食べる。


「……よく言うわよ。あの人達、だなんて他人事みたいに言ってるけど。平賀だってその家族の一員でしょ?」

「いえ……。血が繋がってるってだけで、俺には残念ながらあの人達みたいな才能は引き継がれていないんです。あの人達とは違います」

「なーに僻んでるんだか。『あの人達みたいな才能は引き継がれていないんです』って何よそれ。平賀、あんたそういうところ一々女々しいわよね」

「……事実ですから、仕方ありません」

「ダッサ。最悪」


 言いながら、部長がガサッとポテトチップスをまとめて手で掴んで口に含む。


「……それに。あんた、自分が今何言ったかわかってる?」

「え?」

「あんた今、ざ――」

「あの!」


 すると、キヨメさんが不機嫌そうな顔で部長の言葉を遮った。


「お言葉ですけど! 創太さんは!」

「いや、いい。キヨメさん、止めてくれ」

「でも、創太さん!」

「いいんだ。いつもの事だから、これ」

「いつもなんですか!? ドMですか!? そういうプレイですか!?」

「そうじゃねぇよ!」

「むー……」


 キヨメさんが益々不機嫌そうな顔になる。

 けど、言った通り、これはいつものやり取りだった。

 俺が家族に対してこういう言い方をすると、部長は必ず俺の事を馬鹿にする。


「…………」


 そして、部長は人に謝る事が出来ないタイプの人間ではないのだが、この件に関しては絶対に謝らない。

 だから今も、一切弁解などせず俺とキヨメさんのやり取りを黙って見ている。


「だ、だったら尚更!」

「あぁ、そうだそうだ」

「創太さん!」


 あからさまに無理やりだが、話題を変える。

 キヨメさんが俺の為に怒ってくれているのはわかるので、あまり強く注意するのも気が引ける。

 なのでこうするしか無かった。


「部長。実は、キヨメさんの事なんですけど……」

「はいはい。何?」


 部長も俺の気持ちをわかってくれたらしく、話に乗ってくれる。


「…………」


 キヨメさんにも俺達の考えが伝わったらしい。

 不満そうに頬を膨らませているが、大人しくなる。

 その顔を見て、部長が少しだけ表情を緩ませた。


「一人で帰らせるのが心配なので、放課後までここで待たせてもらってもいいですか?」


 これを部長に確認しておきたかったのだ。


「うん、いいわよ」


 即答。

 まぁ、断られるとは最初から思ってなかったけど。


「ありがとうございます」

「……あ! ちょっと待って!」

「?」

「部室に居ても良いけど、一つ条件を付けさせて」

「条件?」

「ええ。放課後、二人にちょっと付き合ってほしいのよ」

「放課後ですか? 別に良いですけど……何ですか?」

「それは放課後までのお楽しみ。別に大した事じゃないから、心配しなくてもいいわよ」


 大した事じゃないなら何故隠す。

 今言えばいいだろ。


「あ」


 そうこうしている内に授業終了のチャイムが鳴った。

 次の授業からは出ておきたい。


「じゃあキヨメさん。今の話の通りだ。放課後までここで待っててくれ」

「私も次の授業からは出ておこうかな。じゃあキヨメちゃん。また放課後ね」

「はい……です」


 部長に対してまだ少し不満そうだ。

 けれど、当の本人である俺が怒っていないのに、自分が変に騒いで俺と部長の仲を拗れさせるのもどうかとでも思っているのだろう。

 文句を言ったりはしない。


「キヨメさん。そんな寂しそうな顔するなよ。ちゃんと放課後迎えに来るから」


 別に寂しいから不満そうな顔をしている訳ではないとはわかっているけど。

 あえて勘違いした振りをした。


「……わかりました。待ってます」 


 そしてキヨメさんも俺の気遣いに乗り、自分の不満顔が寂しいからだという事にしてくれる。


「ありがとな。じゃ、また後で」

「またね、キヨメちゃん」


 そう言って部長と二人で部室を出る。


「じゃあ平賀。放課後、宜しくね」

「はい」


 部長がそう言って立ち去ろうとして。


「……? 行かないの?」


 ドアの前で動かない俺を、不思議そうに見る。


「? 平――」

「シッ」


 指を立てて喋らない様にお願いする。

 そしてそのまま、ドアの前で部長と共にしばらく待つ。


「「………………」」


 すると……。



 ガラガラガラ……



「あっ」

「コラッ!」


 やっぱり。

 俺達が立ち去ったと思ったキヨメさんが、俺を追いかける為に部室から出てこようとしたのだ。


「部室で待てって言っただろうが!」

「うぅ……だってぇ~……」


 油断も隙もない。

 その後、しっかりとキヨメさんに説教した後、部室に外から鍵をかけて、放課後まで閉じ込めておいた。

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