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恐怖の発情フェロモン

「………………」

「見られてー……ますねぇ……」


 校内を歩く俺とキヨメさん。

 もの凄い注目を浴びている。

 まぁ当然だ。

 見慣れぬ超絶美少女が突如として校内に現れたのだ。

 騒ぎになるのも仕方ない。


「その……恥ずかしいです」


 俺にピッタリ寄り添うというより、むしろピッタリ張り付き。

 不安そうな、恥ずかしそうな顔で校内を歩くキヨメさん。


「あまり人の多い所慣れていないので……」


 日和のとこに居たって事を考えればわからないでもない。


「にしたって歩きにくいからもう少し離れろよ」


 こんなにくっつかれると、人の視線も勿論だけど押し付けられる体の感触も気になる。


「す、すみません……」


 口ではそう言うが、全然離れない。

 ……本人も本気で不安がってるみたいだし、まぁ無理に離れろというのもあれか。

 これ以上は言わないでおく。


「にしてもマズいなこれは」


 想像以上に人が集まってきている。

 杏奈の一件で腹が立ち、催眠だか何だかを禁止したが、今考えればそれを使って存在を消したまま連れ出せばよかった。

 ちなみに杏奈は、自分が催眠にかかっていた時にやっていた行動を全て覚えているらしい。

 俺が彼女に変な事をしたと思われていないのは良いが、本人にしてみれば無意識にいきなり自分から痴女じみた行動をとってしまった事になる。

 ちょっと、というかかなり可哀想な事をしてしまった。


「創太さん……」

「どうした?」

「……創太さんて近付くと、なんか良い匂いしますね」

「離れろ変態」

「う、嘘です冗談です! 押さないで下さい! 離れないで下さいよぉ!」


 とりあえず、この騒ぎの元を引きつれたまま正門から出るのはマズいな。

 人気の少ない、裏門の方へと向かう事にする。


「よし、こっちは人居ないな」

「ですね」


 キヨメさんがホッとした声を出す。

 俺の学校は偏差値が結構高く、真面目な生徒が多い。

 なので授業をサボったりする生徒もそうは居ない。

 だから放課後にでもならない限り、裏門に来る生徒なんてほとんど居ないのだ。


「よし、今のうちに帰れ」


 校舎を出て、裏門の所でキヨメさんに別れを告げる。


「いいか? 寄り道せず、人に迷惑をかけず、真っ直ぐ、速やかに帰宅するんだ。絶対に面倒事を起こすなよ? いいな? わかってるな?」

「し、心配し過ぎですよぉ……」

「帰った振りをして校舎の中に戻るのも無しだからな?」

「し、しません……てばぁ」

「…………」


 心配だが、俺もそろそろ次の授業がある。

 いつまでも構ってはいられない。


「ま、後はあれだ。車には気を付けて。それとキヨメさん。金は持ってるか?」

「お金ですか?」

「そうだ。迷ったりしたらタクシーで帰る為だ。……いや、心配だ。渡しておく」


 財布を出してお札を何枚か渡そうとすると。



「あっれ~? サボり~?」

「珍しいー。チキン高の生徒がサボってんの見るの初めてかもー」

「てかうぉ! 何だこの美人!?」



 裏門を出てすぐの所に、ガラの悪そう……と言う程悪そうでもないが、まぁそこそこに頭は悪そうな、他校の生徒達が三人程たむろっていた。


「創太さん?」

「……うわぁ」


 面倒な奴らに出くわした、という顔を思わずしてしまう。

 彼らは近くにある他校の生徒達なのだが、いつもこうやって待ち構えてウチの生徒達に絡んでくる。

 不良ぶりたいが、本当の不良に絡むのは怖い。

 そこで、安全で大人しいウチの生徒達に絡み、因縁をつけたり嫌がらせをしたりして、やってやったぜ、と自分の高校に帰ってから仲間達に自慢するのだ。


「心の小さな方達ですね……」


 それを説明してやるとキヨメさんが憐れむ様な目で彼らを見つめる。


「あぁ、小さい奴らなんだよ……」


 俺も同じ様に彼らを憐れむ目で見てやる。


「ぁあ? おいコラ。何舐めた事ほざいてんだ、おい!」


 そんな俺達の会話を聞いて不機嫌になる、不良(?)達。

 いつもより沸点が低い気がする。

 いきなり怒り出した。

 キヨメさんが居るせいか。

 美女の前で恥をかかされるのが男として許せない気持ちは、わからないでもない。


「どうします? 創太さん」


 流石にこのままキヨメさんを帰す訳にはいかないだろう。


「……仕方ない。一旦中に戻ろう。どうせこいつら、校内にまでは追って来ないし」

「そうなんですか?」

「あぁ。こいつらビビりだしな。そこまでの事は出来ない」

「んだとぉあ!? おい! 今のもういっぺん言ってみろやコラァ!」


 不良(?)のリーダーっぽい奴が、俺の胸倉を掴む。


「うーわ」


 マジかよ。

 こんな直接的な行動、いつもならとってこないのに。

 不良もどきの彼らはあくまでもどきなので、成績や内申の事を普通に気にする。

 なのでいつもは警察や高校への連絡を恐れて、怒鳴ったりからかってきたりはするものの、暴力どころか指一本触れてきたりはしないのに。


(キヨメさん効果か……)


 三人がチラチラとキヨメさんの方を見ている。

 俺をネタにして、女の子に格好いいところを見せたい、といった感じか。


(面倒な事になったな……)


 なら仕方ない、ちょっと――



 バシィッ!



(え!?)


「ぐぶふぅ!」

「私の大切な創太さんに何するんですか!」

「……げ」


 キヨメさんが、相手の頬を思いっきり引っぱたいた。

 本当に、思いっきり。

 それこそ、相手がその引っぱたかれた勢いで地面に転がってしまう程。

 ビンタというよりこれはもう、張り手だ。


「……流石にこれはマズいだろ……」


 トラブルの予感に頬が引きつる。

 大事になってきた。

 いくら不良もどきとは言え、これは流石にキレる。


「キヨメさん、こっちだ!」


 慌ててキヨメさんの手を引き、自分の後ろに隠す。


「いっ……てえ……」


 不良(?)がゆっくりと立ち上がると、殺意すら込もっていそうな目でキヨメさんの事を睨みつける。


「……おい、女。お前ちょっとこっち来いや、コラ」


 ガチでマズい事になった

 良い所を見せようとしていた筈のキヨメさんに対して、憎しみの視線を向けている。

 本気で怒っているらしい。

 今更何を言っても聞かないだろう。

 もうこれは、逃げるしかない。

 走り出すまでに少しでも距離をとろうと、キヨメさんを後ろに、ゆっくりと下がろうとする。


「(お、おいキヨメさん。立ち止まるな。俺と一緒に下がれ)」


 グイグイ押しても動かないキヨメさんに、下がる様に小声で訴える。


「大丈夫ですよ、創太さん」

「大丈夫な訳無いだろっ」

「おい! お前ら何コソコソやってんだ!」


 遂に相手がキレて、こちらへと一歩踏み出した。


(マズい)


 右手を広げて制止する様に後方に伸ばす。

 すると……。


「あ?」


 周りで見ていた不良(?)の仲間達が、その頬を引っぱたかれた男の肩を掴んで、押しとどめた。


「何だよお前ら。離せ」


 男が二人を振りほどこうとするが。


「って、おい! どこ触ってやがる!?」


 もみもみ……なでなでと。

 男の、同性には絶対に触られたくない場所を、二人がニヤニヤと笑みを浮かべながら触り始めた。


「お、俺のケツを撫でるんじゃねぇ! お前らどうした!?」

「……あのさ、もうこんな奴ら、どうでもよくね?」

「はぁ!?」

「そうそう。……それよりさ、今俺んち誰も居ないんだけど。これから来ねぇ?」

「お、おい。お前何言って……」

「よし、行こうぜ」

「おう、そうだな……へへ」

「な――ちょ、おい! 待てって!」


 突然の展開。

 そのままズルズルと引き摺り、引き摺られ。

 不良(?)達三人は、あっという間に全員居なくなってしまった。


「…………どういう事だ?」

「えへへ……」


 キヨメさんがイタズラっぽい顔で笑う。


「何したんだ?」

「今のも前と同じ、SNEGスキルの一つです。『超超強力ウルトラ発情フェロモン』と言います」

「何それ。すっげぇ馬鹿っぽい」

「さっきビンタした時にこの、超超スーパー最強フェロモンをこっそり相手の顔に付着させておいたのです」

「速攻名前違うじゃねぇか。適当かよ」

「これは香水の様にちょっと体に付けるだけで、どんな人間でもたちまちモテモテになってしまう、雑誌の怪しい通販にある様な夢のアイテムなのですが」

「うん」

「男性向け女性向け、あるいは両方等々、効き具合も含めて細かに効果を設定出来るので」

「男が惚れるように設定したのを、あいつの顔に付けたのか」

「はい」

「なるほどな……」


 やっぱりこいつは、凄い。


「まぁ、そのおかげで助かった訳だから別に良いんだけど。……ちなみにあれって、効果時間どれ位なんだ?」

「どうですかね。そこまで持続性のある物にはしなかったので、水で洗い流せばすぐですよ」

「……つまり、逆に顔を洗わなければ、いつまでも効果が残るって事か?」

「う~ん……沢山汗をかいたりすれば、その時一緒に流れ落ちてしまうと思いますが……そうですね。そういう事が無ければ、効果はしばらく残っちゃうと思います」

「ならあいつ、あのまま部屋着いたらそのまま犯されちまうんじゃ……」

「………………」


 想像して互いの顔色が変わる。


「……だ、大丈夫ですよ! 事に至る前にシャワーを浴びれば!」

「あの二人。そんな余裕ある様に見えたか?」

「………………」

「………………」


 沈黙。


「……忘れよう」

「そうですね」


 頷きあう。

 元々絡んできたのはあっちからなんだ。

 喧嘩を売った相手が悪かったって事で。


「とりあえず、キヨメさんが想像以上に危険な存在だという事がよくわかった」

「えぇ!? 危険なんて無いですよ! あれは創太さんが危ないと思ったからで……」

「にしたってやり過ぎなんだよ! ……予定変更。やっぱりキヨメさんを一人で帰らせるのは心配だ。放課後まで学校のどっかで待ってろ。一緒に帰る」

「ほ、本当ですか!? 一緒に帰って下さるんですか!?」


 嬉しそうな顔で言いやがる。


「仕方ないだろ。一人で帰すのは心配だ」

「ありがとうございます!」

「だー! 一々抱き着くな!」


 うんざりしてしまう。


「……ったく」


 ま、懐かれて可愛くないとは言わないけどな。

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