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髪は淫乱ピンク、瞳に浮かぶはハートマーク

 一段落したという事で、ちわさんに荒らした道路を直させる。

 グルグル回した事で完全に正気に戻ったらしい。

 キヨメさんにも見てもらったが、多分大丈夫だろうとの事。

 まだ具合が悪そうだが、仕方ない。

 いつまでもここら辺一帯を占領している訳にもいかないんだ。

 自分でやった事だし、頑張ってもらうしかない。

 一応グラヴィティオスが睨みを利かせ、部長と杏奈も見張っているので手抜きとかはしないだろう。

 その間に、ちょっと離れた所でキヨメさんと話をする。


「うぅ~……まだ少し気持ち悪いです……」

「そっか」

「そっかじゃないですよ! もう!」


 怒っているキヨメさんに聞く。


「……それで?」

「?」

「今回のこの一連の茶番は、一体なんだったんだ?」

「え? …………ちゃ、茶番?」

「あぁ、そうだ。茶番だ。どういう事だ?」

「……さ、さぁ~……何の事やら~……さっぱりで~……」

「グラヴィティオース!」

「あー! はい! はい! 嘘です! すみませんでした! ちゃんと言います! 全部とまでは言いませんけど、茶番でした!」

「……だと思ったよ」


 ため息をつく。


「……いつお気付きになりましたか?」

「いつって、最初は気付かなかった。結構後になってからだ。グラヴィティオスを呼んで、ちわさんの自由を奪った辺りかな……」


 そこで少し気持ちに余裕が出来たので、気付いた。


「気付いた理由は色々あるっていうか、後から考えればむしろ、気付かなかった方がおかしいんだけどな。まずそもそもとして、あの人達の命令でキヨメさんを強制的に連れ戻す為にちわさんが来た、ってのがおかしい。キヨメさんをすぐ連れ戻さなければいけない、って話自体はあるかもしれない。けど、その後のちわさんの発言だ。生死は問わず、その体さえ確保できていれば良い、だなんて。あの人達がそんな事を言う訳がない。あの人達がキヨメさんをそこまでしてでも連れ戻したいのなら、どう考えても自分達でやった方が早いし、確実だ。なのにちわさんに任せてわざわざそう言わせてるって事は、キヨメさんを連れ戻したいってのとは何か別な目的が今回のこれにあるって事だ」

「おぉ~」

「おぉ~、じゃねぇよ。次に、キヨメさん」

「私ですか?」

「そうだ。キヨメさんに聞くけど、ちわさんの使ったあの触った物を溶かしたり形を変化させたりする能力。キヨメさんも持ってるよな?」

「え!?」

「持ってるよな?」

「…………はい」

「だと思ったよ。一緒に暮らしてておかしいと思ってたんだ。キヨメさん、ギャグの一環みたいな感じで誤魔化してたけど、服装コロコロ変わってただろ? あれ、どういう事なのかずっと考えてたんだよ。そこに、ちわさんのあの能力だ。手に触れた物を変化させてると思ってる時は気付かなかったけど、実は全身で変えられるって聞いて、理解した。キヨメさんも同じ事が出来るんじゃないかって」

「うぅ~、ちわちゃ~ん」


 それと、今思い出してみれば、うっかりだったんだろうが、ちわさんはあの能力を初めて見せた時、『性具型人造人間としての能力の一つ』と言っていた。

 ダッチワイフ型人造人間としての能力、ではなく。


「それにキヨメさん、ちわさんがあの能力の本当の使い方を言った時、妙な驚き方してたしな。本当はあの時点でその事をバラすつもりは無かったんだろう。それはその後の失言からもわかる。『想定外というか、予定変更というか』ってやつだ。これは俺の予想だけど、戦闘能力だけで見ると、キヨメさんは単純にちわさんの上位互換みたいなもんなんだな? だから、そのちわさん相手にキヨメさんが追い詰められるって図を作る為に、あの物質変化能力をちわさんだけの能力という事にしたんだ。力は手で触れた物のみと俺に誤解させようとしたのは、今言った流れで俺がキヨメさんも使えると気付くのを防ぐ為。違うか?」

「…………おっしゃる通りです」


 ポケットからハンカチを取り出すと、それを変化させて花の形にする。


「この力を私も使えると創太さんにお伝えしていなかったのは、本当にたまたまです」

「だろうな。俺が気付かなかっただけで、俺の前でも結構使ってたしな」


 隠そうとしていた様には思えない。


「はい。なのでバレてしまう可能性も普通にあり、正直不安でしたが、話があまりにも唐突だったもので咄嗟に思いつく代案も無く、そのまま利用させてもらう事にしました」

「なるほどな。後気付いた理由は……あれだ。どうにもキヨメさんにもちわさんにも、緊張感が無かった事だ。性格的なもんかとも思ったけど、にしたってやっぱりな。生き死にかけてやり合ってるんなら、もう少し緊迫した空気になるだろう」

「あはは、それは創太さんの考え過ぎですよ。緊張感の無さについては、そのまま私達の性格的な物が原因です。むしろそこは、演技が下手だったというより、演技をすべきだった、という事なんでしょうね」

「なんだよそれ」


 チラッと遠くに居る部長の事を見る。


「最後は部長だ。部長のあの態度がなんつーか、必死過ぎというか不自然だった。話が唐突って今言ったし、この話は前々から聞いていた物じゃ無く、俺達がちわさんのとこに行って、二人と別れた時に聞いたんだな?」


 あの時、部長は携帯を取り出していた。

 きっとこの悪だくみを考えた誰かから電話がかかってきていたんだろう。


「はい、そうです」

「やっぱりか……。で? 結局これは、誰からの命令で、何が目的だったんだ?」

「えーとですね」


 お?


「隠さないのか?」

「はい。一度バレてしまったのなら、それ以降は創太さんに無理に隠す必要は無いと言われています」


 かなりゆるゆるだな。


「そうでなくても、もし創太さんに直接聞かれていたとしたら、私はその時点で正直に言うつもりでしたけど」

「へぇ? 何でだ?」

「だって私の主は創太さんですから。誰に何を言われても、私が最優先すべき相手は創太さんです」

「そ、そうか……」

「はい。……それで、今回の件についてですけど」

「うん」

「提案者は、向こうにいらっしゃる日和様以外のご家族。ほぼ全員です」

「全員!?」

「はい。創太さんのご両親。日和様、光さんのご両親。そして他の親戚の方やご兄弟の方等々。あくまで全員ではなくほぼ、ですが。ご家族の大半の方々がこの件を知って、協力しています」

「な、なんだよそれ! 何が目的だったんだ!?」

「創太さんにもう一度、発明の道に戻ってきて欲しいと皆さん望んでいます。今回のこれは、全てその為の物です」

「はぁ!?」


 何で今更!?


「ちわちゃんに私を襲わせて、私に命の危険があると思わせて、創太さんにグラヴィティオスを呼ばせる。そこまでが今回の流れだったんです。……私達はその時創太さんが使うだろう物を、創太さんの昔作った発明品、としか聞いてなかったので、実物を見て驚かされたり、途中でちわちゃんが暴走して本気で襲い掛かってきたりと、想定外の事も色々とありましたが…………。とりあえずそんな感じで、創太さんが自分の作った物で私を助ける事で、発明家としての自信を取り戻してもらう、というのが計画の目的です」

「随分とめんどくせぇというか、遠回りなやり方を考えたもんだな」

「確かにそうかもしれませんね」


 苦笑気味にキヨメさんが言う。

 そこは否定しないみたいだ。


「部長さんの携帯にその電話がかかってきたのは、部長さんにもその計画に加わっていただく為です。私の危機を見ただけだと、創太さんは他に助けを求めて終わりになってしまいそうですから。その時に創太さんの背中を押して、お尻を叩く人が必要だったんです」


 確かにその通りかもしれない。

 俺の事をよくわかってる、と思うが。

 同時にその理解っぷりに少し苛立ちも感じる。


「皆さん、部長さんが昔創太さんのグラヴィティオスを見ていた事や、部長さんに昔あった事について等、色々と知っていたみたいですね。だから部長さんにその役目をお願いしたんだと思います。他の方なら協力を頼んでも断られてしまうかもしれませんし、仮に協力して下さったとしても、今度は創太さんがその人の言う事を聞いて下さらないかもしれません。なので部長さんが適任だったという訳です」

「………………」


 何だよそれ。

 何でも知り過ぎていて、本当にムカつく。


「ちわちゃんに会った時、キスされましたよね?」

「あ? あぁ……」

「あれは別に、ちわちゃんが挨拶代わりに誰にでもキスする軽い子って訳ではなくて、ある能力を使ったんです」

「ある能力?」

「はい。粘膜同士を接触させる事で、ちわちゃんは相手と感覚や意識を共有する事が出来るんです。本来はエッチな事をしてる時にそれを使って、互いに感じている快感を送り合って、より興奮を高める為の物なんですが。あの時のキスはそれの応用で、ちわちゃんと創太さんの意識を繋げて、創太さんの記憶の中を少し探ったんです」

「記憶を?」

「はい」


 プライバシーの侵害だ。


「私と創太さんは出会って日が浅いですからね。まだ仲良くなれていない可能性がありました。それだと私がちわちゃんに襲われても、創太さんは動かないかもしれません。なので、それを確認する為にちわちゃんはキスをしたんです。創太さんが私の事をどの程度想って下さっているかを調べて、もしまだ早い様なら、計画を実行するのをもっと後に遅らせる為に……」


 言いながら、キヨメさんが少し照れくさそうにはにかむ。


「……おう、そうか」


 俺も少し顔が熱くなる。

 つまり、俺の記憶を探った結果、俺はキヨメさんが危ない目にあったら、必死になって助けようとする位想っていると、そう判断されたんだ。


「大体わかったよ、経緯は。で? そもそもの話として、何で俺なんかにもう一回発明をさせたかったんだ?」

「今なら創太さんにもわかる筈です。ご自身の才能について」

「……わかってるよ。俺には才能が……」

「ありますよね? 才能。日和様と比較して、ではなく。創太さん自身としての話です」


 キヨメさんがグラヴィティオスを指さす。


「この国……いえ。この世界で、あれほどの物を作れる人が一体どれだけ居ると思いますか?」

「それは……」

「もう今の創太さんなら認められる筈です。創太さんは他のご家族の方々同様、人並み外れた発明の才能を持ってらっしゃいます。それを――」

「あー、待った。ストップ」


 言葉を遮る。


「わかった。悪かった。それについては、うん。もうこれからは認める事にする。俺には日和程では無いが、発明の才能がある。それは認める」


 これを誤魔化している様じゃ、成長しただなんて言えない。

 認めるべき所は認めよう、ちゃんと。


「じゃあ……」

「けど、発明はやっぱり俺には向いてないよ」

「どうして!」

「どうしてって……。あー……何つーか、好きこそものの上手なれ、じゃないけどさ。俺には他の皆みたいな発明への情熱が無いんだよ。正直言えばな? それを楽しむ心自体は、そこそこにある。けど、あくまでそこそこだ。今の俺には他にもっと楽しいと思える事も、優先したいと思える事もいっぱいあるんだ。他の家族達みたいにそれに全てを注ぎ込む気にはなれない」

「………………」

「それに、あの人達が俺を呼びたがっているのは多分、キヨメさんが思っている様な、家族思いな気持ちからじゃないぞ?」

「え?」


 あの人達が俺を呼んでいるのは、俺に発明をまたして欲しいからじゃなくて、俺に助手をして欲しいからだ。

 自分達の言う事をある程度理解出来る頭脳を持ち、手に入れた情報を私利私欲に使ったり、どこかの国や組織に流したりしない者。

 そういう条件で助手を探すと、それに適する人間というのはかなり限られてしまう。

 そこで、俺という訳だ。

 時期としてもちょうどいい。

 昔と違って今ならある程度精神的にも成長して、発明をまた始める事を受け入れる余裕があるだろうし、今からなら本気で取り組めば発明家としてもまだ間に合う。

 そういう事だ。

 あの人達は決して悪人ではないが、かと言って優しさだの気遣いだのでそういう事をする様な人達でも無い。


「だから、皆の期待には沿えない。俺はこれからも今まで通り、この生活を続けさせてもらうよ」

「で、でも!」

「……キヨメさん?」


 随分粘るな。

 何でキヨメさんがこの件についてこんなに食いつく必要がある?


「日和様の事はいいんですか!?」

「日和? なんでここで日和が出てくるんだよ」

「だって創太様、日和様の事好きじゃないですか」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!!!!!!!????????」


「う、狼狽えすぎですよ……」

「ぶぁ、ば、ばぁぁああか! ばーーーーか! 何でそんなとぅ、こと、そんな事になるんだよ!!!!」

「お、落ち着いて下さい創太さんっ、なんかもう色々と酷いです!」

「だ、な、だってお前! お前がっ……!」


(いや、うん、待て待て待て、俺)


 キヨメさんの言う通りだ。

 これで狼狽えてないっていうのがむしろおかしい。


「…………いや、スマン」

「いえ、こちらこそすみません……」


 深呼吸を何度かして、気持ちを落ち着かせる。


「……何でわかった?」

「何でと言いますか……理由を言うまでもないと言いますか……」

「そんなにバレバレだったのかよ……」

「当の日和様本人以外、全員にバレていると思います」

「マジで!?」

「はい。向こうで噂程度に耳にして、こちらに来てまだ一日二日程度しか過ごしていない私でもすぐに確信出来た位ですし」

「嘘だろ……。……え、じゃあ光には?」

「一番バレていると思います」

「マジでか!?」


 俺が光に振られた理由が、今はっきりした。

 ……いや、待て待て。

 別に俺は、日和が好きなのに光に告白したって訳じゃない。

 光の事もちゃんと好きで告白したんだ。


(あ)


 自分で墓穴を掘った。

『光の事も』とか言ってる時点で、俺の気持ちが光のみに向いていた訳じゃないと自分で認めている。


(最悪過ぎんだろ俺……)


 光は俺の本音を見透かしていたんだ。

 だからあの時断った。


(不誠実すぎる……)


 俺マジで駄目男じゃん。


「私だってこんな計画、何も理由が無ければ付き合ってませんよ。これで創太さんがもう一度発明と向き合う様になって、日和様と少しでも距離が近付く切っ掛けになればいいなと思ったから、お手伝いしたんです」

「キヨメさん、そうやって俺に気を遣うのはいいんだけど。俺と日和がもし付き合ったらってか、俺に彼女が出来たら困るんじゃないのか?」

「困る? どうしててですか?」

「だって彼女出来たら俺、彼女としかそういう事しなくなるじゃん」

「彼女とのセックスと私とのオナニーは別腹ですよ」

「何言ってんのお前!?」


 まぁ、本来空気嫁とするって言ったら、それは自慰って意味になるけども。


「それで、ですけど。日和様の事はいいんですか?」

「日和は……」


 キヨメさんの言う通りだ。

 俺は日和の事が好きだった。

 昔から。

 小さな頃から、ずっと。

 好きだったからこそ、その才能の差が許せなかった。

 好きだったからこそ、こんなにも卑屈になって、逃げ回ってしまった。

 俺が本当に逃げたかったのは、家族達からじゃなく、日和からだった。


「…………日和は……」


 日和が俺の事をどう思っているかなんてわからない。

 けど、少なくとも嫌われてはいないという事はわかる。

 今回入学祝いでキヨメさんを送ってきた様に、日和はちょくちょく俺にプレゼントを送ってくる。

 俺も、日和の誕生日や記念日にはプレゼントを送って祝う。

 だからもしかしたら、俺がここでもう一度発明の道に戻り、日和と一緒に過ごす時間が多くなれば、俺と日和がそういう関係になるという事も、あり得るかもしれない。


(けど……)


「……いい。日和の事は、もういいんだ」

「創太さん……」

「才能云々だけの話じゃなく、日和にはもっと良い人がいるよ」


 多分、俺と日和じゃ付き合っても上手くいかない。

 日和の発明に向ける熱意と、俺の発明へ抱く気持ちとじゃ、全然違う。

 付き合い続ければきっと、日和の優先するそれに俺は苛立って、日和はどうして俺が苛立っているのかがわからず、とりあえず怒っているからと俺に合わせる。

 そんな関係、長く続く訳がない。


「俺と日和じゃ……駄目なんだよ」

「でもっ」

「別に、日和に対して引け目を感じてどうとかって話じゃないんだ。今回の事でもう一度そういう事をしっかりと考えて、見極めて。それで出した結論がそれなんだ」

「…………創太さん」

「そんな顔すんなよ。何でキヨメさんが辛そうな顔すんだよ」 


 キヨメさんの頭をくしゃっと撫でる。


「ま、そういう訳だ。日和に対してはともかく、家族達にはそんな感じで伝えておいてくれないか? 俺は発明の道に戻るつもりは無い。こっちで今まで通りこれからも過ごしていくって」

「……わかりました。後日向こうが落ち着いた辺りで、そうお伝えしておきます」

「? 後日? 今じゃ駄目なのか?」

「はい。…………日和様が今回の事を知って、自分の作った私やちわちゃんを使って勝手な事をするなと激怒してしまいまして……。……今頃、向こうで血の雨が降っています」

「………………」


 おっかねぇ。


「……じゃ、最後に一つ。キヨメさんに言っておく事がある」

「?」


 拳を握ると、不思議そうな顔をしているキヨメさんの頭にソッと当てる。


「何ですか創太さ…………ったぁぁああああい!」


 ゴリリッ、と力を込めて、当てた拳で頭を擦った。


「な、何をするんですか!?」

「心配かけさせんじゃねぇよ馬鹿野郎!」

「っ!?」

「こっちはキヨメさんがどうにかされると思って本気で心配したんだぞ!?」

「す、すみませ……」

「すみませんで済むか! 二度とこんな事すんじゃねぇ!」

「は、はいっ」


 ちょっと考えればわかりそうな、今回の事。

 違和感に気付けなかったのはそのせいだ。

 キヨメさんが危ないと思って動揺して、そのせいで冷静に物事を考える事が出来なかった。


「…………本当に止めてくれよ、頼むから。こんな危ない真似、もうしないでくれ」

「創太さん……」

「危ない真似、じゃないな。危険が無くてもだ。例え安全でも、俺が心配する様な事はするな」

「はい……すみませんでした」

「…………」


 キヨメさんを抱きしめる。


「言ったろ? 俺はキヨメさんの事を大切に思ってる。それこそ光達と同じ位にな。そんな大切な人が危ない目にあってたら、俺がどう思うかわかるだろ?」

「…………はい」

「だからもう、例え俺の為だとしても、こんな事は止めてくれ。いいな?」

「はい……」

「よし」


 抱きしめたキヨメさんの体が震えている。

 少し強く言い過ぎたかもしれない。

 もう怒っていない事を示すつもりで、背を優しく叩く。


「…………創太さん、私」







「どうしてこうなった?」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」


 突如連れ込まれた路地裏で押し倒されている俺。

 そしてその俺の腰に馬乗りになっているキヨメさん。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 何故か凄く息が荒い。


「どきなさい」

「無理です」

「………………」


 即答かよ。

 てかどういう事だよ。


「……創太さんがいけないんですよ……?」

「何がだよ」

「ちわちゃんだけじゃなく、私だってずっと我慢してたんです……。私だって創太さんの事、襲ってしまいたいと何度も何度も…………」

「何それ怖い」


 まさか身近にそんな危険思想の持ち主がいたとは。

 てか、キヨメさんの様子がおかしい。

 というか、姿がおかしい。

 髪の色がピンクに変色して、目の中に何故かハートマークが浮かんでいる。


「なのに創太さんは、我慢してる私にあんなに力強く思いを告げて……」

「思いを告げてってか、ただ怒っただけだけどな」

「あんなに力強く抱きしめて……」

「そこまで力強くは無かったけどな」

「背中に愛撫をして……」

「少しぽんぽんしただけだろうがよ!?」

「ぽんぽんて言い方可愛いですね」

「………………」


 ウゼェ。


「まぁとにかく、そんな創太さんの様々な行動のせいで、さっきのちわちゃん同様、私の中の我慢の臨界点が突破されてしまいました」

「臨界点低過ぎね!?」

「私の髪、ピンクですよね?」

「あぁ、うん」

「私からは見えてませんけど、目の中にハートが浮かんでません?」

「浮かんでるな」

「それ、淫乱ピンクモードと言って、所謂性的な意味で暴走モードになった時に出る物です」

「そんなモード作っとくなや!」


 てか、洒落になってない。

 キヨメさんがガチだ。

 俺が動こうとすると、太ももでガッシリ両側から腰をロックされて、ぐいぐいと下半身を俺の股間に押し付けて刺激してくる。

 …………その刺激に勝手に反応してしまう、自分の体が恨めしい。

 キヨメさんはその下半身の変化に気付いているんだろうが、あえて何も言ってこない。


(ちょっと待て……これ、マジで本気でヤバい)

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