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ダッチワイフ型人造人間ちわさん

「どーも初めましてー。きー先輩と同じく生体性具として作られた人造人間のちわでーす。よろしくでーす」

「初めまして。私は平賀と同じ学校に通う榊原よ。そしてこっちは平賀のクラスメイトの高松杏奈。宜しくね、ちわちゃん」

「はーいよろしくー。榊原さん、高松ちゃん」


 部長が自己紹介をし、ちわさんが笑顔でそれに答える。

 俺達はさっきと同じフードコートに居る。

 ちわさんが座っていた席に更にもう一つテーブルを繋げて、杏奈、俺、キヨメさん、部長の順に座り、反対側に一人、キヨメさんと向かい合う様にちわさんが座っている。

 周りに居たギャラリー達には、悪いが催眠をかけて、テーブルの上にあった物を片付けてもらった後に散ってもらった。


「ねぇちわちゃん。ちわちゃんもキヨメちゃんみたいに触手を出したり催眠をかけたり色々出来るの?」

「そりゃ勿論。きー先輩みたいに外見を変えたり触手を出したりは無理だけど、催眠とかフェロモン系は私も得意だよ」

「そうなの……」


 しまった。

 部長はフェロモンの事は知らなかった。

 良い事を聞いたとばかりに、こっそりといやらしい笑みを浮かべている。

 余計な事を知られてしまった。


「まー、触手はともかく外見変えるのはきー先輩の空気嫁としての機能だから、私が持ってないのは当然なんだけどね」

「? ならちわちゃんは、空気嫁型とは別な型って事なの?」

「うん。私は『ダッチワイフ型』」

「あぁ、それでちわちゃんなのね」


 空気嫁型ダッチワイフ型と型が分かれてるのか。

 この様子だと他にも色々な型が居そうだな。


「本当はなほちゃんも来たいって言ってたんだけど、なほちゃんはちょっと問題ありだからさー……」


 俺をチラッと見てそんな事を言う。

 なほちゃんか。

 やっぱり別なのが居た。


「そのなほちゃ…………あぁ、いや。何でも無い」


 それについて聞きたい事があったけど、察して聞くのを止めた。


「あぁ、なほちゃんは『オナホール型』だからなほちゃんだよ」

「だと思ったよ! だから聞くの止めたんだよ!」


 名前がどいつもこいつも酷い。

 そんな感じで、和気あいあいとまではいかないものの、それなりに友好的にちわさんと話す俺と部長。

 だが、杏奈とキヨメさんは警戒したまま、ちわさんの事をジーッと睨み続けていた。


「おい。杏奈はともかくキヨメさんはちわさんと知り合いなんだろ? 久しぶりに会ったんだろうし、そんな態度とるなよ」

「いえ、全然久しぶりじゃないです。こっちに来る直前にも普通に会ってますから。……と言うより! 創太さんの家に行く直前に、私が下に穿いていた物を剥ぎ取ったのが彼女なんです!」


 そう言えば初めて会った時、下がパンツ一枚だったっけ。


「えー。そこ怒るとこー? こういうのは最初が肝心だってのに、きー先輩があんな露出少ないもん穿こうとしてたからでしょー?」

「怒るとこです! 女は露出する事だけが価値じゃないんです! それに創太さんは着衣系エロが好きな方ですから、穿いてても問題無いどころか穿いていた方が喜んで下さいます!」

「おい」

「「………………」」


 部長と杏奈の視線が痛い。


「それに、そのせいで私、初対面から創太さんに変態痴女扱いされたんですよ!?」

「変態痴女扱いしたのは恰好だけのせいじゃないけどな」

「そっかー。創太様は脱がすのが好きなタイプなのかー。それは申し訳ない事したねー」


 頭を下げる。

 俺に対して。


「ごめん創太様。楽しみ奪っちゃって」

「謝んなや! てか人の性癖決めつけんなや!」

「「………………」」

「いや、違うんですって部長、杏奈も。俺そんな変態じゃないから……」

「ちわちゃん私にも謝って下さいよ」

「は? 何で」

「何でって……! 人の服脱がしておいてその言いぐさ!?」

「それよりきー先輩声デカい。ここ、お店だよ? 周りの人に迷惑だから」

「~~~~っ!」


 何となくこの二人の力関係が見えた気がする。


「えー……と。じゃあキヨメさんとちわさんは、一緒に日本に来てたって事なのか?」


 話題を変える。


「いえ、違います。私はどこにでも繋がる系のドアを使って一人で来たので。下を脱がされてそのままドアの向こうに投げ込まれたから、あの格好のままチャイムを鳴らすしか無かったんです……」

「そうそう、私が来たのはきー先輩とは別で今日のお昼頃。きー先輩と同じくどこにでも繋がる系のドアで来たの。ただあのドア片道だけだから、来る時は楽だけど、帰りは向こうから開けてもらわないといけないんだよね」


 サラッと言ったけど、どこにでも繋がる系ドアってそんなもんがあるのかよ。


「そんな事はどうでも良いんですよ!」


 いきなりキヨメさんが叫びだす。


「それよりも、ちわちゃん! 何でこっちに来たんですか!?」


 それだよな。


「用事あるから」

「だから、その用事を聞いてるんです!」

「きー先輩連れ戻しに来た」

「私を! ……え? 私を?」

「うん」


 キヨメさんを?

 どういう事だ?


「な、何で私を……」

「きー先輩、日和様から創太様のとこ行く様に言われたけど、他の皆からは許可取ってないでしょ」

「え? それは……。は、はい」

「うん。でね? 日和様以外の全員が、きー先輩が日本に居るの駄目だって。帰って来なさいって」

「何でですか?」

「何でって……そりゃ技術漏えい気にしてだよ。結構ガバガバだけど一応皆、その事気にしてるんだよ。で、きー先輩一人でこっちに居るのは危ないって。いつどこから狙われるかわかったもんじゃないし」

「あ、危なくないですよ! 私強いですし!」

「まーね? きー先輩が強いのはわかってるんだけどね? けど、そうやって油断してるとこ狙われて、サックリやられちゃうかもしれないじゃん? きー先輩どんくさいし。それで、きー先輩の場合、その時に奪われる技術の危険の度合いがあまりにも大き過ぎるんだよ」

「油断なんてしませんし! それに、仮に油断してても負けません!」

「いやー、気持ちはわかるんだけどさ……あ」


 ちわさんが水を取ろうとして間違えてコップを倒す。


「あーあぁ、やっちゃった……。ここ、布巾とかって無いっけ?」


 皆が周りを見回す。

 すると、ゴミを捨てる場所に紙ナプキンが置いてあった。


「あぁ、あそこのゴミ箱。あそこに紙ナプキンあるから、あれ使ったら良い……」


 ちわさんの方を振り向いた瞬間、体が固まる。


「……え?」


(何だ……これ?)


「ほら、油断。だからきー先輩帰って来なさいって言われてるんだよ」


 テーブルの形が歪み、一部が鋭く巨大な針の様に変化すると、俺達四人の喉元に向かってその先端が突き付けられていた。


「これは性具型人造人間としての能力の一つ、物質の形状変化。自分が触れている物の形を自由に変化させる事が出来るの」


 ちわさんが片肘をついて、もう片方の手の平をテーブルの上に乗せると、不敵な笑みを浮かべてこちらを見ている。


「きー先輩。わかるでしょ? 私今、その気になればそのままきー先輩の喉を貫く事が出来たんだよ?」

「そ……」

「それにきー先輩が対処出来たとしても、他の三人は? ……創太様に関してはともかく、そこの二人に関してはきー先輩、どうするの?」

「ど、どうするのって……」

「きー先輩のせいで、一切非の無いきー先輩の知り合いが、何か危害を加えられちゃう…………咥えさせられちゃう。そういう可能性もあるんだよ?」


 何故言い直した。


「それに、はっきり言っちゃえばさ、そこで殺されればまだ良いんだよ。それだときー先輩の技術は奪われないし。問題は、さらわれて人質にされた場合。どうするの? そこで見捨てればそのまま殺されるとわかってて、きー先輩は見捨てられる?」

「見捨てる訳が無いです! 勿論助けに――」

「ほら、駄目じゃん」


 手の平を上に向けて、わざとらしくやれやれと首を振る。


「そこが駄目なんだよ、きー先輩は。自分自身の価値と危険性を全っ然わかってない。だから帰って来いって言われてるの」

「なっ……だ、だって! でも!」

「そうだね。でも、見捨てられないよね。それで罠だとわかってても助けに行って、捕まって。きー先輩に使われてる技術が奪われちゃう。勿論、そもそもの人造人間の作り方ってのもアウトだけど、特に危ないのが、催眠、フェロモン、そして容姿の変化の技術。もしそんな事出来る技術が世に出回ったら、どうなると思う? 暗殺、強制的な洗脳……世の中がとんでもない事になるよね」

「………………」


 キヨメさんが上手く言葉を返せず、黙り込む。


「はい、てな訳で。きー先輩、帰るよ」

「……ちょっと待てよ」

「え?」


 ちわさんが俺を見る。


「勝手にそっちだけで話つけられても困るんだけど」


 キヨメさんの肩に手をまわして、抱き寄せる。


「キヨメさんはもう俺のもんなんだから。了解を取るべき相手はキヨメさんじゃなくて、まず俺だろうが」

「創太さん……!」


 キヨメさんが抱き着いてくる。

 ウザい。

 けど今は許す。


「へぇ」


 部長が俺を見て面白がるように微笑む。

 今の様な言われ方をして全くビビっていない辺り、この人も肝が据わってる。


「あ、折れた」


 杏奈は杏奈でマイペースに目の前に伸びていたテーブルの針を弄って、先端を折っていた。

 どうやらこれは本当に形が変わっているだけで、元の物質から別の物に変化している訳では無いらしい。

 先が細くなっている分脆くなっていたらしく、杏奈の力でも簡単に折れてしまっていた。


「ふーん……」


(?)


 一瞬、俺を見ているちわさんの表情が、嬉しそうに頬を緩めていた様に見えた。

 だが目が合うとすぐに表情が変わり、からかう様な顔つきになってキヨメさんに言う。


「良かったねー、きー先輩。愛されてるみたいで」

「はい! 私達もう見ての通りラブラブですよ!」

「いや、それは嘘だろ」

「え~……? もう、照れなくてもいいじゃないですかぁ~」


 キヨメさんがクッソウザい面で俺をつつく。


「昨日の夜、あんなにも熱く私への愛を語って――」

「………………」

「いひゃひゃひゃひゃ」


 ぐにーっと頬を引っ張る。

 なのに、クソ。

 にへらっとゆるんだ顔しやがって。

 腹立つ奴だ。


「でもさ、創太様」

「ん?」

「浮かれてるところ悪いけど、今の話、創太様にも当てはまるんだよ? きー先輩のせいで創太様の周りの人が危ない目にあった時、」

「日和に電話する」

「……え?」

「だから、日和に電話する。出なかったらウチの親でもいいけど。それで解決するだろ」

「いや……確かにそうだろうけど……」

「俺にはどうしようもない事でも、あっちの規格外メンバーならどうとでもしてくれるし。それでいいだろ」

「……何その他力本願な解決方法」

「学校でトラブルが起きた時に教師に相談したり、外でトラブルが起きた時に警察に相談したり。それと同じ事だろ? 自分ではどうしようもない事を他の人に助けてもらうのは悪い事じゃない。ましてや俺の場合、相談相手は身内だしな。気兼ねだってする必要無い。そうだろ?」

「いや、まぁ……そう……だけども」

「はい、じゃあそれで解決。この話題は終了だ」

「………………」


 ちわさんが微妙な表情になる。


「師匠雑魚格好いい」

「うるさい杏奈。……て訳だ。皆には後で俺から電話しておく。だからキヨメさんにはこのままここに居てもらうって事で」

「ちわちゃ~ん、バ~イバ~イ」


 キヨメさんが明らかに挑発するように手を振る。


「…………そういう訳にもいかないんだよね、こっちも」


 するとちわさんが席を立った。


「実はこうやって創太様が拒否する事も想定済みだったし。ちなみに電話しても意味無いよ? 皆、この件に関しては駄目だって言う筈だから」


(……屁理屈で言いくるめようとしたけど、駄目か、やっぱり)


 作戦失敗。

 さて、どうするか。

 ちわさんは皆と言ったけど、キヨメさんを送り込んできた日和はそんな事言わない筈だ。

 ここは日和に相談してみるか。


(けど、その前に)


「そうか……。けど、そんな事言われても俺はキヨメさんを引き渡す気は全く無い。それで? こういう場合ちわさんはどうするんだ?」


 向こうの出方を聞いてみる。


「んっふふ~、決まってるじゃ~ん」


 ちわさんが笑う。


「勿論……ち・か・ら・ず・く♪」

「創太さん!」


 すると即座にキヨメさんが背から触手を伸ばし、俺と部長、杏奈の三人を絡め取ると、その場から背後に跳躍。

 ほぼ同時、俺達の座っていた場所に、先端が尖った触手の様に形を変えたテーブルが伸びて、襲い掛かっていた。


「逃げますよ!」


 キヨメさんはそのまま俺達三人を触手で絡めたまま走り、吹き抜けから一階に飛び降りる。

 周りの客が驚いたり悲鳴を上げたりしているが、それに構っている余裕も無い。


「逃げるなー!」


 ちわさんも俺達を追って、二階からジャンプしてきていたからだ。


「!?」


 俺はそれを下から見て、目を見開く。


(黒!)


 そう、下着は黒だった。

 それも、外見同様かなり派手なデザインの。

 大事な部分だけを最低限隠して、他大部分が透けている。

 ぶっちゃけすげぇエロい。

 何だあのパンツ。

 わずかな時間だが、しっかりとその光景を目に焼き付けた。


「創太様ー」


 俺が下着をガン見していたのがバレていたらしい。

 着地したちわさんが、俺に向かってニコリと微笑む。


「もしきー先輩を大人しく渡してくれるなら、私の事好きにしてくれても良いよ?」


 言いながら胸元に指をかけ、谷間を見せつけてくる。


「………………」


 目の前の光景を見ながらさっきの光景も思い浮かべ、思わずゴクリと唾を飲み込んでしまう。


「……創太さん」「……平賀」「……師匠」 

「な、何だよ!」


 悲しそうな顔をしたキヨメさん、虫けらを見る様な目で見てくる部長と杏奈。


「あ、あんなあからさまな誘惑になんか乗らねぇよ! ほらキヨメさん、外に出るぞ! このままモール内で暴れたら人に迷惑がかかる!」

「…………はい」

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