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ファーストコンタクト

「ふぅ……」


 夕食後に行った筋トレでかいた汗をシャワーで流す。

 動かした筋肉は火照っているが、季節はまだ春。

 冷水を浴びるには少し肌寒い。

 なのでいつも通りの温度のお湯で、頭と体を洗い、流す。

 風呂場を出ると、いつもの様に用意してあるバスタオルを使い濡れた体を拭く。


「……しまった」


 そこで思い出した。

 明日は体育があるんだった。

 筋トレ、追い込みまでかけるんじゃなかった。

 疲労が残る。


「ま、仕方ねぇな」


 やってしまった物は今更どうしようもない。

 髪はバスタオルで拭いたら後は自然乾燥で乾かす事にして、服を着てから脱衣所を出ると、廊下を歩いて居間に向かう。

 居間に入るとテーブルの周りに座布団が三枚敷いてあるので、その中から一番テレビを見やすい位置にある物を選んで座る。


「何か面白いもんやってねぇかな」


 テーブルの上に置いてあるリモコンを使って、テレビをつける。

 番組表を表示させて調べると、その中に旅行番組があったので頭を使わずに見れそうだとそれを選択。

 旅館で食事をしている芸能人達の姿を見ながら、端にエメラルド色の装飾が付いたヘアピンと、メタリックなゴツいデザインの小さな髪留めを使い、両サイドの髪を留める。

 鏡が無いから位置が多少おかしいかもしれないが、別に良いだろう。

 どうせ家だ。

 誰に見られる訳でもない。

 髪を留めた後、今度は特に意味も無く部屋の中を見回す。

 日曜六時半からやっている国民的アニメに出てくる家みたいに、完全和風建築の我が家。

 けれど、俺が今見ている居間の液晶テレビみたいに、使っている家電製品はどれも新しい物なので、光景として見ると、ところどころどこかチグハグだ。


「おにいちゃーん」


 そうやってだらだらと過ごしていると、台所から同居人である杉田光が俺を呼ぶ声が聞こえた。


「何だー?」

「ぶどう食べるー?」


(ぶどう……)


「ぶどうって何だー?」


 別にぶどうが何かを知らない訳じゃない。 

 聞きたいのは種類の事だ。


「レッドグローブー」

「……じゃあ要らねぇー」


 レッドグローブは好きじゃない。

 味じゃなく、食べるのが面倒なところが好きじゃない。

 皮が剥きにくいし、種もある。

 皮ごと食べられるとか言うけど、俺は嫌だ。

 皮ごと噛んだ時、舌に薄っすらと渋みが残る感じが嫌なんだ。


「もう、仕方ないなー」


 すると、光がおぼんにぶどうと果物ナイフを乗せて居間にやってきた。

 肩に軽くかかる位の長さの髪を、薄っすらと赤みがかった茶色に染めて、後ろで二つに縛っている。

 顔を見れば、ニコニコと何が嬉しいのか特に意味も無く幸せそうな笑顔を浮かべて、我が家での定位置である俺の左隣に座る。

 彼女の名前は、杉田光。

 現在中学三年生。

 身内の贔屓目を抜きにしてもかなり可愛い、美少女と言って差し支えないレベルの容姿だと思う。

 身内とは言ったが、光は別に俺の妹という訳ではない。

 俺の名前は、平賀創太。

 そして光の姓は杉田。

 彼女は俺の妹ではなく、従妹なのだ。

 俺と従妹の光が何故こうして一緒に暮らしているかというと。

 俺と光の両親や家族達は今、日本ではなく海外で暮らしている。

 けれど、家族と一緒に海外に行かず日本に残る事にした俺と光。

 そこで俺達は、安全面や生活の利便性の事を考え、一緒に暮らす事にした。

 そうやって長い時間同じ屋根の下兄妹同然に暮らしてきたせいか、光は小さな頃と同じ様に今でも俺の事をおにいちゃんと呼ぶ。


「じゃあ私がぶどうの皮と種取るから、それなら食べるでしょ?」

「あぁ、それなら食べる」


 俺の答えに微笑みながら頷くと、光が手で丁寧にぶどうの皮を剥き、ナイフで半分に切る。

 その後刃の根元で種を取り除くと、俺の前に置いた小皿に乗せた。

 そこには小さなフォークも添えてあるので、それで食べろという事だろう。


「あー」


 けれど、俺は自分の手で食べない。

 大きく口を開ける。


「あー」

「もー、甘えんぼ」


 すると光が、仕方ないなーと言いながらおしぼりで手を拭いてからフォークを手に持ち、はい、あーん、と食べさせてくれる。


「……ん、美味い」

「良かった」


 俺に食べさせ終わると、またせっせとぶどうの皮剥きを始める。

 口を閉じて少し唇を突き出せば、言わずともはいはいとティッシュで優しく拭いてくれる。

 そしてまたあーと口を開ければ、ぶどうを食べさせてくれる。

 更に、フォークの金属の感触が嫌だと言えば、今度は指で直接食べさせてくれるだろう。

 自分で言うのも何だが、完全に駄目人間の図だ。

 こんな光景を見れば、誰もが俺に何甘えてんだカスと言うかもしれない。

 けど、言わせて欲しい。

 これは俺だけが悪い訳じゃない。

 光のせいでもあるんだ。

 光は小さな頃から、毎日の様にあれこれと俺の世話を焼いて、俺の事を甘やかし続けてきた。

 すると俺の方も、次第に人に世話を焼いてもらい、甘やかされる事が当たり前の事となっていき、気が付くとこうして自分では何も出来ない駄目人間となっていたのだ。

 この俺の甘ったれ具合は全て、光による長年の調教のたまものだ。

 光に甘え、面倒を見てもらう事を日常の一部にされてしまった。

 今更もうどうしようもない。

 光にはこの責任を取って貰わないと困る。

 と、言う訳で。

 光に一度告白した事があるのだが、思いっきり振られた。

 自分じゃ俺を幸せに出来ないから、らしい。

 こんなに俺を甘やかしてくれる光以外に、誰が俺を幸せに出来るというのか。

 結局光には振られたままで。

 けれど振った癖して光はこうして俺の世話を焼き続けている。

 光が何を考えているのか全くわからない。


「光、口の中が甘くなってきた。お茶」

「はーい。ちょっと待っててね」


 これだよ。

 光も俺の我が儘を少しは断ってくれりゃいいんだ。

 せめて嫌そうな顔をしたりとか。

 そしたら俺だって少しは自分でやろうと思えるのに。

 何を言ってもどんな我が儘を言っても、ニコニコと嬉しそうな顔をするから駄目なんだ。


(けど、このままじゃいけないよな。俺もこの春高校生になった事だし、そろそろ自立……)


「はい、おにいちゃん。あーん」

「あー」


 ……するのはもう少し先でもいいだろう。


「光」

「何?」

「お茶、いつもの熱過ぎない、けどぬるくもないやつな」

「はいはい、わかってるよおにいちゃん」


 そんな面倒なリクエストをいつも通りしていると。




 ビーーーーッ!




 家に誰かが来たのか。

 我が家のブザー音みたいでうるさい、チャイムの音が響いた。


「はーい」


 光が玄関に向かおうとする。


「ちょっと待て」


 それを制止して、腰を上げる。


「おにいちゃん?」


 そこまで遅い時間じゃないとはいえ、それでも普通なら来訪なんて考えないだろう時間。

 不審者かもしれない。

 何かあっては事だ。


「俺が出る」


 男の俺が出る事にする。

 その為の同居でもあるしな。



 ビーーッ!



 再度鳴るチャイム。


「しつこい」


 玄関に向かい電気を点けた後、引き戸の前で尋ねる。


「どちら様ですか?」


 引き戸のガラスの向こうに人影が見える。


(女?)


 曇りガラスのせいで姿はちゃんと見えないが、髪の長さと体型の細さから、恐らく女だろう。


『あ、あのっ』


 玄関の引き戸越しに可愛らしい声。

 やっぱり女だ。


『夜分にすみません。こちら、平賀創太さんのお宅で間違いないでしょうか?』

「え?」


 俺?


(俺の知り合いなのか?)


 けど、声に聞き覚えは無い。


(誰だろう……?)


 気になるし、戸を開けてみる。



 ガラガラガラ……



「――っ!」


 開けて来訪者の姿を見た瞬間。

 呼吸が止まった。

 瞳孔がグワッと大きく開いたのが自分でもわかる。

 戸の向こうに立っていたのは、陳腐な言い方だが正に絶世の美女。

 月明かりに照らされたその姿は神々しく、自分は人ではなく美の女神だなんて馬鹿な名乗り方をされても、信用してしまうかもしれない。

 ふわりと夜風に揺れる艶やかな長い黒髪。

 マスカラも必要無さそうな長い睫毛に、目尻が少し下がり気味なものの、綺麗な形の大きな瞳。

 鼻筋もスッと通っていて、まるで作り物めいた美しさ。

 年は大学生位だろうか?

 一瞬彼女からどこか懐かしい様な雰囲気を感じたが、多分気のせいだろう。

 こんな、テレビに出ていてもおかしくないどころか、女優やモデル等、芸能人だとしてもトップクラスの美人の知り合いなんて、俺にはいない。


「ぇ、と……」


 見惚れてフリーズしてしまいそうなところを何とか堪え、声を絞り出す。

 彼女の魅力は、顔だけではなかった。

 長袖のピッチリとしたセーター越しにわかる、その極上のスタイル。

 胸はグラビア雑誌でもそうそう見られない様な、スイカやメロンと称される大きさ。

 その下にある腰も、しっかりとメリハリがついてキュッと細く締まっている。

 胸が大きすぎるせいで尻周りのサイズが追いつかず、理想体型として言われるボンキュッボンでは無く、ボンキュッポン程度になっているのは仕方がない事だろう。

 ただ、一つ気になるのが……。


(何て恰好してやがるんだこの女!)


 長袖のセーターを着ていると言ったが。

 着ているのが本当にそれだけで、下は何も穿いていないっぽいのだ。

 ……いや、下着位は穿いてるだろうけど。

 セーターを伸ばして下半身を隠すようにしながら、モジモジと前かがみになって恥ずかしそうに顔を赤くしている。


(だから、恥ずかしいなら何でそんな恰好してるんだよ!)


 セーターから伸びた真っ白でスラッと長い、艶めかしく綺麗な生足から必死に視線を逸らそうとするが、中々上手くいかない。


「あの、ひら……ん、んんっ!」


 喋ろうとして声が裏返った。

 落ち着け、俺。


「平賀創太は俺ですけど。その……どちら様でしょうか?」


 足だの胸だのをいつまでも見てる訳にはいかない。

 会話する事で、無理にでも相手の顔を見ざるを得ない状況を作る。

 けれど、その顔を見ようとすれば今度は相手があまりにも美人過ぎて直視できず、結局どこを見れば良いのかわからなくなり、ただ顔を赤らめて挙動不審に視線を動かす。


(……情けねぇ)


「わぁ……!」


 一方、俺の動揺には気付かず、俺の言葉を聞き、顔を見て目が合った瞬間、両手を合わせて嬉しそうな表情で微笑む謎の美女。


(う)


 その表情と姿に、俺の顔が更に赤くなる。

 押さえが無くなり見える様になった下半身は、やはりというか思っていた通り、真っ白なパンツ一枚だけだった。


「創太さん……!」


 やはり彼女は俺の事を知っているらしい。


「写真で見た通りのお顔です……!」


 写真?


「お顔は綺麗なのに、目元に覇気が無いせいでパッとしない残念風味……。本当に、写真の通りです!」

「…………」


 失礼な女だなおい。


「写真の通り、実に私好みのとても素敵なお顔です!」

「え!?」


 頬に手を当てて、とろけそうな顔をしながらそんな事を言う。

 馬鹿にされているのか褒められているのか、正直よくわからない。


「あ」


 ハッと何かに気付いた様に表情を変えると、ピンと背筋を真っ直ぐに伸ばし、真剣な顔で俺を見る。

 すると、背筋を伸ばした事で更にパンツがよく見える様になる。


「挨拶が遅れました。初めまして創太さん。私の名前は、キヨメと言います」


 そう言って頭を下げる。


「キヨメ……さん?」


(キヨメ……キヨメ……キヨメ……)


 記憶を探るが、やはり聞き覚えの無い名前。


「キヨメさん……ですか。それで、キヨメさんはどうして今日ここに?」

「えぇ!?」

「えぇって……」


 何故そこで驚く。


「どうしてって……そのぉ……」


 指をクルクルと回しながら、恥ずかしそうな、困った顔をされる。

 自分から来ておいて用件を話すのを渋るとか、意味がわからない。


「そのぉー……ですね? 私はぁー……」

「………………」


 玄関先に人を立たせて長話ってのもあれだから、中に招いた方がいいのかもしれないけど。

 いくら美人とは言え、こんなエキセントリックな恰好をした人を簡単に家に入れる程、俺は無警戒な人間じゃない。

 最低限、俺をわざわざ訪ねてきた理由だけでも聞いておきたい。


「ひ、平賀創太さん!」


 遂に決心したのか。

 強い意志の込もった瞳で俺を見る。


「平賀創太さん、私は!」


 目を瞑り、顔どころか手や足まで恥ずかしそうに真っ赤に染めて、叫ぶ。


「私は、今日から!」

「今日から?」

「その!」

「その?」

「あ、ああ……」

「あ?」

「あなた専用の!」

「俺専用の?」


 俺専用?

 何だ?


「……せ、せせせ……」

「せ?」


 すぅっ、と大きく息を吸い込む。




「性欲処理道具となる為に! ここに来ました!」




 ガラガラガラガラッ――ピシャン!




「ふぅ……」


 戸を閉めた。

 人は見かけによらない。

 奴はキチガイ痴女。

 略してキチジョだ。

 春は犯罪者が増える。

 相手が女性でも美人でも決して油断せず、迂闊に戸なんて開けてはいけない。


「光にも気を付ける様に言っておかないと……」



 ビーーッ!


  ビビビビーーーーッ!



「………………」


 キチジョがチャイムを連打している。


「お兄ちゃん?」


 光がチャイムを気にして玄関にやってきた。


「どうしたの?」

「いや、別に……」



 ビーーッ! ビッビーーーーッ!



「……………………」


 うるせぇ。


「鳴ってるよ?」

「いや、いい。無視するんだ」

『創太さぁ~ん……。違うんですぅ~……。お話を、お話を最後まで聞いて下さいぃ~……』

「……泣いてるよ?」

「いや、いい。無視するんだ。それよりも……」


 携帯を取り出す。


「110番、110番……」


 頭のおかしい変質者が家の前にいると、警察に通報する事にしよう。



 ブルルルル、ブルルルル!



「うわっ」


 すると、手に持った携帯が震え出した。

 着信だ。


「着信? このタイミングで? 誰だ?」


 相手の名前を見る。



<杉田日和>



「日和?」


 俺と同じ歳の光の姉、杉田日和からだった。




      *




 オーバーテクノロジー。

 ある日その言葉の意味が、フィクションの世界に出てくる超技術に対してではなく、ある一族の作る発明品に対して向けられる、現実の言葉へと変わった。

 天才、奇才。

 どんな言葉も適さない、人類の歴史上最上位の頭脳を持つ一族。

 平賀家。

 それが、その一族の名前。

 ……まぁ、俺の家の事だ。

 光の苗字の杉田家も、同じくとてつもなく優秀な一族。

 そんな両一族が、ある日婚姻による繋がりを持った。

 元々高い頭脳を持った両一族が、これにより更に優秀な人材や発明品を生み出す様になり、世界は変わった。

 そしてその平賀杉田両一族は、好き放題発明をするのに邪魔だからと、特定の先進国に属するのをやめ、国連にも加盟していない小国へと移住する事にした。

 アニメで見て恰好良かった、なんて理由で宇宙戦艦を作ったり、実際はどんな姿だったのか見てみたくなった、という理由だけで恐竜を現代に復活させたりと、本当にどこまでも無茶苦茶な事をする人達なのだ。

 そんな事をしていればどこの国だって文句の一つも言いたくなるし、国益を考えれば技術提供を求めたくもなる。

 その面倒ないざこざから逃げる為に、彼らはその小国へと移住したのだ。

 確かに無茶苦茶な人達だが、移住先の国にしてみれば、国防はバッチリ、地震や台風、津波等の天災も軽く防いで、食糧エネルギー問題もちょちょいと解決。

 そして、彼らの技術による恩恵だけではなく、監視やご機嫌取りを目的とした人々が世界中から集まりもするので、外貨も沢山入ってくる。

 現地では結構喜ばれているらしい。




      *




 これは、そんな平賀家に生まれた俺の話。

 平賀家に生まれた事で、幸か不幸かその技術の一部があれこれと送られてくるのだ。

 ……いや、違うな。

 幸か不幸かと言ったが。

 はっきり言う。

 送られてくる物のほとんどが、不幸にしか繋がってないぞ!

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