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柔らかく書いたつもりですが不快な表現があるかもしれません。
途中で視点が変わります。
結局俺はその辺で売ってた安いパンを食うことになった。もちろんそのパンをむっちゃんも食べた。
夜も更け、宿に入る。
昼過ぎくらいだったのだろうか、最初に入った時より人が多くて酒の臭が一階に漂ってる。
「お嬢ちゃん達2人かい? おじさん達のお酒の相手してよ~」
「そんなおじさん達より僕たちのパーティーと一緒に食事でもどうだい?」
うるせーな。誰が好きで男の相手をしなくちゃならんのだ。
「悪いな今日はもう眠いんだ。それとお嬢ちゃん達ではない、ちゃんとここに男がいる」
「ちっ男連れかよ。男が部屋で待ってるってか」
「そんな男なんてほっといてどうだい僕たちと?」
あ~もう、いいや。
相手するのもめんどくさくなったから早々と部屋に向かおうとするが、むっちゃんが歩く時の杖の音がしない。
「早く行こう――ぜ、ってちょっと待て」
振り向いた先にいたむっちゃんの目はヤバかった。
俺を睨みつけた時よりも確実な殺意が宿ってる目だ。
杖を落として完全に飛びかかる勢いだ。
「っちょっちょちょ。女の子がそんな目をするんじゃないよ。その目を向けていいのは俺だけだぜ」
飛びかかろうとしているむっちゃんと酒を飲んでるおっさん達の間に入った。
もう、そんなことでいちいち怒ってたら日本の居酒屋なんて血まみれだよ?
勢い余ったむっちゃんが体に寄りかかってくる。
ふっ、セリフも決まったし、ちょっとカッコイイんじゃない?
カランという金属の落ちる音がした。
なんだ?
「それむっちゃんが貰ったナイフだろ? ちゃんと持っとけ。ほらほら早く部屋行くぞ」
部屋にむっちゃんを連れて行く。
ベッドが2つ少し離れて置いてあって、他に物は何も置いていない。
日本だとテレビとか冷蔵庫あるんだけど、ないと寂しく感じるな。
イクスに貰ったパン明日ならまだ食えるよね? 先にこっちを食えばよかった。
今日は歩き回ったから疲れたぜ。情報収集は明日にしよう。
「じゃあ俺寝るから。おやすみー」
「……ねぇあんた。一体なんなの? さっき何かしたの?」
目を瞑ろうとしたが、むっちゃんから話しかけてくるとはな……まだ寝るわけにはいかんようだ。
さっきのがよほどカッコよく決まってしまったらしい。
「どっちかっていうと、何かしそうだったのはむっちゃんだろ? 俺はなんもしてないぞ。女が間違いそうになったら正してやるのが男ってもんさ」
うん、いいね。カッコイイ雰囲気出てるよ俺。
「なんなの? 男に憧れてるの? あんたの方が年下でしょ!! 自分より下の人間を見て優越感に浸ってるわけ!!?」
なんだなんだ? どうしちゃったの?
女の子はいきなり怒り出すという伝説を聞いたことがあるが、真であったか。
「言っておくが、俺は多分むっちゃんより年上だし、女じゃなくて本当に男だ。別に優越感に浸ってるわけでもない」
「ふざけないで!!」
もう、お肉食べて元気ですぎ。
今まで全然喋らなかったじゃんか。
しょうがない、証拠見せれば納得するかな。
……いや、無理に出すと変な癖つきそうだし、明日になれば気も納まるだろう。
「いつの世も世界を変える人間は理解されないものよ。ふふふ、お嬢さん俺は寝る」
――――――――――――――――――――
久しぶりに外の空気を吸った気がする、光が眩しい。
この少女は一体何者なんだろう……
初めは金持ちの道楽かと思ったけどそうでもないみたい。
奴隷契約はしていない……逃げるか?
いや、あの少女の持ってる袋にはまだ金が入っていた。それを奪ってからだ。
指名手配されてるいるようだし、私を身代わりに殺して逃げるつもりなのだろうか?
そうはいかない、何か不審な動きをしたら返り討ちにしてやる。
殺すにしても人目のつかない所に移動するはずだ。
まだ体が思うように動かせない……この馬車を操る男はまだ殺さない方がいい。
機会はまだある。
隣街……なるほど、王都よりは警備の目が少ない、ここに仲間がいるのだろう。
私が弱っているとはいえ、流石にこの少女1人で私を殺すのは難しいはず。
身長もこの少女とは差がある。服を着せて体をバラバラに切り落とすとなれば、いる。必ず仲間がいる。
「まあ、そうだな。俺はこの剣とか余裕で持てちゃうけど、むっちゃんはか弱いからナイフとかにしようか。うん、それがいい。ほら好きなの選んでいいぞ?」
ナイフ? 何故私に?
そうか、指名手配されてるくらいの人物だ。護身用の武器を何も持っていないのは不自然。だけど、私が弱っているとみて油断しているようね。
「むっちゃん、宿見つけたら教えてくれ」
宿に泊まってこの街に来た証拠を残すのね、なかなか賢いみたい。
いいわ乗ってあげる、そうなると今日か明日に決行されるはずね。
「見ろよむっちゃん。あのおっさん乳首見えてんぞ。気づいてないのかな?」
「この世界には男と女の数の4倍乳首があると仮定すると俺はその中の一部なんだなって、小さい人間なんだなって……思わない?」
「やっぱりこの世界にはいるのかね、獣っ娘。むっちゃんは何がいい? 俺はねー、たぬきかな。たぬきっぽい子って愛嬌あるよね?」
変な奴……会話の内容がバカみたいだし、もしかして……
いや、油断させて私の隙を作る気だ。
今は何でもいい、少しでも腹を満たして動けるようにしよう。
あぁ、久しぶりのお肉……美味しいな。
「お嬢ちゃん達2人かい? おじさん達のお酒の相手してよ~」
「そんなおじさん達より僕たちのパーティーと一緒に食事でもどうだい?」
男……こんなやつら死ねばいい。
私の寝込みを襲うとしたら、こいつらが仲間の可能性は高い。今殺ってしまおう。
違ったとしても男なら問題ない。
少しは体が思うように動くなった、こいつらはこっちを見てない。体格差はあるけど不意打ちならいける。
「っちょっちょちょ。女の子がそんな目をするんじゃないよ。その目を向けていいのは俺だけだぜ」
なに? この子飛び出してきてナイフを弾いた!?
確かに手応えはあったはず。どうして刃が刺さらないの!?
刺さらないんじゃなくてそらされたのかもしれない。
「じゃあ俺寝るから。おやすみー」
「……ねぇあんた。一体なんなの? さっき何かしたの?」
かなり幼く見えるが、さっきのナイフを去なしたのだとしたら相当の使い手かもしれない。だとしたら不意打ちを許すとは思えない。
「どっちかっていうと、何かしそうだったのはむっちゃんだろ? 俺はなんもしてないぞ。女が間違いそうになったら正してやるのが男ってもんさ」
とぼける気ね。
何が男よ……
「なんなの? 男に憧れてるの? あんたの方が年下でしょ!! 自分より下の人間を見て優越感に浸ってるわけ!!?」
「言っておくが、俺は多分むっちゃんより年上だし、女じゃなくて本当に男だ。別に優越感に浸ってるわけでもない」
「ふざけないで!!」
「いつの世も世界を変える人間は理解されないものよ。ふふふ、お嬢さん俺は寝る」
本当にふざけてる。
―
――
―――
寝た……の?
襲ってきた所を返り討ちにしてやろうと思ってたけどいつになっても襲ってこない。
ナイフの柄が汗で染みを作ってる。私緊張してるのかな……
そっと起き上がってみるけど何も反応は無い、もう少し近づいてみよう。
少女のベッドまで近づいたけど無防備に寝てる。こう見るとただの女の子にしか見えない。
あの時ナイフを居なしたのは偶然?
……無理に殺す必要も無いし袋だけ持って逃げ――何これ?
無垢な寝顔の少女の下半身に違和感がある。
スカートが持ち上がっている……まさか、そんな……本当に?
念のためスカートの中を覗いてみた。
っ!! 本当に男!!?
うそ、信じられない。
ついてる!!?
どう見ても女の子にしか見えないけど、男と分かった以上生かさない。
今、ここで殺す。
完全に隙だらけだ。
逃げられないように上に跨いで何度も突き刺す。
なぜだろう……嫌でも思い浮かぶあの時の光景。何人もの男が代わる代わる犯していった。あの時のあいつらの顔を思い出すと吐き気がする。
一層舌を噛み切って死んだほうが救われたかもしれない。
でもそれをしなかった。いつか絶対にあいつらを殺す。
今私を支えているのはそれだけ。
男なんて皆同じ、ただ快楽のことしか考えていない。
こいつだって同じだ。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね
男なんて……皆死ねば……
――えっ、なんで? なんでナイフが刺さらないの!? どうして?
何度も刺したはずなのに血の一滴も出ない。それどころか洋服すら切れないなんて有り得るの!?
「うそ……早く死んでよ……なんなのよ……なんで死なないの。なんなのこいつ」
――――――――――――――――――――
「――なんなのよ……なんで死なないの。なんなのこいつ」
いつの間にか寝てたな。
この声はむっちゃんか?
「おい、どうしたんだ?」
「ひっ」
ドンと床から音がする。
瞼を開けるとむっちゃんが俺のベッドの下で何かに怯えるように後ずさりしてる。
寝ぼけてベッドから落ちたのか?
「来ないで化物!!」
え? 化物? どどどどうしよう。なんか入ってきたの!?
「ととと取り敢えず逃げるぞむっちゃん。ほら早くこい」
ベッドから飛び起きて袋を持ち、床で女の子座りしてるむっちゃんの手を掴む。
「触らないで! 化物っ!」
あれ~? なんで、手を振りほどかれるんだ?
冷静になって見回して見れば化物なんていない。
俺が化物に見えてるのか、何故に?
ああ、そうか。
「むっちゃんも案外子供だな。落ち着け、何か恐い夢でも見たんだろう。仕方ないから子守唄でも歌ってやろう。感謝しろ」
「そんな訳ないでしょ。本当になんなのあんた、人間じゃない……そもそも全部がおかしいのよ! 私が怖くないの!? なんで刃物を渡したの!? 私を買って何するつもりなの!! どうして街を連れ回すの! どうして死なないの!?」
質問が多いな……何言ってるのかよくわかんないぞ。
こういう時はなんて言えばいいのか……
「まあ、そのなんだ。出たいって言ってたから出しただけだし、ほら俺元気な女の子可愛いと思うし……肉食ってるむっちゃんは怖くないしむしろ可愛かった。みたいな?」
自分でもちゃんと答えられてないのが分かっていたが、むっちゃんの顔は明らかに納得していないように見える。
「私のことなんか何も知らないくせに……私は……私は、汚いの。女としてもう生きていけない。生きる価値すらないの。哀れみなさいよ、同情しなさいよ! あんただって、男なんて……あんなやつら皆死ねばいいのいよ。私だって……私だって普通の女の子として生きたかった……」
こんなに泣き叫ぶほど何か溜めてたんだな。あの奴隷商の話から考えれば当然か……
俺としたことが気付いてやれなかった。
まだまだ修行が足りんな。
「……そうか。言いたいことはそれだけか?」
「……何か言いなさいよ。慰める言葉でも言えばいいじゃない」
「慰めて欲しかったのか?」
「…………」
「俺にむっちゃんの気持ちは分からない。例え似たような目に会ったとしてもだ。だけど話ならいくらでも聞いてやる。そしたらちょっとは分かるかもしれない。ほら、男に復讐したいんだろ? だったら早く寝ろ。明日は病気を治すための情報収集に行く予定なんだ。治ってから復讐しても遅くはないだろ? それとだな……普通の女の子として生きたいんだろ? ならまだ諦めるな。これから俺が最高の女にしてやる」
「…………へんなやつ。何か私がバカみたい」
どうやら納得してくれたみたいだな。大人しく隣のベッドに横になってる。
うん、素直でよろしい。
女神さん、すまないな。世界を救うのはもう少しかかりそうだ。
明日情報が得られるといいんだがな……