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 はて、どうしますか。

 昨日はついイクスと好きな子の話で盛り上がっちまったおかげで、この世界について何も聞けなかった。



 ん? あの鎧は見たことあるな。召喚された時周りにいた兵士のやつだ。朝からご苦労なことで。

 なんか紙貼ってる。なんだろう?


 その兵士が貼ったと思われる紙が近くにあったので見てみる。

 え~となになに? 



 そういえば俺字が読めないんだった。


 下には丸に点が点いたようなものにフリフリの黒い服? らしきものを着た何かが描かれてる。

 これって……もしかして、俺? 下手くそすぎるだろ!! もっと上手く描け!!


 どうやら指名手配されてしまったようだ。まいったなこりゃ。


 しょうがないから人目につかない所に隠れるか。といってもなぁ。知り合いなんて……

 あ! あそこ行ってみるか!





 「よっ、来てやったぜ」


 「朝早くから何だ? ご主人様はどうした?」


 「奴隷の契約を解いてもらった。今日は客だぞ。案内しろ」


 「一体何したら1日で契約破棄されるんだ……相変わらず偉そうだし……まあいい入れ」


 俺が奴隷の契約をさせられた部屋に案内された。ここが商談の部屋でもあるようだな。


 「で? 何のようだ? まさか奴隷を買いに来たという訳じゃないだろう?」


……むしろ俺が聞きたい、なんでここに来たんだろう?

 奴隷商売って違法っぽいし、取り敢えずここに来れば一安心かなと思っただけだしな。

 適当に話合わせとけばいいか。


 「ふん、それ以外にこんな所に来るわけがないだろう? 俺は客だぞ! この店は客に茶も出さないのか!!」


 「朝から本当にうるさいやつだな。その前に金は持ってるんだろうな? 飯を食えなかったやつが奴隷を買えるくらいの大金を持っているようには思えないのでな」


 確かに!! こいつ頭いいな。金っつってもイクスに貰った袋しか持ってないしなぁ。

 あの金属みたいのって金なのかな?


 「俺を誰だと思ってる? 当然持っている」


 袋の中に入ってる円形の金属を幾つか取り出す。日本で言えば硬貨にあたる……はず!


 「ふざけてるのか? こんなガキの小遣いしかないならとっとと帰れ」


 うーん、ダメだったか……

 しょうがないから袋の中身を机にバラまく。


 「今のは試しただけだ、ほらこんなにあるぞ。パンでも食って落ち着け」


 奴隷商のおっさんが袋に入ってた紙の束を掴みペラペラめくりはじめた。


 「持っているなら最初からだせ。これだと低ランクの奴隷だな……ついてこい」


 あの紙金だったのか!! 真四角だからティッシュかと思ってた。そう言われればそう見えなくもないデザインだ。

 ところでお茶はくれないの……?


 奴隷商のおっさんとメイドさんの2人に案内されて俺が少しの間だけ過ごした空間に案内される。最も今回は外から眺める側なのだが。


 上のランクがいる部屋は無視して奥の扉へ案内される。こっちは来たことが無い。

 扉を開けると少し臭がきつくなった。なんていうのだろうか、人の匂いがする。

 

 いくつか小部屋があって、一番奥に大部屋があった。

 小部屋の方からは誰かがいるような気配はしない。

 全員がこの大部屋にいるのだろうか?


「こっから選びな」


 どうしよう……奴隷とか買う気ないなんて今更言えない……


 大部屋の中には数十人の女の人がズラリと並んでいた。


 こっちは比較的年を取った人が多いな。

 確かに一般的にいえばそれほど見た目がいいとは言えないな。


 「どうするんだ?」


 しかしこれもまた運命か……


 「よし、よく聞け。ここから出たいやつはいるか!!」


 部屋中響くくらいの大声で言ってやった。

 この部屋にいる人間からは覇気が感じられない。

 しばらくしても誰も名乗りを挙げない。

 やはりこの階級の奴隷はかなり酷い扱いを受けるのが常識なんだろうな。

 自らそんな扱いを受けようとは思わないか。

 ここなら一応生きていけるしな、当然か。


 「悪いな、奴隷を買うのは今回は――」


 「うぅ……」


 何か聞こえた? 幻聴? この部屋からじゃない気がする。


 「今何か聞こえたような気がするんだが、気のせいか?」


 奴隷商のおっさんがにやりと口元をあげた。


 「よく聞こえたな。他に1人いるにはいるが、見るか? 面白いぞ?」


 面白い? 奴隷芸人とかいるのか?


 「そうだな。この世界の芸人レベルを見てやる」


 「何を言ってるんだ? まあいい、こっちだ」


 大部屋を出て1つの小部屋の扉を開けた。

 誰もいないと思っていたが……


 さっきの大部屋は人間ぽい臭だったが、こっちはもう少し変な臭がする。

 長いことここにいるのだろうか、中には1人の人間がベッドがあるのに床に伏せている。倒れてると言ったほうがいいだろうか。

 生きてるのか?


 「なぁ、お前大丈夫か?」


 手を貸そうと思ったら奴隷商のおっさんが口を開いた。


 「やめておけ、こいつは病気だ。触るくらいならうつらないが何かあっても責任はとらないぞ?」


 病気? ってなんだ?


 「じゃあ治してやれよ」


 奴隷商がふん、と鼻息を鳴らした。


 「何故そんなことを? こいつは別に死んでも構わない。時々わめき散らすのが面白いから置いてるだけだ」


 「罪人だったりするのか?」


 「こいつは元奴隷だ。そこで大分使われてたみたいでな、主人に飽きられて他の男奴隷共の相手をしていたらしい。それが傑作で元主人の話だと同時に5――」


 「もういい。暫く静かにしててくれ」

 

 流石のこの俺も少し気分が悪くなったぞ。

 奴隷商の話を聞いて目の前の女の指がピクリと動いた。

 意識はあるようだ。


 「おい、そこの女。お前にも聞いてやる。ここから出たいか?」


 「……す」


 何か言ってるな。聞こえなかった。


 「なんだ? すまんがもう一度言ってくれ」


 「……ろす。ころす。ぜ……いんころす……」


 下をうつむきながら何度もそう繰り返している。

 その意気や良し!

 だが、質問の答えになってないな。


 「なんだ? 俺を殺したいのか? それともこのおっさんか? で、どうする? 出たいのか? 出たくないのか?」


 「お前も……殺してやる」


 こっちを向いてハッキリとした殺意を俺に向けた。

 髪はボサボサだが、その隙間から見える目が俺と合う。

 この俺に喧嘩を売るとはいい度胸だ。


 「最後だ。出たいのか? 出たくないのか?」


 女が俺の足首を掴んだ。弱々しく見えたが掴む腕の力は予想以上に強く感じられた。


 「……行く……出て……全員……殺す」


 「……いい答えだ。俺についてこい。そのつまらん答えを忘れるくらいの世界が変わる瞬間というものを見せてやろう」


 俺は様子を見ていた奴隷商の方へ向く。


 「この女を買う。いくらだ?」


 奴隷商が笑った。


 「っはっはっは。まさかゴミに値段をつける人間がいるなんてな。特別に金札4枚で売ってやる」


 やっぱりしっかり金とるんだな。

 金札4枚? この金色の紙でいいのだろうか?

 袋から4枚出して奴隷商に渡す。


 「毎度どうも。そいつとは奴隷契約を結んでいない、どうする? ここで契約するか?」


 奴隷でもなくただの人か……


 「いや、いい。それより病気とやらについて教えろ」


 「そのゴミに殺されても文句を言うなよ? よく知らないがカラドという性病らしい。高位の術師か薬師なら詳しいだろうな。まあこの感じだと治るかどうかは怪しいけどな」


 そうか、この世界では病気も魔法でどうにかなるのか……

 いろいろできそうだし、後で魔法覚えよう。俺は勇者だからきっと使えるはず。


 「女が歩けるように木の棒か何かおまけでつけろ」


 「それはいいが、洗浄はしないぞ」


 メイドさんが持ってきた長い木の杖を受け取り女に渡す。

 それを突きたて女が立ち上がった。


 最後に上のランクと下のランクの部屋を結ぶ扉を開いて喉が痛くなるくらいの声で言ってやった。


 「皆の者!! よーーーく聞け。今ここにいる俺をどなたと心得る! 恐れ多くも世界を変える男。俺だ!! ある意味ここで生まれたと言っていい。俺がこの檻をぶっ壊すまでにそのつまんねぇ面をあげて、せいぜい女を磨いておけ。そしていい女になったら付き合ってください!! お願いします!!」



 店の外に出ると街に活気が出ていた。

 ずっと歩いてなかったのか女の歩みは遅かった。

 指名手配されてるっぽいから人通りが少ない所を選んで歩くことにした。


 この街は居にくいな、早く出たい。

 何か移動手段はないもんだろうか……?



 武器屋だろうか、剣とか盾を荷馬車に積んでいる男がいる。

 どっか行くのか?


 「なあ、これからどこか行くのか? もしこの街から出て行くなら一緒に連れて行って欲しいんだけど、俺ら2人」


 暫く俺の足先から頭までじっくり観察してから男が驚いたような表情になった。


 「そうだが……お、お前は手配書の!」


 やっぱ知ってるか、仕方ない。

 袋から金色の硬貨を出して男に渡す。多分金色のが高いだろう。


 「連れて行ってくれたらもっと払うぞ?」


 男が考えている。


 「あと2枚だな」


 どうやら交渉成立のようだ。話が早くて助かる。

 袋の中から3枚を取り出して1枚渡す。


 「着いたらあと2枚くれてやる」


 一応多めに払えば売り渡すこともしないだろう……多分。

 イクスには本当に感謝しきれないな。


 「ちっ、しっかりしてんな。こん中隠れてな。いいって言うまで出てくるなよ」


 荷物はほとんど積み終わっていたのかすぐに馬車はカタカタと動き出した。

 不自然な会話も無いし、変な動きも感じないから約束は守ってくれているみたいだな。

 買った女は不気味なくらい何も話さない。

 この雰囲気はちょっとだけ気まずい。


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