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ともあれ追っ手を追い払ってくれたのだから今のうちに逃げましょう。
結構広く穴を開けてくれたおかげで街に着くまでに一苦労だよ。
スカートが長くて歩きにくいから縛ろう。しかしあっちでは普通に着れてたんだがなあ……
「すみませーん。そこの方、ちょっとお話を……」
「まだそういう時間じゃねぇだろ。後にしてくれ」
城下町に降りていろんな人に話しかけてみるが……うーん、この世界の情報を知りたいのに誰も相手にしてくれんぞ。28歳のおっさんがゴスロリ着て話しかけてるだけなのに何でこんなに皆冷たいの?
それと何かこの国の人間デカくね? 男なんて皆俺より背が高い。あっちでは170はあったはずなんだがな……
あーもうなんか腹減った。飯食うぞ飯。それから考える。
少し歩いた先に漫画肉を描いたような看板の店があったから入ってみる。話はできるんだが、こっちの字は何が書いてあるのか読めない。
「どうも~あの~ここで何か食べられます?」
すげー不審な目で見てくるな。背小さいからドワーフとか思われてんのかな? いるのか知らんけど。
「……疑ってるわけじゃねぇが、ステ証と金見せな」
すてしょ? それもギフトの何か? 金は……持ってないな。いきなりだったし。
「無いんだけど、働くからそれじゃダメか?」
「……すまんがこの店を出てってくれ。悪いことは言わねぇ、とっととこの国を離れるか教会にでも行ったほうがいい」
追い出されてしまった。この世界にはこの世界のルールがあるみたいだな。
しかしまいった。
寝床も確保出来なさそうだし、1日目は野宿になりそうだ。果たしてこんなんで世界を救えるのか?
「そこのお嬢さん。もしかして困ってるの?」
金落ちてないかぶらぶらしてたらおっさんに声かけられた。30前半くらいで優しそうな笑顔だ。飯を奢ってくれるのか?
「お嬢さんとは面白いことを言うな。確かに困ってます。ご飯恵んでください」
礼儀正しく腰を60度くらい曲げた頼んだ。
「いいよ。じゃあおじさんと一緒に行こうか」
なんか手を繋ごうとしてくるんですけど、そういうやつ? いや、ホント無理だから。絵ヅラ的にもキツいでしょ。
でも気分害されたら飯食えねぇしな。まだそういう趣味と決まったわけではない、仕方がないから手を繋いでやろう。願わくば可愛い女の子に出会いませんように。
着いたのは結構大きな建物だった。ゲートのような物まであって読めない文字が書かれてる。2階建てくらいの大きさで周囲を高い柵で囲って、悪趣味というか……
よほどの金持ちか? なんか怖くなってきたな。
「あの、やっぱいいです」
「ん? どうしたの? お友達もいっぱいいるよ?」
お友達って……やっぱりそういうお友達?
「いや、あの男同士とか本当に無理っていうか……」
「大丈夫だよ。女の子がいっぱいいるよ」
「行きましょう」
こう言われてしまったら仕方ないね。
きっとこの人はすごいお金持ちで浮浪者にご飯を食べさせてあげているのだ、炊き出しみたいなもんさ。お友達っていうのはそういう意味だったんだよ!
立派な作りの木の扉を開けると1人のお抱えメイドみたいな人が俺達を迎え、頭を下げる。この世界のメイドは地味だな。全身紺のワンピースみたいの着てる。
「こっちおいで」
やっぱり金持ちなんだな。おっさんの後についてくことにする。
「この陣の上に手乗せてもらえる?」
机をはさんでソファーが向かいあった小部屋のようなところに座らせられると、円形の文字が書かれた紙を2枚机に置いた。
これ多分魔法だろ? 俺になにさせよってんだ? まさか……!
手洗い除菌的なやつか!? ご飯食べる前だし有り得る。異世界流のマナーなのかもしれない。
「これでいいのか?」
恐る恐る手を乗せる。ドキドキするな。
「ちょっとチクッとするけど我慢してね」
え? ヤダ。痛いのヤダ。
反射的に手を引っ込めたら少しおっさんの目が鋭くなった。
「ほんのちょっとだから大丈夫だよ? ほら、手を乗せて」
だったら手を洗います。流石にこの世界にもトイレくらいあるだろ? 俺はそこで洗ってくるよ。
「お手洗いありますか?」
ガッと腕を掴まれた。いてぇよ。
「今更逃げるなんてダメだよ? ほら手を載せればすぐだから」
なんなんだよ。逃げないから、ちゃんと飯食ってから出てくから。潔癖症なのか? 目の前で消毒しないと気がすまないみたいな?
「わーかったよ。やるけど、痛いならせめてあのメイドさんにしてよ」
めんどくさい人だなぁ、腹減ったしもうその消毒やるからせめて女の人にしてくれ。それが妥協点だ。
「エイザ来なさい。君がやってくれと指名が入ったよ」
おっさんが微妙に恐い表情を残しつつそう言うと、さっきのメイドさんが来た。
あんま可愛くないけど、まあいっか。
エイザと呼ばれたメイドが紙の上に置いた俺の両手の上に手をかざして何やらぶつぶつ唱えている。
パチっという静電気みたいな音がするとエイザさんがこっちを見つめる。
終わったのかな? 全然痛くなかったけど……
見るとエイザさんの表情がちょっと曇ってる。何故だ?
そうか! さっき痛いよって言ってたのに反応しないからだ! あのおっさんは潔癖症でちゃんと魔法が発動しないと安心できないんだ。いくら可愛くないとはいえ、メイドの魔法が失敗したとなると責任は彼女に向く。
しょうがない、おっさんには悪いがこれもまた宿命。
「……いったーーーー!!! 後からすごいきた!! ピリっとするやつだーーーうわーー後からくるタイプかーー」
チラッとおっさんを確認すると満足そうだ。
ちょっとオーバーだったが、すごい痛い=綺麗になった
でいいようだ。
除菌が終わるとさっきより強い力で腕を掴まれて地下室に連れてかれた。
何か変な臭するな。
これはもしかして……やっちまったか?
力任せに牢屋みたいなところにねじ込まれて南京錠で外から鍵をかけられた。
「ほら、今日からオマエはここで生活する。ここでの名前は奴隷No4545だ。いいな?」
よくねぇよ。そのナンバー飛ばせよ。
じゃなくて、奴隷?
「おい、おっさん何言ってんだ? 飯は?」
「ふん、気づいてなかったのか? お前は今さっき奴隷契約の義を行った。買われるまで大人しくしてるんだな。まあ、良かったじゃないかお前は見た目はいいから上物として売られる。悪いようには扱わんよ」
そう言うとおっさんは何処か行ってしまった。
「あなた新しい子? いい服着てるのね……」
あまりにも急な出来事に呆けていると、女の子の声がする。
ん? 暗くて見えないが奥の方に何人かいるみたいだな。
「ちょっとそこの誰か分かんない人。聞きたいんだけど、俺って奴隷なの?」
「ここに来たってことはそうよ。でも安心して私たちは奴隷の中でもランクが上よ。食べ物も悪くないし、買われても無理な扱いは受けないと思うわ」
まあ、飯がでるならいい……わけないな。
うわ~あんのかよ奴隷制度。クソ平和大国日本人の俺には危機管理が足りなかった……
いや、むしろここは適応能力が高いことが裏目に出たか。
「食べ物をお持ちしました」
さっきのエイザっていうメイドさんが8個のパンと簡素なスープを置いて帰ってった。
ということはここに8人いるのか。
勝手なイメージでもっと皆飯にがっつくのかと思ったがそうでもないらしい。静かに自分の分を持って行ってる。
「4545さん、一緒に食べよ?」
その名前はやめてくれ。
でも皆女の子みたいだし、ここも悪くないかなって。
「喜んで!」
8人で丸くなって食事をする。結構部屋は大きいみたいだ。すごい汚いけど2段ベッドが6つ置いてある。
「ここってどういうところか教えてくれない?」
「ここは奴隷商だよ。みんな売られるの」
くりくりした目の可愛らしい子が答えてくれた。
「さっきランクが上とか言ってたけど、他にもあるの?」
「そうね、上と下があるわ。ここの部屋は見た目がよくて若い子が多いの。お金持ちの夜の相手に売られることがほとんどよ。でもまあ値段が高いから乱暴な扱いは受けないはずよ。下は……」
最初に声をかけてくれた子が言いよどんだ。この部屋のリーダー的な子かな?
「下のランクは?」
「……下のランクはその、使い捨てというか、苦しむ姿が見たいとか……その……」
かなり言いにくいみたいだ。悪いことを聞いてしまった。
「いや、いいや。ありがとう。にしても俺が上のランクで売られるとわな~結構男手足りてなかったりするの?」
全員が食事の手を止め俺の方を見つめた。
やめてくれよ。恥ずかしいじゃねぇか。
「ここは女性専用の奴隷商ですよ?」
確かにこっちに来てから妙に声が高くなってるし、服装も女の子のだから間違え……るか? さすがに顔はおっさんだぞ?
「俺、女に見える?」
全員がこくんと頷いた。
まあ、そう見えるならしょうがないか、この世界の価値観わかんねぇな。
しかしまあ、よく見るとみんな若いな。日本だと中学生くらいか?
こんな子が奴隷だなんて……この世界は最高だな!! 金さえあればなんでもオッケーなんて最高の世界だ。
たわいもないスレイブズトークを楽しんだあとすぐにベッドにつく。この世界のこと聞きたかったけど、それは明日にしよう。何もやることが無いのもそうだが、あまり俺の事情について聞いてこない。多分皆いろいろあってここに来たんだろう。
この世界に来て1日で奴隷になってしまったな。俺勇者なのに……いやそもそも勇者なのか? 現実味がありすぎるから夢ではないだろう。あぁもういいや、めんどくさくなってきた。エレクシアさんの裸想像しながら寝るわ。