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駆け足感が否めない。

あらすじを少々変えました。

 アンバーに教えてもらってから4日程訓練を続けた日の朝、ロドリゴのじいさんが久しぶりに俺の部屋に来た。

 教えると言った人間が来なくても健気に練習を続けた俺を誰か褒めて欲しい。


 「どうじゃ、辛いか?」


 1度逃げようかとも思ったが、シャルルやアンバーが来てくれたおかげでなんとか続けていられた。

 シャルルが「すごいです!」と剣を振るたびに褒めてくれたのは大きい。たとえ木が切れなくても同じことを言ってくれるので分かって無いんだと思うがそれでも嬉しい。

 アンバーがたまに来てくれて厳しい訓練の後に頭をぽんぽんしてくれるのもモチベーションの維持になった。女の子は頭を撫でられると嬉しいとコンビニで読んだ何かの本に書いてあったが、男も同様らしい。

 ついでに飲み薬と湿布もどきのおかげで痛みが翌日に持ち越さないのも続けられた理由の一つだ。


 「辛かったがまあなんとかなったよ――っていうかじいさん何も教えないでどこ行ってたんだよ!!」


 「思ったよりピンピンしとるのう……まあそれでなければこれの意味が無くなってしまうからのう、ほれこれをやろう」


 小さいサイズの黒い服を渡された。

 って重っ!!

 なんだこれ!? 布と布の間に何かが入っているのは分かる。感触は柔らかい綿のようだがどう考えても鉄板でも仕込んでいるような重さだ。


 「それを服の下に着なさい、クロスアーマーと言って衝撃を和らげる為のものだ」


 えぇ~こんなの着たら動けねぇだろ。

 俺が不満を言うのよりも先にロドリゴのじいさんが話す。


 「それとこれもじゃ」


 次に上半身を守る用の鎧を渡された。金属のビラビラがいっぱいついたような見た目をしている。

 おも……い

 見た目通りの重さだったそれが俺の両腕に加わり、2つとも床に投げるようにして置いた。鈍い音が部屋全体に響く、やばっ床凹んだか!?


 「せっかく知り合いの職人に作ってもらったんじゃからそう乱暴にするでない! そっちのロリカ・セグメンタータは服の上に着れるようにしてあるからの、今度からそれを着て練習に励みなさい」


 ロリカ・セグメンタータ? この鎧の名前か?

 可愛いじゃねーか。気に入ったぞ。


 「あとこれもじゃ」


 まだあるのかよ!


 肘までを覆う手袋のような物の上部に金属がくっついている物と足首までの長さがあるブーツを渡された。当然これも金属がくっついている。

 両手で抱えるようにして持っているが腕がつりそうなくらい重い。多分鎧より重いんじゃないだろうか? 今度はかがみながらそっと床に降ろす。


 「それは鎧に慣れてきたらつけるのじゃよ? まあ最初からつけていても構わんがの」


 まさしく嵐のように現れて去っていく。


 「あれ? リタ様今日は早いですね――それは鎧ですか?」


 ロドリゴのじいさんと入れ違うようにシャルルが部屋に来た。


 「ああ……なんかじいさんに一方的に渡された。次の練習からこれ着てやれってよ」


 シャルルがへぇーと関心があるんだか無いんだか適当な相槌を打つ。

 ここ数日じいさんが居なかったのはわざわざこれを作ってくれる人を探していたんだろう、好意を無駄にするのも申し訳ないし大人しく言うこと聞いてやるか。


 「ちょっと着替えるから部屋出てってくんない?」


 「お手伝いいたしましょうか?」


 「いいよ。恥ずかしいし」


 「そうですか、かしこまりました」


 シャルルが部屋を出ていくのを確認してから服を脱ぐ、服を着替える手伝いをするのもメイドの仕事なのだろうが女の子に手伝ってもらうのはなぁ……


 クロスアーマーとやらを着込むと体が重量を増したのが分かる。

 ふにふにと指でつついてみるがやっぱり感触は柔らかい、本当になんの素材だ? 

 あれ? なんか文字が書いてある。デザインも凝ってますってか。

 取り敢えずヒートテック的なやつと思っておこう。


 その上からいつものゴシックアンドロリータを着る。思ったよりごわごわした感じがないな。

 さて、次だ。ロリカ・セグメンタータとかいうキュートでポップな名前の鎧を装着する。うん、見た目通りの重さだ。

 備え付けの鏡で姿を確認すると黒をベースにした服に銀の鎧が眩しく光りちょっとだけ強そうに見える、色的に。

 体は重いがそれに反して両手両足が軽すぎる、なんかバランス悪いな。

 最後に渡された手と足を守る装備を付けるといい感じのバランスになった。動きにくくなったけど。


 いつものように剣と袋を持ち城を出る。

 サイズを測られた覚えはないがピッタリフィットする辺り素晴らしい。

 それにロリカ・セグメンタータについてるビラビラが思ったよりうるさくないのも嬉しい。


 が、重い……

 歩くだけで疲れるって何だよ! 金属部分より内側に着てる謎素材のクロスアーマーが一番重い。

 いつもより2倍くらいの時間をかけてやっとこさ沼地に着くと足元が沈む沈む。幸い柔らかい部分は表面だけで途中までしか沈まない。


 少し不安に思いながら何度も練習した斜めに木を切る動作をすると、コンといい音がして剣が1cm程のところで止まった。

 嘘だろ……最初よりだめじゃん!!

 装備に慣れてないというのもある、だけどこれはそうじゃない。

 重すぎる! 腕の振りが圧倒的に遅くなった。それに踏ん張る時に足元がぬかるんで力が入らない。

 こんなんじゃ練習にならん。

 どうせじいさん来ないし今日渡されたやつ脱いでやろう。

 

――

―――


 「ぶへっ、つかれたよーもうっ!」


 訓練を終えて自分の部屋のベッドに倒れこむ、鎧を着たままだからすごい沈む。

 脱ぐか、こんなんじゃ休めやしない。練習自体はいつもと同じく淡々とこなすだけだったのにすごく疲れた。鎧を着て道中往復することに体力のほとんどを持って行かれた感じだ。

 手足の装備、鎧、中に着ているクロスアーマーを脱ぎいつもの服装に着替えたところでコンコンとノックの音がする。


 「いるぞー。勝手に開けてくれ」


 「突然すまないな。ちょっといいか?」


 シャルルかと思っていたが扉を開けたのはアンバーだった。

 城で会うこと自体珍しいし、俺の部屋に直接来るのは初めてだ。

 いいところに来てくれたな、俺も聞きたいことがあったんだ。


 「なあ、これ見てくれよ! じいさんに渡されたんだが兵士ってこんなん着て訓練するのか? 流石に重すぎると思うんだが」


 俺と違って全身鎧で訓練している兵士がいるのは知っているが、確実にこの装備をつけた俺よりも俊敏な動きをしている。筋力の差と言えばそうなのかもしれないが……


 「いい装備だな。きっといい職人がリタの為に特別作ったのだろう」


 「そうじゃなくてこれ重いんだって」


 「鎧だから重いのは当然だ」


 ぐぬ、まあそう言われればそうだけど……


 そうだ、これはどう考えてもおかしいだろう。明らかに布っぽくて防御性能無さそうなのに一番重いこの服。


 ベッドの上に脱ぎっぱなしの服を両手で持ち「これの素材を教えてくれ!」と言おうと思っていたらアンバーが細い目になった。

 興味を持ったのかベッドの所まで来て他のも全部外側も内側も念入りに見始める。


 「なるほどな。重いとはそういうことか……」


 「どういうことだ?」


 「それだけロドリゴ先生に大事にされているということだ。お孫さんと重なる所があるのだろうな……」


 だからどういうことなんだ!

 孫と重なるって、親戚の家にでも預けて淋しいのか?


 「あのじいさん孫に会えないからあんなやる気ないのか?」


 「まあ……そうだな……ロドリゴ先生から何も聞いていないのか?」


 「武器の説明と簡単な練習方法だけなら聞いた」


 腕を組み、少し考え込んだ様子のアンバーが何か決心したように話し始めた。


 「私が話すことでは無いのかもしれないが、リタは知っておいた方がいいのかもしれないな。――昔、ロドリゴ先生は名のある兵だったのだ。と言っても今の若い兵は知らぬ者が多いがな。我が国オルヴェトと敵国エイラムの間では小さな争いが多くてな、その際皆を率いたのがロドリゴ先生だったと聞いている。先生の娘さんが教え子である兵と結婚して幸せな日々を送っていたそうだ。しかしある日、お腹の大きくなった娘さんを残し遠征に行かなくてはならなくなった。先生は何とか出産には立会いたいと戦場に私情を挟んで無理に攻め入ったそうだ。――結果は惨敗、多くの兵を失った……その中に娘さんの夫も含まれていたという。それを知ってか知らずか娘さんの方も出産の時に亡くなってしまい……お腹の子も駄目だったそうだ。それからだ……先生が無気力になってしまったのは」


 その子が無事に生まれてたら俺と同じくらいの年なのだろう、見た目だけな。

 あのじいさんにそういう過去があったのは分かったが……


 「その話とこの重い装備品に何の関係があるんだ?」


 「その装備は愛情の現れだろう。重い装備をつけさせ、指示もしていないとなるとわざとリタの成長を遅らせているとみて間違いないだろう」


 「ちょっと待て、それは酷くないか?」


 素直に言う通りにしていた俺の日々を返せ!! 


 「すまない、言葉が悪かったな。基礎をしっかり学ばせているのだろう、自身の力量にうぬぼれないようにな。私もだんだんと体を重くして剣技を磨いたものだ。それに――もしかしたら戦いを学ぶこと自体止めさせようとしているのかもしれないな。早い段階で諦めて城から出ていけば戦争で戦うこともないだろう」


 「それなら始めから俺に構わなきゃいいんじゃないか?」


 「それは私にもわからない、あくまで予測だ。何か先生も思うことがあったのかもしれない――――そうだ! 私も話があったのだ。こんな事を言ってしまった後だが、近々戦に出ることになった。数日後には進軍の知らせと会議があるので出席して欲しい、君がまだ子供なのは分かっている……しかしあの闘技場で見せたリタの力を我々に貸して欲しい」






 アンバーが俺の部屋の扉を閉めるのを確認した後、改めてベッドの上の装備品を持ってみる。

 やっぱ重いんだよなこれ……しかもすぐに戦いがあるって。



 正直適当な所で金を貰ったらここを出ようかと思ってたけど、あんなこと言われたらな~。

 グラグラと揺れていた気持ちがようやく固まった気がする。


 しょうがねーな、じいさん孝行だと思って訓練の方も真面目にやってやるか。



 明日からな!!


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