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 ……の子にモテる力をく……れ?」


 周りを見渡して、女神を探すが周りには槍を片手にずらりと並ぶ逞しい男達と顔が隠れるようなローブを被った幾人かと、目の前の階段を登った先に白いヒゲを蓄え眩いばかりの王冠を被り、いくつもの宝石を指にはめている50ばかりのおっさんと、その隣にしょぼくれたおっさんしかいない。


 「貴様が勇者なのか? 奇妙な格好じゃの」


 そんな汚物を見るような目で見つめるなよ。


 「え? あ、はい。そうです。わたすが変な勇者です」


 周りが「ちょっとあいつ大丈夫?」みたいな雰囲気出し始めてるな。ん? なんか俺声高いな。


 「……? 貴様名前は?」


 白ひげを蓄えた男の隣にいる側近みたいなおっさんに聞かれた。


 「俺は中卯辺斎蔵(なかうべ さいぞう)、28歳9月9日生まれ、AB型の乙女座よ。出身地は東京、特技は妄想で趣味は覗きとストーキング」


 ん? どうした?

 なんか王様っぽい人と隣の人が頭抱えてる。


 「で、ではギフトを教えてくれぬか?」

 

 ギフトって何? 贈り物? 教えるの? 偉そうな奴王様っぽいし、この世界には挨拶するのに何か送るのか? 贈り物といえば……ハムかっ!? つまらないハムですが……って渡さなきゃダメなの? いや、そんなもん今持ってないぞ。くそー女神さま最初に言ってくれれば用意してきたのに……


 「今は無い……ハムなんて持って無い」


 その場にいた全員が近くにいるやつとそわそわ会話し始めた。ギフトってそんな大事な物だったのか……


 「い、今なんと? 『ハムナンティ・モッツェナイン』っと言ったな?」


 うわーめっっちゃ怒ってるよ。


 「ああ、ハムなんて持って無い。悪いと思うけどさ、仕方ないじゃん」


 「引っ捕えろー。こやつは勇者などでは無い! 邪教の使者だ!!」


 え? なんか周りに居た兵士の方々が槍持ってこっち来るんですけど!? 俺勇者だよ?


 「うおぉおおお」

 「死ね! 悪魔め!!」


 まずい、逃げろ。

 取り敢えず王様らしき人が居る反対側の扉に向かって走った。くそ、ロングスカートなんてはくんじゃなかったな。あれ? 俺ロングスカートなんて履いてたか? 走りにくくて仕方ねぇ。

 扉の向こうにいる何人かの兵士は状況がわかってないみたいで驚いて道を開けてくれる。


 「エレクシア殿その者を捕らえてくれ」


 出口まで来たと思ったら後ろから誰かが叫んで、それに応えるように誰かが立ちふさがった。

 その立ちふさがった誰かはパツキンのチャンネー、アオメーのパイパイだった。ファンタジーでの必須要素。女剣士だ!!

――そこで俺に電流走る――

 あれ? 俺のいる世界と違うなら女の子との多少のスキンシップは許されるのではないだろうか? アメリカとか普通にハグとかキスするらしいし、あの子外人っぽいからいけんじゃね? 


 「俺と付き合ってくれ!!」


 一瞬ビクッとしたが流石は女騎士だ、俺を睨みつけて剣を構えている。是非切ってください!!


 「はああぁっ」


 気合を入れている女騎士めがけて走り、抱きしめた。何かが当たるような感触がしたと思ったら女騎士が持ってた剣が床に落ちてる。めっちゃいい匂いする。


 「う、うわぁ。何をする。気持ち悪い」


 鎧が固くて全然嬉しくない……


 「エレクシア殿そのままそいつを捕まえてください」


 女騎士ことエレクシアさんが俺をギュッと抱きしめてくれた。なんだよもう、そっちもその気だったんじゃないか! この恥ずかしがり屋さんめっ!


 「エレクシアと言ったな、俺も愛してる。結婚を前提にお付き合いしよう。だが今の俺は追われる身……悲しまないでくれマイハニー」


 仕方がない、愛に障害はつきもの。俺はウインクをして熱い抱擁を解き、エレクシアの後ろにある扉を開ける。


 おお、ファンタジーだ。西洋風ってやつだろうか? ちょっと文明遅れてる感じがするな。


 「待てー邪教の使い!!」


 おっと、いけねぇとっとと逃げよう。城下町に続く階段を降りていると一瞬にして辺りが暗くなった。後ろが静かになったので振り向いてみると、俺を追っていた数人の兵士達と愛しのエレクシアさんが空を見上げている。

なんだろう? おっぱいでもあるのかな? 俺もみんなの真似をしてみる。



 「ロ、ロリだーーー!!」


 この辺一帯の空には黒い雲が覆っている。そんなことよりも幼女が空を浮いている。銀色の髪に控えめボディが堪らない。頭には何か角みたいのが生えてる。見えにくいけど上半身はちょっと露出の多いツヤツヤした服で、下はちょっと短めのスカートだ。


 「そやつが勇者か? しかしなんだ、その服は可愛いのう」


 「ああ、これはゴシック・アンド・ロリータって言ってな。可愛いから着てみたんだが欲しいならくれてやる。ただし、キミの着ている服と交か――」


 「そいつは勇者ではない! 邪教の使者だ!!」


 えぇぇ、今大事な取引の最中なのに! っていうか勇者だってば。女神がそう言ってたもん。


 「早めに勇者を片付けようと思ったのだがのう……まあ良い。折角だ、消してやろう」


 そう言うと幼女は片手のひらを上にあげる。何か黒いものが手のひらに渦巻きだした。


 「逃げろ、王を避難させろ」


 「逃すわけなかろう」


 後ろを振り返ると走る格好で止まってる兵士達と、剣を構えたまま動かないエレクシアさんと数人の兵士がいた。エレクシアさんはともかく何やってんだこの人達?


 「くっ、停止魔法か!? まさかそんな上級魔法を一瞬で!? さては上級の魔人か?」


 体は動かさずにエレクシアさんが空を睨みつけ、息を荒くして何か言っている。

 魔法? ファンタジー世界ならあるな。うん、魔法はあるわな。今あの幼女が停止魔法とやらを使ったのか?

 そのままエレクシアさんの方から空に浮かぶ幼女へと顔を向ける。


――ばかなっ!! これが停止魔法だというのか!! 


 俺としたことがそれに気がつかないなんて……

 手のひらに渦巻く黒いものが一瞬魔法だと錯覚するだろう。否、魔法の実態はその下!! たなびくスカートの中!! そう純白のパンツだ。

 なるほど、これは動けない。エレクシアさんの息が荒いのも万人が納得する。

 こんなの防げるわけがない。


 手のひらに渦巻く黒煙がギュッと固まり、黒い円上の物体となり俺に向かって飛んできた。

 どうやらあれも魔法だったみたいだな。強力な停止魔法のせいで体がピクリとも動かない。いやまあ正確には一部がピクリと動いてしまっているのだがそれはまた別のお話だ。


 「死ね。下等な人間よ」

 

 幼女に殺されるのも悪くない……か。


 「是非に及ばず」


 今の俺に出来ることはただ目を瞑り過去を思い出すことだけだった。


 とてつもない爆風の中ひたすらに考えた。今までの人生で666人の女性に振られ、ファンタジー世界に来て愛しのエレクシアを残し幼女に殺される。もうちょっとましな人生もあったんだろうか……



 「な、何? 妾の魔法を防いだというのか? やはりお主が勇者であったか!!」


 幼女の声が聞こえたので目を開くと、黒い煙が舞う中、何故か俺のいる所を残して周囲は大きくえぐれていた。エレクシアさんと兵士達は爆風で飛ばされたみたいだな。エレクシアさん大丈夫だろうか……

 何故俺だけ助かったんだ? いや、わざと外したのか?

 

 「くっ、ならば次で息の根を止めてやろう」


 再び幼女が手のひらを上に向けた。もしやこいつもう一回停止魔法を使うのか!?

 あんなものをもう一回くらったら俺は……


 「やめておけ、俺が(ロリコンに)目醒める前にな」


 「目醒めるだと!? 召喚されてすぐに覚醒とは流石勇者といったところか、やはり早めに始末しておくとしよう」


 今度は両手を掲げひと際大きな黒い塊を俺に向かって投げた。なんかやばそうだけど停止魔法のせいで目が離せねぇ。だめだ……ロリコンに目醒めちまう。



 さっきよりも大きな音に思わず耳を塞いだ。物凄い勢いの風が周囲の土や石を引き連れて舞っている。だけどなんかあんまし痛くない。黒煙で見えにくくなっていたものが更に黒い何かに包まれて完全に何も見えなくなった。


 「な、なんじゃ、お、お、お、お主男の子(おのこ)であったのか!!」

 

 幼女の驚いた声が聞こえる。

 激しい風は止んだが、未だに視界が奪われていて何も見えない。

 おのこって俺のこと? 服装が女物だから勘違いしてたみたいだな。

 っていうかやけに下半身スースーするんだよな。


 「いや、そんなことよりもこ妾の魔法を受けてもまだ無事とはな……どうやら分が悪いようだ。一旦引くことにしよう」


 「おい、待て。俺から逃げられると思うなよ?」


 正直今あの幼女が何処にいるのか分かんないけど、取り敢えず視界が晴れるまで時間稼ぎをせねば。アドレスを聞きたい。この国に携帯があるのか知らんけど。


 「ふん、ふざけた人間だ。自ら視界を隠し油断させた所を狙うつもりだろうがそうはいかぬ。次会う時は妾の真の力を以て相手しよう」


 「ちょっと待ってってば、付き合って欲しいんだけど! 最初は友達からでいいから」


 何も返事がないぞ。帰っちゃったのか?  

 なんかちょっと息苦しい、前になんか張り付いてんのか?

 右手で顔の前を触れてみると柔らかい感触がする。


 「……ああスカート捲れ上がってただけか」


 あらあら、私の息子も少し大きくなられて……

 これでは逃げられてしまいますね。ごめんよ名も知らぬ幼女、汚いものを見せてしまって。

 この世界に公然わいせつ罪が無い事を祈ろう。


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