ふむ、どうやら私は嫌われトリップをしたようだ
嫌われトリップと言う単語を知ったので使ってみました。
「先生!急患です!!」
「容体は?」
「車にぶつかった事による内蔵破裂及び頭部損傷と大変危険な容体です」
「直ぐにオペの準備を、さっきほど亡くなった患者さんがいるからただちにその人の臓器移植ができるかを調べてくれ」
「先生!!子供が油を全身に被り全身火傷だそうです!如何されますか!?」
「その子にはすぐにショック症状の治療を!さっきの臓器移植についてはどうだった?」
「血液型、適合率共に大丈夫でした!本人もドナー登録をされているので問題ないです!!」
「よし、ではすぐにオペを開始する。
みんな、長丁場になるだろうが頑張ってくれ」
「「「「「はい!」」」」」」
「手術は無事成功した。
みんな、お疲れ様」
「お疲れ様でした」
「お見事でした先生!」
「患者さん持ちこたえると良いですね」
「そうだな」
7時間にも及ぶ大手術を経て私の疲労はピークへと達していた。
「あー、ちょっと限界。
ちょっと仮眠取ってくるわ」
「はい、お疲れ様でした。
ゆっくり休んで下さい」
「休めたらな」
看護婦長の言葉にひらひらと手を振りながら仮眠室へと入る。
あー疲れた。
やっと眠れる。
そう、安堵のため息を吐いて私は安らかな眠りについた。
そうして、目覚める事は無かった。
一日二十三時間勤務。
平均睡眠は一時間と言う生活を送っていた私はどうやら過労死してしまったようだ。
病院の上層部は慌てるに違いない。
何せ賄賂を受け取って他の医者の勤務時間を減らして私に押し付けていた上にほとんどがサービス残業扱いだったのだから。
労働基準法に反しまくりだ。
ちなみに労働時間やその間の仕事内容などをこと細やかに綴った日記が私の部屋にはあるからそれがさらなる証拠となるだろう、つまり言い逃れはできないのだ。
慌てふためいて会見準備をしている医院長の様子を見て良い気味だと笑みが溢れた。
そんな私に一人の男の子が声をかけた。
「満足した?」
「あぁ、満足だ」
私の言葉に少年は私が医院長の様子を見ていた穴を閉じた。
私は今、真っ白な空間にいる。
上も下も横も何もかもが真っ白な世界だ。
どうやら私は死んだらしい。
目の前の少年は自分を神からの使者だと言い、信じない私に先ほどの穴をこの空間に作り出して見せた。
「さて、長年の勤務ご苦労様とでも言っておこうか。
と言っても君はまだ四十年と少しばかししか生きていないけど」
「ふ、とりあえずありがとう、と言っておこうかな?
正直言ってまだまだやりたいことはたくさんあったがまぁ充実した人生だったし私は満足しているよ」
私の言葉に少年はうんうんと頷いた。
「たくさんの人の命を救ったみたいだし確かに充実した人生だったかもしれないね。
現に君は生前の働きにより確実に天国行きが決まっている。
かなりの徳が貯まっているからねぇ」
「そりゃあありがたい話だね。
天国か、さぞかし良いところ何だろう」
「地上とは比べ物にならない位空気が綺麗でたくさんの花が咲いているよ。
で、質問何だけど君が救った人は全部で何人だと思う?」
少年の質問に私は首を傾げた。
頭の中で数を数えていたがたくさんの人に対して手術を行ったりしたので正直言って覚えていない。
「えーと、たくさん?」
「確かにたくさんだけど明確に言うと三万人だよ」
「へぇ、三万」
実感が湧かない。
どうでも良いけどお金で換算すると少なく思えるのは何でだろう。
「つまり、君一人に対して三万人分の徳が貯まっているんだ。
天国でその徳を消費するにしてもちょっと多いから君が好きな世界に転生できる事になった。
さぁ、行きたい場所はある?」
少年の言葉に私はうーむと頭を悩ませた。
「別に転生しなくても良いから年頃の娘となって学校生活をもう一度送りたいかな。
余った徳とやらは天国でゴロゴロして消費するから大丈夫だ」
「ゴロゴロって、それだと徳を消費するのに一体何年かかるか分からないけどそれで良いの?」
「ああ、今までろくに睡眠時間も取れなかったし、趣味に費やす時間もなかったからそれで良い。
むしろそれが良い」
「君が良いんだったらこっちから言うことはないけど……うーん、年頃の娘かぁ………じゃあ、君の姿を若返らせてどこかの世界にトリップしてみる?
その世界からいつ天国にくるか大体は君が決めて良いよ」
「お、良いねそれ。
じゃあその方向で」
「分かった。では、行きたい世界とかあるかな?」
「うーん、そうだなぁ……」
考えこんだ私の脳裏に昔友人に見せられたゲームのヒトコマが思い浮かんだ。
確か、明るい元気な一人の女の子がその明るさを生かして様々な人の悩みなどを解消してみんなを幸せにすると言うゲームだった気がする。
友人はそんな子が同じクラスにいたら良かったのにと言っていた。
私も確かにと同意したのを覚えている。
確かそのゲームの名前は……
「『君と永久に』と言うゲームの世界が良いな。
主人公と同じクラスで、できれば友人になりたい」
「『君と永久に』ね。
オッケー、じゃあ君はその主人公のいるクラスへの転校生と言うことにしておくよ。
生活費とかはこっちで用意するから心配しなくて大丈夫だから!」
「そうか?何から何まですまないな」
「良いって、じゃあ新しい人生楽しんでね!
あ、そうそう。
学校生活にはボイスレコーダーと隠しカメラが必須だよね!」
「?今の時代はそうなっているのか?
良く分からんが分かった」
「じゃあ、またね!!!」
「あぁ、また」
少年の姿が段々とボヤけて行く。
そして周りの白も黒へと侵食されて終には何も見えなくなった。
そして、薄れていく意識の中にピピピピッと無機質な音が鳴り始める。
うるさいなぁと思いながらもその内なりやむだろうと放置したが音は段々大きくなるばかりだ。
「あぁ、もう!うるさい!!」
ガバリッと起き上がり枕元の目覚ましを叩いて止めた。
そして周りを見ると私はいつの間にか年頃の女の子がいそうなカラフルな部屋にあるベッドの上で寝ていた。
枕元にあった鏡を手に取り中を覗くと、大分若返った私の顔があった。
そして、それを確認した途端、様々な記憶が私の中で甦る。
なるほど、年頃の娘までは普通に過ごし、私が希望した年齢に達したら全てを思い出すと言う設定だったのか。
これまで人生は知識として私の中に残っている。
それに、記憶が無くとも私は私だったのか以前の人生や性格と対して変わらないので割りと普通に馴染む事が出来た。
それにしても……ううむ、果たしてこれはトリップと言えるのだろうか、どちらかと言うと転生のような気がするのだが。
まぁ、感覚的にはあの少年と別れてすぐなのでトリップと言うことにしておこう。
私は両親の仕事の都合で主人公が転校した一ヶ月後に同じ学校に転入する事になっている。
転入するのは明日だ。
準備や手続きなどは既に済んでいるのでゆっくりすれば良い。
ふー、と息を吐きもう一眠りしようかと思った私の脳裏にあの少年の子供が蘇った。
『学校生活にはボイスレコーダーと隠しカメラが必須だよね!』
確かそれは用意していなかったな。
しぶしぶベッドから起き上がり出掛ける準備を始めた。
「よろしくお願いします」
私がそう言うと盛大な拍手が鳴った。
どうやらこのクラスはノリが良いクラスのようだ。
休み時間になると直ぐに質問攻めを受けた。
「趣味は?」「転校の理由は?」「何座?」「彼氏はいるの?」等の一般的な質問から「好きなタイプは?」「スリーサイズは?」などの際どい質問まで実に多種多様だ。
質問には全て答えた。
もちろんスリーサイズも。
答えた瞬間どよめきが起こったが別に気にしない。
こちとら前世と今世を合計したら精神年齢は軽く五十は越えているのだ、ケツの青いガキへの恥らい何てものはない。
それにしても可笑しいなぁ。
主人公、羽崎明は好奇心旺盛なので直ぐに話かけてきてくれると思ったんだが全くこの質問タイムに参加してこない。
折角隣の席になれたというのに何の進展もない。
タイミングを見ているのかと待っていたがその内に放課後になってしまった。
どういうこと何だろうか?
首を捻るが分からないのでとりあえずは隠しカメラを設置する作業に没頭する事にした。
一緒に帰らないかと誘われたが手続きがまだ残っているからと言ったらみんなあっさり引いてくれた。
とりあえずは教室とイベントが起こる屋上、校舎裏、体育倉庫、図書室、空き教室に設置した。
折角ゲーム世界に来たんだからやっぱりイベントは見たいじゃん?
もうしばらく様子を見てみよう、そう思い学校を後にした。
「こんにちは、羽崎さん。
良かったら私と友達になってくれない?」
にっこりと右手を差し出しながら私は羽崎さんに話しかけた。
もうしばらく様子を見てみようと思ったが、一週間経った今日に至ってもほとんど接触が見込めなかったのでこちらから接触を試みてみた。
これなら友達になる他あるまい。
羽崎さんは一瞬硬直、後に私の手を取ってくれた。
「別に良いけれど………何であたしなの?」
「いやぁ、色んな人が羽崎さんは可愛くてとても良い子だって言ってたから是非ともお近づきになりたくて♪
それに折角隣の席なんだから仲良くしたいじゃん?」
「へぇ、すげぇじゃん明、まだ転校してきて一ヶ月位なのにそういう風に言われる何て」
「流石僕の明ですね」
「おい待てやコラ、誰が誰の物だってぇ?」
「明が、僕の物だと言ったのですが?耳が悪いんですか?
あぁ、悪いのは耳だけではありませんでしたね、失礼しました」
「待てやコラ、誰の頭が悪いって!?」
「僕は頭が悪いとは一言も言ってはいませんが?貴方も自覚あったんですね」
「明………この二人は、放って、僕とあっちに、行こう?」
「抜け駆けはっ!」
「許さないっ!」
「………ちっ」
「もう、三人とも仲良くしなきゃ嫌だよぅ」
人が話をしていたと言うのに突然割り込んできたこの馬鹿どもは羽崎さんの取り巻きらしい。
赤髪ヤンキーで風紀委員長な火鳥下の名前は知らん。
眼鏡金髪碧眼で副会長な金那鳥下の名前は忘れた。
銀髪無表情で書記な水無鳥下の名前は以下略。
何時もはもっといるのだが、授業中を除き私の知る限り今が最も取り巻きが少ないのでチャンスを逃さないために今話しかけた。
が、正直失敗したかもと若干後悔している。
「で!、友達になってくれる?」
待っていても埒が開かないと判断したので強制的に会話を立ちきって入る。
「……うん、よろしくね!」
可愛らし笑顔を浮かべてこっくりと頷いた羽崎さんに内心身悶える。
これからさぞかし楽しい学校生活が始まるに違いない。
楽しそうな未来に私は思いを馳せた。
なぁんて、夢を見ていた時期もありました。
「ちょっと!無視してないで何とか言いなさいよ!!」
「そうそう、調子乗ってんじゃないわよ!犯罪者のくせに!」
「ちょっと顔が良いからって思い上がんないでよね!!」
遠い目をしていた私は頬を伝う水と罵声に意識を目の前の女子生徒に戻した。
放課後の女子トイレと言う場所で現在進行形で私は三人の女の子たちに怒鳴られています。
転校してきてまだ二ヶ月位なのにこの扱い、中々無い経験では無かろうか?
呼び出しを受けてトイレに行ってみればバケツに入った水を浴びせられ、罵声を浴びせられる。
あれ?ちょっと上手いこと言った?
思わずクスリッと笑うと何笑ってんのよと頬を平手打ちされた。
「ねぇ、ちょっと質問良い?」
「な、何よ?」
今までずっと黙っていた私が話しかけたのに若干怯んだが、それが悔しかったのか睨み付けてくる。
はは、可愛らしな。
「私が貴女たちにこんな目に合わされる理由は?」
「はぁ!?そんなことも分かんないな!?」
憎々しげな目で私を睨み付ける女の子たち。
いや、原因は分かってるけど一応確認として。
「あんたが羽崎さんを傷付けたからに決まってるでしょう!?」
「刃物で切りつけた癖に何白々しく惚けてんのよ!?」
「羽崎さんの優しさに付け入っている癖に!」
あぁ、やっぱりか。
予想していたがみんなが羽崎さん、羽崎さんと彼女を庇護する。
「私はやっていない、濡れ衣だ。
それに例え私がやっていたとしてもそれを理由に貴女たちが私にこんな仕打ちをしても良い理由にはならない」
「黙れ犯罪者風情が!」
「そうよ、何偉そうなこと言ってんのよ!」
「身の程をわきまえなさい!」
こっちが論理的に話をしているのに聞く耳を持たない彼女たちに思わずはぁっとため息を吐いた。
「何ため息吐いてんのよ、生意気!」
「平手も傷害罪になる」
私の言葉に再び私の頬に平手を張ろうした女子その1の手が止まった。
「他者へ故意に水を浴びせる、あることないことを一人に対して複数の人間が浴びせる言葉の暴力などの精神的苦痛及び頬を殴るなどによる肉体的苦痛。
それに対して私は貴女方には一切手を出していないし口出しもしていない。
さて、もしも今の状況が世間にしらされた場合、世間的に言ってあんたらと私のどっちが立場が悪いかねぇ?」
「………だ、誰かに話すとしても証拠何て無いじゃない!
水はあんたが自分で自分にかけたことだし、頬だって自分で叩いた。
犯罪者と私たちみたいな一般生徒だったらみんなが私たちの言い分を聞くに決まってる!!」
私の言葉に怖じ気付いていたが言っているうちに自分の言葉に勇気づけられたのか威勢が良くなる女子その2。
そんな彼女たちに笑みが溢れる。
「あはっ♪ これ、なぁーんだ?」
制服の胸ポケットからボイスレコーダーを取り出して彼女たちに見せびらかした。
スイッチ、オーン。
『こんな所に呼び出して一体何の用?』
『何の用?』
『こうするために決まってんじゃない』
(ザッパーンッ)
『あっはははは、良い気味!まるでどぶねずみね!』
これから先は聞くに耐えない彼女たちの暴言の数々だ。
ちなみ上から私、女子その1、女子その2、女子その3の順だ。
ボイスレコーダーから流れる音声に彼女たちはサッと顔色を青く変えた。
「今の私の状況と言う状況証拠にボイスレコーダーという物的証拠。
貴女たちが加害者というこれほど明確な証拠は無いんじゃない?」
「寄越しなさいよそれ!!」
「おっと」
ボイスレコーダーを奪おうと女子その3が手を伸ばすが、私は腕を高く上げた。
そうそう、私の身長は176センチでそれに対して彼女たちの身長は平均160センチ位。
つまり私が手を高く上に上げるとどう足掻いても彼女たちの手は届かないのだ。
「ふ、ふんっ!そ、そんな物あんたが作った偽物だって言ったらみんな直ぐに納得するわよ!」
あらら、言葉は威勢が良いけど声と体が震えているよ?お嬢さんがた。
高校生はまだ自分が未成年だから罰せられることはないからどんなことをしても良いと自分の社会的立場を過信し過ぎる傾向がある。
だが、それと同時に犯罪に対する世間の反応も知り始めているため自分がその加害者になりそうになったら途端にとてつもない恐怖に襲われるのだ。
本当、愚かなお嬢さんたちは可愛らしことだ。
「ちなみこのボイスレコーダー、警察の事情聴取とかで使われる特殊な奴で外部から編集が出来ない様になっているやつなんだよねぇ」
「えっ………」
「例えパソコンで君たちの声を編集して音声を作ったとしてもそんなのちゃんとしたところで調べれば直ぐに分かる。
つ、ま、り、調べれば調べるほど貴女たちには不利になる。
ちなみに今の会話も録音している最中だよ?」
「「「………………」」」
ますます顔色が悪くなるお嬢さんがたに私は笑みを浮かべた。
「さて、これを公表するかしないかは私にかかっているわけだ」
「そんなっ!」
「お願い!止めて!!」
「何でもするからぁぁぁ!」
私は多分、今最高に楽しそうな表情をしているだろう。
「お嬢さんがたの態度によってはこれは一生日の光を浴びないで終わるだろうね?」
私の言葉にお嬢さんがたはハッとした表情を浮かべる。
私はますます笑みを深めた。
「さぁ?どうする?」
後は簡単だった。
ボイスレコーダーを片手に彼女たちとお話。
結果私は三人の心強い味方を得る事ができた。
さぁて、羽崎さん。
次は貴女だよ?
楽しみにしててね?
抑えきれない笑みを、私は浮かべた。
そのうち続き書くと思います。




