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第02話

漢字修正しました。指摘ありがとうございます。

 佳世は男性の連絡先に電話をするかどうかを1週間以上悩んだ。

 せっかくの休みである今日は、図書館で一日読書三昧をしたのに気分が晴れない。

 男性のことが気になってしょうがなかった。

 自室のベッドの上で悶々としながら名刺の裏に書かれた連絡先を睨み付ける。

 単なる数字の羅列がひどく難しい数式に思えてきていた。


「うー、どうしよう」


見るからに女性にもてそうな人が、自分と関わるとは信じられない気持ちがどうしてもあった。

 それでも一緒に選んだ本を男性の妹が渡された反応が気になる。

 自分が好きな本が妹さんにも楽しんでもらえたら嬉しい。


「礼儀として一度は連絡をするべきだよね?」


 誰もいない部屋で確認するような呟きをもらすのは、佳世の頭が混乱している証拠だろう。

 なかなか踏ん切りがつかないで今日まで過ぎてしまった。

 初対面に等しい相手に電話で話すというのが難問だ。

 でもメールで連絡するのは佳世の中では論外になる。

 親しい友人相手でもないのにメールで伝えるのは、相手に失礼だと佳世は思っている。

そこで明日の日曜日に久しぶりに会う予定になっている友人に相談することにした。


「……そんなのさっさと連絡しなさいよ」


 半年ぶりに会った友人と新しく駅前にできたカフェで相談するために寄った。

 休日とあって二人の立ち寄ったカフェは多くの女性客で賑わっている。

 そこで二人が注文したのはアイスがトッピングされたホットケーキ。佳世はそれにかぶりつく。

 店内は暖房が程よく効いていて冷たいアイスでも身体が冷える心配はない。

 ふわふわのホットケーキにブルーベリージャムをかけたバニラアイスと一緒に口に入れたら酸味と甘みが絶妙でとても美味しくて頬が緩んだ。

 本屋での出来事を話し終えて緊張が抜けたからか、佳世はお昼ご飯を自宅でしっかりと食べたのにかかわらず小腹が減っていて、黙々とホットケーキを食べている。

 そんな佳世を呆れた眼差しで見ていた友人は、コーヒーを一口飲んであっさりと言い放った。

 佳世の友人は、内向的な生活の自分とは真逆に社交的美人で学生時代から何人かの男性と付き合っていて佳世にとってはいろいろと頼りになる。

 だが一週間も悩んだ身としては、その即断に悲しくなる。

 もう少し考えてから発言して欲しい。


「そんなにあっさり言わないでよ。悩んでる私がおかしいみたいじゃない」


 思わず恨めしげな声が出た。

 だが友人はそんな佳世の声を無視して言いたいことを言う。


「別に佳世もその人と一緒に話して嫌な気持ちになったりしてないんでしょ? それならさっさと連絡取っ手みればいいじゃない」

「でも……」


 言い訳を口にしようとする佳世を手を振って止めさせる。その上で友人は更に意見を口にする。


「お礼だって言うんだから素直に受け止めて一緒に食事くらいしなさいよ。そもそも相手は佳世からの連絡を待ってるのにいつまでもこないんじゃ心配してるかも」

「そうかな? でも何て言って電話すれば良いわけ? それに一緒に食事したときに何しゃべればいいの?」

「そんなことで悩んでたの?」

「だって……」


 佳世を呆れた目で見る友人に耐えかねて残っていたホットケーキを平らげた。

 こうやっておいしい物を食べているときは、悩みを脇に置いておける。

 カロリーを気にしない佳世とは反対に友人は「ダイエット中だから」とコーヒーのみを口にする。


「普通に会社の人としゃべるように話せば? 相手が誘ったんだから相手に任せておけばいいのよ」

「……相手の人に名前も教えてないのに電話したら驚かないかな?」

「本屋で会ったって言えばすぐに分かるでしょう。同じように何人もの子に声かけてたら分からないかもしれないけど。とにかく連絡をして食事の約束を取り付けたら佳世はご飯を食べて妹さんの感想聞いてさっさと帰れば? それで相手が何か言ってきたらそのときに考えればすむことよ! 佳世はいちいち考えすぎなのよ」

「そっか。うん、何とかなりそうな気がしてきた。ありがとうね!」

「別に男性恐怖症ってわけでもないんでしょ? 気楽にでかけるといいわよ」


 友人と話すことによって大分肩の荷が下りたような気がした佳世は素直にお礼を述べる。


「話を聞いてくれてありがとう。大したことないのに大げさに騒いでたのが馬鹿みたいね」

「そんなことない。私は当事者じゃないから言えるだけで、佳世の立場なら同じように悩んだかもよ」


 すかさずフォローをしてくれる友人に佳世は内心で大きく感謝した。

 一見して冷たい印象を与える友人だけど、実際は面倒見も良くていつでも佳世を優しく支えてくれる。


「……それにしてもその人、あんまり男に興味ない佳世がはっきり意識するくらいのイイ男なんだ?」


 にやりと微笑む姿はイタズラを思い付いた子供のようにあどけない。

 佳世のこれから口にする言葉をわくわくと友人が待つ姿に頓着せず、佳世は男性の顔を思い出して首を縦に下ろす。

 佳世は少ししか話しただけなので性格についてはよく分からないが、外見ならよく覚えていた。


「凄いモテそうな雰囲気がある人だった。見た目的にも仕事が出来る感じだったし……」

「メタボだったりはしないの?」

「それはないんじゃないかな。細すぎるわけではなかったけどスーツがすっきりと似合ってたのを見ると隠れ肥満ではなさそうだし、会社でも相当モテてそう」

「見た目が良くてスーツの似合う男か。……ねえ、名刺渡されたんでしょ? その人ってどこの会社に勤めているの?」

「えっと、ちょっと待ってね。この前もらったままにしてはずだから……」


 言われてバッグにしまいっぱなしになっていた名刺を佳世は取り出す。

 さすがに直接友人に見せるのは躊躇ったので、会社名だけ口にした。

 その会社名を聞いて友人は驚きの表情を浮かべる。


「あら大手じゃない。肩書きは?」

「係長って書いてあるけど……」

「ふうん。……いくつぐらいの人なの?」


 尋ねられて佳世は男性の顔をまた思い浮かべる。


「私たちよりかはいくつか年上。でも、30歳にはなってないと思う」

「それであの会社で係長か。佳世の言うように仕事のできるエリートだわ」

「……そうなの?」

「知り合いが少ない佳世にはちょうど良い人脈かもよ。無事にお友達になったらその人の会社の知り合いでも紹介してよ」

「彼氏がいるでしょ!」

「それはそれよ。別に男性じゃなくても女性でも構わないしね。友人は多いにこしたことないもの」


 そんなやりとりをしてカフェから出て佳世の好きな駅ビルの洋服屋に足を運ぶ。

 いつもなら友人と一緒に洋服を買ったりはしないが今回は押し切られた。


「男性と食事するなら女らしい服装にするべきよ」

「自分だって今日はスカートじゃないのに……」

「いつもはスカートに決まってるでしょ。今日は佳世に合わせたの」


 友人は普段からパンツルックの佳世に危機感を覚えたようで、お互いの服の趣味が違うため聞かれない限りは答えないのが暗黙のルールになっているのを今日は積極的に口を出した。

 佳世が選ぶ地味な色の洋服をことごとく却下して明るい色の物を選んでいく。おまけに購入するつもりのなかったスカートも次々と上の洋服に選んでいくつか棚から取り出す。


「足を出すなんて恥ずかしい」

「そんなに細身のジーンズ履いてるクセによく言えるわね」

「足は隠れてるじゃない」

「いいからこのスカート履いてきて!」


 それから試着室で何度も着脱して佳世は友人の前で着替えを披露した。

 最初は慣れないスカートに気恥ずかしさを覚えた佳世だが、繰り返される着替えに全てがどうでも良くなった。

 1時間近くを費やして友人に選ばれた上と下の服を2着ずつ購入した。


「買い物ってこんなに疲れるのね」

「佳世は普段は即決め即買いだものね」

「だって何を買うのか決めてからお店に来るもの。今日は散財したなー」

「ちゃんと元取れるように何回も着なよ。すごく似合ってたんだから」

「はいはい」


 駅ビルの中にあるふかふかのソファに座って佳世はようやく息ができる気がした。

 友人は佳世よりも疲れているはずなのに全く疲れを見せていない。


「名刺の彼と会うときは、今日の服を上手く組み合わせて着て行くのよ」

「え? スカートで?」

「そうよ。何のためにスカートにしたと思ってるのよ」

「うう……」

「いい? 別にその人と付き合うとかはどうでもいいの! でも人脈作りはしなさいよ。佳世だって人並みには結婚願望だってあるんでしょ? こういう機会は逃さないようにしないと駄目」

「とりあえず知り合いを増やすつもりで会えば良いのよね?」

「そうそう。気楽にね」


 友人と会ったその日の夜、ベッドに横になって考えるのは名刺をくれた男性のことだ。

 その名刺の名前には「藤沢章ふじさわあきら」とある。


「藤沢さんか。思ってたようにやっぱり仕事のできる人なんだな」


 佳世は人の顔を覚えるのが苦手だ。

 だがこの男性のことはいつでも自然と顔を思い出すことができた。

 今も頭の中にははっきりとスーツを着た男性の姿を思い浮かべる。


 明日、連絡してみよう。


 佳世はようやく決めて安らかな気持ちでその晩は眠りに落ちた。

 翌日の月曜日、仕事終わりの日課である本屋さんに佳世は直行した。

 今日は購入予定の本の発売日だった。

 うきうきする気持ちのまま少し早足で小説コーナーに足を向ける。


「えーと、新刊コーナーはっと」


 目線はずっと下ばかりを見ていた佳代は、周囲への警戒を怠っていた。

 トンと肩を誰かに叩かれてビクッとする。


「驚かせてごめん」


 振り向いた先には佳世が連絡を先延ばしにしていた男性の姿があった。

 佳世は先週全く男性を本屋で見かけなかったから油断していた。

 そもそも二人のきっかけが本屋さんなのだからここで会わないわけがなかった。

 この瞬間、佳世の頭から新刊のことなどどうでもよくなった。

誤字修正しました。えりさま、協力ありがとうございます。

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