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初めては幼なじみ 涼サイド もう離さない

作者: 亜果利

『初めては幼なじみ』

の涼サイドになってます。


超短編。少し、らぶこめ風です。

 意気込んでやって来たものの、エアコンは利いているとは思うけどさっきから額に汗が出てきてしょうがない。脇の下も汗でびっしょりだ。

沙都は、名前を呼ばれて診察室へと入って行った。一人残された俺は、足元ばかりを見ている。

この待合室からして本当に産婦人科ってやつだ。

壁の色はピンク。ソファの色もピンク。看護師さんの制服までピンクとくりゃあ、Tシャツにジャージ姿の俺はまったくもって場違いだ。

当り前だが、前に座る患者三名も妊婦で、両隣に座る二人も妊婦。沙都と入れ違いに診察室から出てきた患者も妊婦だ。

俺が今まで生きて来た中で、こんなに妊婦に囲まれたことがあっただろうか?

 こんなことで、ドギマギしていたら、この先どうするんだと自分に言い聞かせていたが、心臓はやっぱり落ち着いてくれない。

 子供が出来たかも知れないと思い詰めて死のうとした沙都を、もし、これで子供が出来ていたならずっと支えて行かなきゃいけないってのに……

ドキドキも冷や汗も止まらない。



 あいつを女として意識し始めたのは何時ごろだろうか?多分、中二ぐらいだったと思う。

 サッカー部員だけの部室内で、先輩も後輩も交じってのボーイズト―クの中で、いきなり先輩の一人が沙都の話題を持ち出した。

 可愛い上に胸がデカイと言い出したんだ。顔と身体のアンバランスさが良いって。

 言われて見ればそうかも知れないと、沙都を思い浮かべていると

「お前、確か家が隣の幼なじみだったよな。高井沙都は何カップブラだ?」

ちょっと待て……

俺が幾ら幼なじみだからって、沙都のブラサイズを知っているわけ無いだろ?

そう、心の中で突っ込みを入れながら

「そんなの知りませんよ」

「じゃあ、聞いて来いよ」

「聞けるわけないじゃないですか。そんなこと聞くと親に言いつけられますよ」

「お前、結構女子に人気あるからさ、意外とすんなり教えてくれるんじゃないの」

「イヤ、変態呼ばわりされるのがオチですよ。近所中ふれまわるかも。変態出現って……やりかねないっすよ」

「そうかぁ。じゃあ、洗濯物でも見て来い」

「洗濯物って……それ、見ように寄っちゃ、下着泥棒ですから。変態呼ばわりされるどころか、警察行きですよ」

こんな会話が交わされて以来、沙都が気になって仕方がなくなった。



そんな俺の心配を余所に、誰、彼構わず屈託のない笑顔を振りまいていた沙都だったから、着かず離れずの一定距離を保って、俺なりに見守って来た。

そんな中で、高校へと進学して、やっと高校生活に慣れて来たと思っていた矢先に沙都に彼氏が出来た。

それを、何も感じてない沙都が、なんの戸惑いもなく、俺に告白してきやがった。

正直、ここまで鈍感な女だとは思わなかった。

その時ばかりは自分の気持ちが抑えきれずに、沙都を押し倒して、半ば強引にキスして……

そんな俺を嫌がりもせずに、すんなり受け入れた沙都に、歯止めが利かなくなって、その結果がこれだ。

全然俺はカッコ良く無い。

本当にカッコ悪いったらありゃしない。

その上大事な沙都をギリギリの状態まで追い込んで、どうしようもないヘタレな俺。

沙都に粋がって、大丈夫な振りしたけど、やっぱ内心は、今の俺が沙都と子供を養って行けるかってことだ。

当然、両方の親にも話さなきゃならないし、カッコ悪いけどしばらくは、両親に頼るしかないかも知れない。

互いの両親なら、きっと堕胎を勧めるだろうけど、俺と沙都の間に出来た子なら、これから先の俺の一生なんかくれてやってもいい。

今の俺にとって沙都はそれほど大事な存在なんだ。

抑えきれなかった自分が悪いんだ。沙都は悪く無い。沙都は……被害者だ。

目を閉じて、泣き崩れた沙都を思い出していた。



すると、

「高井さんの付き添いの方」

看護師さんがそう呼んだので、思わず席を立った。

「こちらへどうぞ」

案内された場所は待合室とは別の六畳ほどの講義室みたいな場所。

そこには、すでに沙都がパイプ椅子に腰かけていた。

沙都の前には中年の看護師さん。俺が中へ入るなり、ギロリと睨まれた。

「はい。君。こっちに来てここに座って」

はっきりした口調で、俺をパイプ椅子へと促した。

「えーと。二人共まだ、高校生ね」

「はい」

そう頷いた沙都の横顔は、さっきまでの死にそうな顔とは違い、どこかホッとしていた。

「妊娠の可能性はかなり少ないですが……いいですか?少し、お二人に講義を受けて貰います」

そう言い出したその女性の胸元には助産師と書かれていた。

「高井さんの相手の君。ちゃんと聞いてる?」

明らかに俺を敵対視した言い方だった。

まあ、叱られて当然といえば当然で……

それから俺と沙都は、その助産師に対して

「はい。はい」

と頷くことしか出来ずにいた。

長い長い一時間だった。

終わった頃には、二人ともゲッソリしていた。

ここに来た時の緊張感など、どっかに飛んで行ってしまっていた。



産婦人科を出てから、膨れっ面になっていた沙都だったけど、そんな沙都がどうしようもなく可愛くて、愛しくて、絶対この手を離すもんかと心に近いながら歩いた。

もう沙都は……俺の大事な彼女だから。

この腕を引っ張れば、いつでも抱きしめることのできる場所に居て欲しい。

この手は絶対に離さない。


  fin


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