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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

|冗談じゃない

作者: 美味礎 杏佳
掲載日:2026/03/03

ある青年は、冗談が嫌いだった。


笑い話が嫌いなわけではない。冗談という言葉を盾に、本気を濁す人間が嫌いだった。


中学から陸上部のエース。勉強は常に主席。努力は裏切らないと知っていたし、努力しないことは罪だと思っていた。


だが、順位を争っていると思っていた友人は笑う。

「俺が一位?無理無理。冗談だろ」


記録を競ったはずの短距離走でも言われる。

「何ムキになってんの?」


コンビニの店員は気だるく、ニュースでは公約を翻す政党が笑っている。


青年は思った。

「みんながみんな、本気ならなぁ」


——翌朝、世界は変わっていた。


テスト返却の日、友人は答案を握りしめ、血が滲むほど爪を噛んでいた。

「次は絶対に抜く」


部活では後輩が詰め寄る。

「フォーム、全部見せてください。本気でやります」


コンビニの店員は背筋を伸ばし、完璧な笑顔を貼りつける。頬の筋肉がわずかに震えている。


ニュースでは新政党の躍進が熱狂的に報じられていた。

キャスターの声は異様に弾んでいる。


「これはいい」


青年は満足した。

ようやく、真剣勝負の世界だ。


陸上大会の日。


控室で水筒の蓋を開け、一口飲む。喉を滑る水はやけに冷たい。

廊下には、静まり返った空気が張りついていた。誰も笑わない。誰も目を逸らさない。


視線が交錯するたび、空気がわずかに軋む音がした。誰かが息を殺す音が、トラックの風より大きく聞こえた。


外では騒音が近づいてくる気がした。でも誰も動かない。


心臓が高鳴る。


動悸もそのままに、トラックへ向かう途中、救急車のサイレンが遠くで鳴った気がした。


その夜、ニュースが流れる。


「高校生陸上大会で死者多数。水筒に殺鼠剤混入。犯人は生徒。“私が一位になりたかった”と供述」


画面の中で、キャスターは真剣な表情を崩さない。


「No killing《殺しはダメ》!No kidding《冗談じゃない》!」


コメンテーターのコメディアンは、ひと笑い取る。


今度は『笑う所じゃないですよ!』と言いながら、着実にもうひと笑い取った。


世界は、今日も本気だった。


キャスターは表情一つ変えずに続ける。


「次のニュースです。今月の全国犯罪統計を正確にお伝えします。


賭博——0件

恐喝——0件

脅迫——0件

強要——0件

監禁——0件

横領——0件

詐欺——0件

偽証——0件

窃盗——0件

強盗——0件

放火——0件

不同意性交等——0件

不同意わいせつ——0件

公然わいせつ——0件

略取誘拐——0件

住居侵入——0件

器物損壊——0件

名誉毀損——0件

信用毀損——0件

業務妨害——0件

公務執行妨害——0件

通貨偽造——0件

文書偽造——0件

不正アクセス——0件

覚せい剤取締法違反——0件

大麻取締法違反——0件

銃砲刀剣類所持等取締法違反——0件

爆発物取締罰則違反——0件

ストーカー行為等——0件

児童買春・児童ポルノ禁止法違反——0件

児童福祉法違反——0件

道路交通法違反(飲酒運転等)——0件

過失運転致死傷——0件

業務上過失致死傷——0件



暴行——0件

傷害——0件



傷害致死——2,456件

死体遺棄・損壊——2,389件



現在時刻時点では以上です。

おやすみなさい」

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