第九話 偽聖女の断罪3
ジークフリートは偽聖女リュシアの断罪を保留した。
いつも鮮やかに断罪を行うジークフリートが「保留」するなどということは、少なくとも俺が見物した断罪で初めてのことだった。
おそらくジークフリートも、俺の石がリュシアに届かなかったことに気づいていたのだろう。
しかし、俺はリュシアが偽聖女であることを確信していた。
俺の断罪の石がリュシアに届かなかったのは、偽聖女があの場に何人もいたせいで、たまたまリュシアに当たらなかったというだけなのだ。
何よりも、他の偽聖女たちとリュシアのあの笑い顔はまったく同じだったことが、俺の確信を強めていた。
※
それから王都の町の様子が少しずつ変わっていった。
町を歩くと、必ずあの笑顔を貼り付けた女性が声をかけてくる。
「私は聖女です。体調の優れないことはございませんか? どこかおケガはありませんか? 治癒して差し上げましょう」
そんなものはないと答えても、「では祝福だけさせていただきますね」と言って頭に手をかざしてくる。
俺はその手を払い、怖くなって走って逃げる。
「偽聖女は王国を誤った方向に導く」と言うジークフリートの言葉が頭に残る。偽聖女の治癒や祝福を受けたらどうなってしまうのだろう。
しかし、逃げた先にもあの押し付けがましい笑顔を貼り付けた偽聖女がおり、また治癒と祝福を施そうとしてくる。
やがて俺はどこにいるのかもわからなくなってしまう。ここは本当に俺の知っている王都なのか?
俺は見知らぬ場所で立ち尽くす。
「あの……」と背後から声がかかる。
俺は「ひっ」と声を上げて、また逃げる。しかしどこに逃げればいいんだ? 俺は今どこにいるんだ?
「ユウマ、待って!」
それは俺がよく知っている声だった。
後ろを振り向くと、俺の知っている顔があった。
「クローデリア様!」
俺はあまりの嬉しさに駆け寄って抱きつこうとしたが、それはまずいので手だけ握りしめさせてもらった。
「私に会えてそんなに嬉しいなら抱きしめてもよくってよ」
そう言ってクローデリアは笑った。平民が公爵令嬢に抱きついたら偽聖女並みに犯罪でしょう……。俺は常に断罪を「見る」側なんです。
「クローデリア様は何でこんなところに?」
「たぶんユウマと同じだと思うんだけど……聖女だと言う女たちが気持ち悪くて避けてきたらこんなところまで来てしまったの……。ともかくユウマと会えてよかったわ。あなたを守るのが私の役目だからね」
俺にはクローデリアが女神以上に女神に見えた。こんなに頼もしい公爵令嬢がいるだろうか。
「王都はどうなっているんでしょう。こんなに聖女が溢れるなんて異常ですよ」
「明らかに異常だわ。まるで聖女の『呪い』にでもかかっているみたい。呪いなら『解呪』が必要ね」
「『解呪』なんて誰ができるんですか?」
「そうね……高位の神官か、それこそ本物の聖女様か。でも王都中に呪われた人がいろんなところに広がっているようだと、解呪できるとしても間に合わないわ……」
呪いの蔓延……確かにそうだ。これではまるで……
「俺には呪いが次々に伝染しているように思えます」
これではまるで人がゾンビみたいに聖女化しているみたいだ……。




