第八話 偽聖女の断罪2
翌日、王城前広場には多くの人々が集まっていた。もちろん俺もその中の一員だ。
これから手に汗握る断罪が始まるのだ。
そして今日は「偽聖女」という国家反逆罪級の罪状が扱われるのだ。たぶん俺みたいにただの詐欺くらいに思っている人も多いだろうけれど。
「何でみんな聖女になりたがるのかしら」
俺と一緒に断罪見物をすることになったクローデリアが言った。公爵令嬢が見物人側にいることに違和感があって仕方がない。
「そりゃ、ちやほやされますからね。お布施もたんまりいただけるでしょうし」
クローデリアは納得いかなそうな顔をした。
「なんか違うと思う」
上級貴族様にはわからんでしょうよ。
そのとき大きな歓声が上がった。
断罪台を見ると、罪人の女性が登場し、王太子レオンハルトと宰相ジークフリートが続いた。
まずはレオンハルトが口を開いた。
「聖女リュシア・ノエル、おまえとの婚約をここに破棄する!」
またまさかの婚約破棄?
聖女か貴族の令嬢であれば誰でも婚約しちゃうのか、この王太子は……。
横のクローデリアを見ると、ゴキブリでも見るように萎えた顔をしていた。元婚約者がとっかえひっかえしているのは気分のいいものではないだろう。
「えっと……王太子様、私は婚約した覚えはないんですけれど……」
何だって? 何が起きているんだ? 王太子が逆にフラれたということなのか? 婚約破棄返し……すごいものを目にしているのは間違いない。
「何を勘違いしているのか知らんが、『聖女』を名乗るからには王太子と婚約すると言っているようなものだぞ。つまり、『聖女』の身分を偽るということは、王家に取り入り、王政府を乗っ取ろうとする大罪——国家反逆罪なのだ! よってここに断罪する!」
勢いで通した……。こんなのが王太子で大丈夫なのか、この王国は?
観衆も盛り上がっていいものか困っているじゃないか。
そこにジークフリートが割って入る。真打ち登場だ。
「レオンハルト殿下のお言葉を補足いたします。聖女は王政府と並び立つ聖教会の頂点の存在です。つまり、国王陛下にも匹敵する責任を負う存在です。王国民を信仰によって正しい方向に導き、奇跡をもって安寧をもたらすという責任があるのです。聖女になりすますことは、王国を誤った方向に導き、危険に晒す行為なのです。よって国家反逆の大罪とされるのです」
一部の観衆が「それは許せん!」と声を上げ、熱が高まってくる。
さすがジークフリート様だな。それっぽい理屈だ。よくわからんけど。
しかし偽聖女リュシアは動じた様子がない。それどころか、優しい微笑みで言い返す。
「私は本物の聖女です。何度も申し上げているではないですか。なぜ信じていただけないのですか?」
そう言ってリュシアは詠唱し始めた。
「祝福共有」
リュシアが魔法を発動すると、淡い光が会場を包んだ。
「何なのこれ? 不快だわ」
隣のクローデリアが言った。偽聖女が使う魔法と言えば、ただ光るだけのやつだろう。
断罪台のジークフリートはやはりまったく動じていない。
「ただ光るだけの魔法ではないですか。それで聖女の奇跡のつもりですか? 失礼ながら、単純にあなたの魔力量では、祝福適性試験を通るはずがない。それに、私はあなたが治癒を人に押しつけようとしているのを目撃しました。聖女は必要な者に必要な奇跡を与えるものです。その意味でも聖女の適性があるとは思えない」
ジークフリートがさらにそれっぽい理屈を展開していく。これは押しているんじゃないか?
「それは王政府が勝手に思い込んでいる基準に過ぎないのです。今、新しい聖女の時代が到来しようとしているのです」
「……新しい聖女の時代?」
どうしたジークフリート……?
観衆もざわつき始めた。何かいつもの断罪と様相が違う……。
ここはやはり俺の助けが必要なのでは?
【スキル:断罪の石投げ】【効果:悪人に必中……スキル使用者が視認可能な範囲内で、設定した罪状に最も近い者が「悪人」とされる。同等の罪状の者が複数人いる場合はランダムの一人に当たる。該当者がいない場合は自らに石が向く】
お、スキル仕様が表示されるようになった。
ではリュシアが本物の聖女かどうか判定してみせよう。
罪状は「偽聖女」に設定し、石を握りしめた。
「断罪の石投げ!」
俺の手から放たれた石が断罪台に向けてまっすぐに飛んでいく。やはりリュシアは偽聖女か!?
だが、石は断罪台に届く手前で突然落ち、観衆の一人に当たってしまった。
なぜ!? 魔力が不足してスキルが発動しなかったのか!? いや、そもそも俺に魔力などないだろ。
くそっ。もう一度だ。
「断罪の石投げ!」
今度は断罪台に向かわず、右に石が飛んでいった。俺の手元が狂ったわけではない。石が明確な意思を持って右に飛んだ。
何なんだ……。
「『断罪の石投げ!』……あっ」
石がすぐ前にいた婦人に当たった。
本当に何なんだ? まだ俺はスキルをうまく扱えていないのか? それともまだ俺の知らない隠されたスキル仕様でもあるのか?
「どうなってるの……」
横で見ていたクローデリアが呟いた。
これじゃあ、俺は手当たり次第に石をぶつけまくるただの暴漢だ。
困惑して投げまくってしまったが、すでに三人にケガをさせてしまったはずだ……。
前の婦人が頭を抑えながらこちらを振り向く。……とりあえず謝ろう。
「すみま……」
そう言いかけて俺は息を飲んだ。
その女は笑っていた。石をぶつけられたにも関わらず。それもおかしくて笑っているのではない。まるで無機質な、ただ笑顔が顔に貼り付いているような笑み……
女が頭を押さえていた手のひらが、淡い光を放った。
「治癒……?」
クローデリアが言った。
俺は断罪台の前のあたりを見た。
するとそこにいた一人の女がこちらを笑顔で見ており、その頭を押さえた手からは「治癒」の光が放たれていた。
右の女性も俺の方を見ていた。やはり貼り付いた笑顔と手からの光を放ちながら……。
救いを求めるように断罪台に目を向ける。
そこにもまったく同じ笑顔を浮かべるリュシアがこちらを見ていた。
「ひっ!」
情けない声を出して俺は後ずさる。
「ユウマ、大丈夫よ。私が守るから」
俺はその言葉に甘えてクローデリアの背後に隠れる。
そのとき、俺は「断罪の石投げ」のスキル仕様の一部を思い出していた。
「同等の罪状の者が複数人いる場合はランダムの一人に当たる」
つまり、この場に何人も偽聖女がいるのだ。




