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【連載版】転生したら断罪の場でヤジを飛ばして石を投げるモブ平民だった  作者: Vou
第四章 断罪の王国編

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第六十八話 王国の断罪(前編)

 王城前広場には、今までに見たことがないほどの多くの観衆が集まっていた。

 観衆だけではない。断罪台の前には国王フリードリヒ、宰相ジークフリートを始め、王政府の幹部や王国騎士団(ロイヤル・ナイツ)の主力部隊、宮廷魔導士たち、それに聖教会から上級神官や聖教会騎士団(テンプル・ナイツ)まで勢揃いしていた。


 これほどの人が集まったのは、「真・(トゥルー)(アンチ・)断罪(ヴァーティクト)戦線(・フロント)」が、王国への断罪を予告したからに他ならなかった。


 そして、断罪台には、断罪する側として、聖女エリシアが中心に立ち、その右手側には鉄仮面を被り、王太子レオンハルトの首元に短剣を突きつけたクローデリア、左手側に、同じく鉄仮面を被ったユウマ・クレイこと俺が控える。

 鉄仮面を作ってくれた父もきっとどこかにいるだろう。俺たちの正体も気づいているかもしれない。当然、ジークフリートも鉄仮面の二人が、「断罪(ヴァーティクト)結社(・オーダー)」のかつての部下たちだということには気づいているだろう。



 「真・反断罪戦線」の首領として立つ、聖女エリシアは、王城前広場を埋める観衆をゆっくりと見渡した。


 そして、いつもの穏やかな声で呼びかけるように語りを始めた。大きな声量ではないが、不思議とその声は広場の隅々まで響くのだった。


「今日、再び、私、エリシア・ブランシェはこの断罪台に立ちました」


 それまで騒然としていた観衆が静まり、エリシアの声に耳を傾ける。

 

「ただし、断罪される側ではなく、断罪する側としてです。私はここに王国の悪政を断罪します。聖女として、王国を正しい道へと向かわせるためです」


 観衆がざわつくが、エリシアが言葉を続けると再び静まり返る。


「あなたたちは、今まで何度も『断罪』を見てこられたのでしょう。悪人が裁かれ、罰を受ける姿を見て、『王国は正しい』『自分たちは守られている』と安心してきたのではありませんか?」


 観衆はじっとエリシアの声に聞き入る。心当たりのある者ばかりだろう。


「けれど、本当にあなたたちは罪を憎んでいたのでしょうか?」


 エリシアはそこでわずかに間を置く。


「私は違うだろうと思います。あなたたちは、悪人が裁かれるところを見て安心したかっただけです。自分はあちら側ではない、自分は正しい側に立っていると思いたかっただけです。

 王国が差し出した『罪人』を見て、怒りをぶつけ、石を投げ、罵声を浴びせ、そうして心を軽くしていただけなのです」


 観衆が再びざわめき始める。


「それが悪いと言いたいのではありません。人は不安になれば、怒りの向かう先を求めます。苦しみの原因を知りたくなる。誰かが悪いのだと思いたくなる。

 問題は、王国がその弱さを利用してきたことです」


 エリシアの声はなおも穏やかだった。

 だが、その穏やかさがかえって広場全体を緊張させていた。


「王国の『断罪』は、正義の制度として始まったわけではありません。始まりは、災害と戦災の時代です」


 観衆がどよめく。


 王家の歴史や、王国の起源に関わる話だと感じ取ったのだろう。それは「知ってはいけない」類のものだと直感している者も多いはずだ。


「その頃の王都は、食べるものもなく、暴動と略奪が相次ぎ、王家も聖教会も信を失っていました。誰もが怒り、誰もが怯えていました。

 そのとき、王と大司教は一人の辺境の大貴族を断罪したのです。穀物を買い占め、私腹を肥やし、王都を飢えさせた元凶として」


 エリシアは、観衆たちをまっすぐ見つめた。


「人々は熱狂しました。『悪が裁かれた』『自分たちの苦しみには元凶があった』『王国は正しく原因を見つけ、断罪した』と、そう信じたのです。

 けれど——その辺境の大貴族は、本当の黒幕ではなかった」


 観衆が静まり返る。彼らが息を飲む音が聞こえるような気がした。


 観衆の中には、聴くことを拒絶したく思っている者もいるだろう。

 だが、聖女の口から語られる以上、無視もできない。


「本当は、王家にも、聖教会にも、責任を負うべき者がいました。

 けれど王国は、自分たちが生き延びるために、一人に罪を押しつけたのです。民衆の怒りを、たった一人に押しつけ、『断罪』という見世物によって秩序を取り戻したのです。

 つまり、王国の断罪の起源は、正義ではありません。王国を守るための、最初の大きな嘘だったのです」


 広場にざわめきが広がる。


 「断罪」が嘘であった。すんなりとその事実を受け入れることも難しいだろう。その話が別の誰かの口から語られたのであれば、単なる与太話としてしか捉えられなかっただろう。しかし、今それを語るのは真実と正義の象徴とも言える「聖女」なのである。


「けれど、その嘘はあまりにうまくいってしまった。

 人々は、罪人が裁かれる光景を見ると安心するようになりました。王家は、断罪すれば民は従うと学んだ。聖教会は、断罪すれば怒りの矛先を逸らせると学んだ。

 そうして断罪は制度となり、王国の秩序の一部となったのです」


 エリシアはそこで、少しだけ表情を曇らせた。


「その断罪は、今も王国の虚偽による、不当な不幸を生み出しています」


 エリシアの表情に合わせて、観衆も悲痛な思いを感じ始める。


「原初の断罪以来、無条件に『辺境』が忌むべき存在とされ、王都は辺境を蔑むようになり、見捨て、苦しみを見ようともしなくなりました。

 助けるべき時に助けず、手を差し伸べるべき時に差し伸べず、追い詰めるだけ追い詰めておきながら、そこで生まれた悲劇を見て『辺境は野蛮だ』『辺境は汚れている』と断罪する。

 すべて捏造された正義であり、私はそんなものを正義と呼ぶことなどできません」


 観衆の中には、目を伏せる者も出始めていた。


「南方の悲劇は、辺境の残虐性ではありません。王都の無関心と差別が生んだものです。

 北方の惨劇は、王政府が仕組んだ残忍な殺人です。彼らはその罪を辺境伯に押し付けました。

 東方の悲劇も、ただ一人の怪物だけのせいだとは思えない。王都が溜め込んできた悪意が『魔女』の形を取って現れたように思えてならないのです」


 そこまで穏やかに語ってきたエリシアが、初めて声に強い熱を込めた。


「断罪されるべきなのは、罪人だけではありません!」


 その声に、広場全体が震えたように感じられた。


「人を見捨て、嘘で裁き、それを秩序と呼んできた、この王国です。

 辺境の民を人とも思わず、身分によって命の価値を分け、罪人という言葉の陰に自らの責任を隠してきた、この王国そのものが断罪されるべきなのです!」


 観衆の顔に、恐怖と動揺が浮かぶ。


 王家や王政府を批判する言葉なら、まだよかった。

 だが、「王国そのものを断罪する」と言い切られれば、それは自分たちに向けられている断罪の宣告だと感じられたのだ。


 それでもエリシアは続けた。


「けれど、私たち『真・反断罪戦線』は無秩序を望んでいるのではありません。

 罪を無条件に見逃せと言いたいのでもありません。

 ただ、嘘と見世物の断罪を終わらせたいのです」


 エリシアの声が再び穏やかになる。


「人を安心させるためだけに誰かを差し出す断罪。

 民衆の怒りの捌け口として行われる断罪。

 王国の失敗を覆い隠すための断罪。

 そんなものは、もう終わらせなければならないのです」


 エリシアは両手を胸の前で重ねる。


「本当に人を守るための国を作り直さなければなりません。

 本当に罪を裁くための制度を、嘘ではなく真実の上に築き直さなければなりません。

 そのためにまず必要なのは、あなたたち王国民が目を覚ますことです」


 そして、観衆一人一人の顔を確かめるように見渡した。


「どうか、王国が見せてきた夢から目を覚ましてください。

 あなたたちが今まで見てきた断罪は、正義ではなく、王国を守るための見世物だったのだと、どうか知ってください」


 最後に、エリシアははっきりと言った。


「この王国は、一度断罪されなければなりません。

 そしてその上で、もう一度、人が人として生きられる国へと作り直されるべきなのです」



 聖女エリシアの演説は、間違いなく人々の心に届いたはずだった。

 ただ、その内容を消化し、行動を起こすには少し時間が必要だった。


 ——その断罪の炎が、王国に向けられるまでの少しの時間。



 しかし、間髪を入れず、口を開いた者があった。


「言いたいことはそれだけか?」


 国王フリードリヒだった。

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