第六話 凶悪殺人犯を求めて
王都の巡回にあたって準備がしたいとクローデリアが言うので、ひとまずレーヴェンハイト公爵家の屋敷に行き、俺は屋敷の前で待っていた。
クローデリアが「奴隷っぽくしておこう」と、俺の首に縄をつけ、門の柵に括りつけた。
人が通るたび、俺を不審者でも見るような目で見て、避けるように通り過ぎていく。
恥ずかしい。
ついには巡回中の騎士に職務質問みたいに声をかけられ、「奴隷ごっこです」と答えたところ、騎士が気持ち悪いものでも見るような目で見ながら、「連行する」と首の縄を解こうとした。
「うちの奴隷に何をしてらっしゃるの?」
そこにクローデリアの声が響いた。
「奴隷」って言っちゃったよ。
「……本当に奴隷ごっこされていらっしゃるのですか?」
騎士が戸惑ったようにクローデリアに尋ねた。
「ごっこ……? とにかく公爵家の所有物に手を出すのはやめてくださいますか?」
「失礼いたしましたっ!」と騎士は足早に去っていった。
クローデリアは丈の短いスカートのドレスにマントを羽織り、腰には騎士が持つような実戦向けの剣を下げていた。
お美しさは変わらないものの……冒険者パーティーの前衛にしか見えない。
「何か?」
「……なんか冒険者みたいだと思いまして」
「そうよ。私は冒険者ギルドに登録している正規のAランク冒険者よ。もう少し実績を積めばSランクね」
ガチじゃん……
「じゃあ冒険者パーティーとか所属しているんですか?」
「いいえ、ソロよ」
聞いてはいけないやつだった。友達いなさそうだもんな。
「私とパーティー組みたいの?」
「嫌です」
クローデリアがむっとして気まずい空気が流れたが、冒険者なんて危ないことは絶対に嫌だ。
話題を変えよう。
「あの、王都の中を歩くだけですよね?」
「そうね、まるで魑魅魍魎の跋扈するダンジョンのような王都をこれから歩くのよ」
王都ってそんな危ないんだっけ?
「あなたのスキルと私の剣で、悪人どもを成敗しまくるわよ」
「一応、お伝えしておきますが、俺のは攻撃スキルではないですよ」
「……そうね。確かに火力が足りていないわ。……あなた鍛冶屋だったわよね。鉛の石を作って投げたら一気に火力が上がるんじゃないかしら。あ、もっと強力な素材もあるから今度提供するわ」
死ぬわ。
真顔で言わないでください。
俺たちは王城前に戻り、王城から王都の入り口となる城門までまっすぐ続く大通りを歩くことにした。理由は人がたくさんいるから。
「さあ、行きましょう。歩きながら、スキルを発動してちょうだい」
クローデリアが促す。
俺は凶悪殺人犯を断罪することを念じて、目立たないように小声でスキルを発動する。
「断罪の石投げ」
石が飛んでいき、宙でUターンし、戻ってきて俺を目がけて飛んでくる。痛いの嫌だな、と手で防ごうとした。
そのとき——鋭い剣の一閃が石を弾いた。
クローデリアは得意げな顔だ。
「私が護衛するって言ったでしょう?」
頼もしい……。
一区画ごとに進んでは石を投げ、クローデリアが剣で弾くというのを繰り返す。
これは痛くなくてありがたい。しかし、首に縄のついた男を連れながら剣を振り回す公爵令嬢は人目につきすぎて、秘密結社の所業とはとても思えないな。
そして石は一向に凶悪犯を見つけてくれない。
ふと、道端に座る幼い子どもが目に入った。
目に入ったのは、俺と同じように首に縄をかけられていたからだ。
その子どもは泥に汚れた服を着て、痩せ細って、目がうつろだった。
——奴隷……本当にいるんだ。
歩きながら注意して見ていくと、子どもに限らず、そうした奴隷は少なからずいた。
奴隷は決まって貴族か金持ちそうな者が連れていた。
「意外と奴隷って多いんですかね。今まで気づかなかったです」
「『奴隷』とは公には言っていないわね。あくまで貴族や商人の『奉公人』ということになっているわ。王国では表向きは禁止しているから。でも実態は奴隷と同等の扱いをする貴族も多いから……痛ましいわね」
あなたも人の首に縄をつけてますけれど。
「何か嫌になってきちゃった。お茶したいし、私、帰りますわ」
「え?」
「じゃあ、あとはよろしくお願いね」
そう言ってクローデリアは風のように去っていった。
俺は一人になってしまった。
首に縄をつけられたまま。
城門まではまだまだ長い道のりだ。
それでも俺は石を投げる。——この王都に潜む凶悪犯を見つけ出すため。そして俺自身がその極悪人の断罪を楽しんで鑑賞するため。
自分で釣った魚をおいしく食す、みたいな感じ? ふふふ。モチベーションが上がってきた!
「断罪の石投げ」
俺に向かってUターンして戻ってくる石を弾く者はいない。それでも向かってくることがわかっていれば防ぐだけだ。
俺は両手で頭を隠す。
が、石は両手の隙間をうまいことかいくぐって、俺の額にヒットした。
額から血が流れてきた。
痛い。
帰ろう。




