第五話 「断罪結社」結成・断罪スキル
公爵令嬢クローデリアと偽聖女の断罪の翌日、俺は「断罪結社」と呼ばれる秘密結社(?)の一員となった。
そのことをとても喜ばしく誇りに思って…………いない。まったく。というか、一刻も早く抜けたい。
「宰相直轄の秘密結社である『断罪結社』を作ることを決めた。悪を正しく断罪するための組織だ。
ユウマ、君はその核となるメンバーの一人だ」
宰相ジークフリートは目を輝かせ、鍛冶屋見習いの平民の俺にそう告げた。
「結社を秘密にする最大の理由は、平民のユウマが危険に晒されないようにするためだ」
俺は騙されない。たぶん宰相は俺をこき使った上で、俺の手柄を表に出さず自分の手柄にしたいのだろう。
前世で、俺を残業代も休日手当も無しで死ぬまで働かせて納期と黒字を守り、それを自分の成果として、出世した上司が何人もいた。
ジークフリートはなぜかもう一人のメンバーとなった、公爵令嬢クローデリアのほうを向いた。
「武芸に堪能なクローデリア様は、なるべくユウマとともに行動し、彼が狙われないように護衛してくださいますか?」
公爵令嬢に護衛される平民が、どこの異世界にいるんだ……。それだけで目立っちゃうよ。
っていうか武芸に堪能な公爵令嬢って何?
「ですが、公爵令嬢とこの小汚い……失礼……品位の低い平民が一緒に歩いていると目立ってしまいますね……」
言い直しても失礼は正せていないですよ。
「……目立たないようにユウマはクローデリア様の奴隷を装ってみたらいいかもしれません」
奴隷!?
「つまり、私は奴隷を守る心優しい公爵令嬢でいればいいのね?」
えぇ……
「ぐぅ」
どこからつっこんだらいいのか大混乱し、変な声が出た。
「Goodか。異国風の言葉でよくわからんが……おそらく良いということだな」
絶対にグッドではない。
異国どころか異世界の言葉だし。
「というわけで、さっそくだが、王都の平和を守るため、断罪できそうな犯人を見つけてきてくれ」
平和よりただ断罪したいだけのように聞こえるのは俺だけ?
「何の犯人でもいいよ」
「違法な奴隷を扱っている人とか?」
「もっと凶悪なのがいいな」
「じゃあ、殺人犯とか?」
「いいじゃないか。それでいこう。ではさっそく、『悪人』に石が必中するという例のスキルを発動してくれ」
「え、あ、はい」
スキルを使用しようとすると、スキルのウィンドウが目の前に浮かんできた。
【スキル:断罪の石投げ】【効果:悪人に必中】
俺は断罪見物に必携の石袋から石を取り出し、手に取った。殺人犯に石が当たることを念じ、スキルを発動する。
「じゃあ、やりますよ。『断罪の石投げ』!」
俺の手から離れた石が飛び出す。
ここ、王城前広場の周りに、石の飛翔を妨げるものはない。飛んでいく石を追えば犯人にたどり着くはずだ。
石を追って走り出そうとすると、突然石が急カーブした。俺も慌てて急カーブしようとするが、石はぐいぐい回り、俺の方を向いた。
後ろか、と思って振り向くと、次の瞬間、後頭部に鈍い痛みが……
思わず頭を抱えてうずくまると、足元に俺が投げた石が落ちていた。ブーメラン石!?
「ぷっ」と見ていたジークフリートとクローデリアが同時に吹き出し、大笑いを始めた。
「……はっ、はっ……いや、ユウマのスキルを検証したくて投げてもらったんだが……自分に当たるとは……ぷっ……予想はしていたが、愉快なものだな」
「……どういうことですか?」
「そうだな。今の検証結果からわかったことを整理しよう。まず、スキルの効果範囲はユウマの視野に入る範囲内だろう。そして、『悪人』にあたる者がいなければ、自らに返ってくるわけだ。人を無闇に疑い攻撃しようとした罰のようなものだな。ユウマは殺人犯でないことは明らかだからな」
俺は何も言わず、ジークフリートを睨む。
「まさか……殺人犯なのか……?」
「違いますよ!」
今、まさに殺意が芽生えようとしているけどね。
「では違うということにしておこう。それから『悪人』が何を指すかという点だが……」
「そもそも『悪人』って何ですかね?」
「悪いやつに決まっているでしょう」
クローデリアが俺の問いに即答するが、「だから『悪い』ってどういうことなんだよ!?」とつっこみたいところをぐっと堪えた。相手は「武闘派」の公爵令嬢らしいので機嫌を損ねたくない。
「そう、そこだ。多かれ少なかれ、誰でも悪いことをしているはずだ。絶対的な『悪さ』はそもそも神にしか定義できないだろう」
神もできないと思う、と俺は思った。俺の転生受付の女神は恐ろしく適当だったのだ。
「そこで、おそらく『悪い』の定義は、ユウマが思い浮かべた断罪の罪状の持ち主ではないかと思うのだ」
「……なるほど。確かに先ほどは『殺人犯』に当たれと念じていました」
「では試しに、私がひとこと言った後に、『嘘つき』を念じてスキル発動してみてくれ」
「わかりました」
「この国の宰相はかっこわるくて頭が悪い」
「断罪の石投げ!」
石は一直線にジークフリートに向かって飛んでいく。
「痛い!」
ジークフリートが頭を抱えてうずくまった。
「くっ……防御力の低い私で試すのは間違っていたか……」
俺のスキルは攻撃スキルじゃないですよ?
「しかし想定どおりだな。嘘をついた私に石が飛んできた。そして嘘と認定されたのも嬉しい」
ジークフリート様、頭から血が出てますよ? そして血が出たままニヤニヤするのは怖いです。
「あとは複数犯の場合だが……ユウマのスキルは単体攻撃のようだからな……試すか……クローデリア様も何か嘘をついてもらえますか?」
クローデリアは頷いた。
「クローデリア・レーヴェンハイトは醜いですわ」
俺はスキルを発動する。
「断罪の石投げ!」
石は……クローデリアに飛んでいき、勢いよく額に当たった。
「……」
「えっ? 痛くないんですか?」
ジークフリートが驚いたように尋ねた。
「はい、防御力は高いほうなので」
いや、だから攻撃スキルじゃないんで……
「ユウマは私とクローデリア様、どちらがより深刻な嘘をついていると思ったのだ?」
「いや、どちらも冗談みたいな感じなので……」
「冗談?」
血をダラダラ流しながら、ジークフリートが睨んでくる。
「クローデリア様です」
「ほう、気に食わんな……」
怖い。
「えっと……じゃあ、ユウマは私がすごく美しいと思っているってことかしら」
すてきな笑顔でそんなこと言うのはやめてください、クローデリア様。
「ほう……」
ほら、もっと機嫌悪くなった。
クローデリア様の方が嫌味っぽいと思っただけなのに。
「まあ、いいでしょう。おそらく罪がより重い者、もしくは主犯に石が飛ぶのだろう。それもユウマの倫理観や価値観で決まりそうだな」
痛みは伴ったが、俺のスキルの仕様がわかったのはよかった。
「では、さっそく『断罪結社』出動だ。ユウマ、とりあえず王都中歩き回って『凶悪犯』に石を投げてきてくれ」
「?」
ジークフリートの指示の意図がよくわからず、固まってしまった。
「うん? 返事は?」
「あの……王都って広いですよね?」
「広いな。それがどうかしたか?」
「王都中を歩き回るなんてことができると思います?」
「私は無理だな。ステータス的に知力に全振りだから」
「俺はそもそもステータスの基礎値が低いですよ」
「気合いでステータスを覆すのだ」
ジークフリートが冷たく言い放った。
根に持つタイプか。




