第三話 公爵令嬢クローデリアの断罪2
「ふむ、光を放つだけの初歩的な魔法ですな。明るいだけでそれ以外には何の効力もない。セラフィナ様に王国を守る聖女の資質がないことがはっきりした以上、仮にクローデリア様が殺害を試みたのだとしても、『聖女』殺害未遂による国家反逆罪は適用されません。逆に聖女の資質のない者が聖女を騙るのは王国民の安全を脅かす重大な虚偽罪です」
ジークフリートが冷静に語った。
あんな奇跡っぽいすごい感じだったのに何の効果もないのか……
セラフィナの表情が再び般若に変わる。
「何ですって? あなたこそそんなんで宰相の資質なんてないじゃないの!」
セラフィナの言葉が虚しく響く。
対照的にクローデリアの表情が初めて少し安堵したようだった。
「ジークフリート様、ありがとうございます。ただ、私はセラフィナを殺害を試みてもいません」
ジークフリートは頷く。
「はい、私は観衆のもう一つの言葉にも注目しています。偽聖女の『陰謀』という言葉です。おそらくセラフィナ様はこの言葉にも反応したと思われます」
「は? 『陰謀』って何よ!? 私がクローデリアを陥れたとでも言うの?」
「そこまでは言っておりませんが……なるほど、そうだったのですね。
ところで、クローデリア様はどうやって藁人形を手に入れたのですか?」
「屋敷に勝手に届けられてきたのです。気持ち悪かったので、捨てようと思っていたのですが、処分する暇もなくすぐに王国騎士がやってきて逮捕されてしまったのです」
クローデリアははっきりと淀みなく答えた。
「なるほど、それは裏を取りましょう。しかし、それが本当だとすると、タイミングが良すぎますね。不自然なほどだ。
ところで、王国騎士に逮捕を指示したのは、あなたですね——レオンハルト王太子。逮捕の判断はどういった経緯で?」
状況に追いついていけていなさそうなレオンハルトが急に話を振られて、狼狽える。
「それは……セラフィナが殺されかけたので、助けてくれと泣きついてきたからだ」
「なぜセラフィナ様の言葉を信用されたのです?」
「いや……それはセラフィナのことを愛していたから……」
「は? あんた、私という婚約者がいながら浮気していたの?」
クローデリアが恐ろしい形相でレオンハルトを睨む。怖っ。
「王太子ともなれば、側妃を持つのはあたりまえだろう」
レオンハルトは胸を張って答えた。……王太子もクズだったか。
「レオンハルト殿下の処分は後にするとして、重要なのは、藁人形が届くのを待って逮捕のタイミングを図っていたのが、セラフィナ様だったという事実です。少し穿った見方をすれば、セラフィナ様は意図的にレオンハルト様に近づき、婚約者のクローデリア様との仲を裂いて、王家との関係を作ろうとしていたとも見えますね」
「そんなの妄想よ! いい加減なこと言わないでさっさとクローデリアを死刑にしなさいよ」
すでにその場のざわめきの質は変わっていた。クローデリアへの非難の罵声は消え、疑念混じりの囁きに変わっていた。
俺は意を決した。
「断罪の罵声! 『偽聖女を追放しろ!』」
俺のこのスキルは本物だ。本当の悪人を炙り出すのだ。
俺のスキルに触発され、観衆が一斉にセラフィナを非難する声を上げた。
そのとき、セラフィナが何かごにょごにょと言い始めた。言い訳かと思ったら詠唱か。
「閃光!」
会場が強い光に包まれ、観衆の目が塞がれる。
再び目を開けると、断罪台にセラフィナの姿はなかった。
「逃げたぞ!」
遠くに広場から出ようとするセラフィナの姿が見えた。
今こそこのスキルを使うべき時だ。
「断罪の石投げ!」
俺の手を離れた石が、鋭い弾丸となって広場の出口のほうに飛んでいく。
遠くで「ぎゃっ!」と声がした。




