第二十話 名もなき断罪6
「何だか長いこと悪い夢を見ていた気がします……」
宰相ジークフリートが言った。
事の後、クローデリアと俺は宰相府に招集されたのだった。
「それにしてもよくやってくれました。『剣姫』クローデリア様は『救国の英雄』として支持を集めましたし、私が騒動を解決した『断罪結社』を率いていたことがわかると『深謀の断罪宰相』などと持ち上げられるし、ユウマも……」
え? 俺も?
「『断罪の使徒』Xなんて呼ばれて恐れられてるな」
「何ですかXって……。俺は目立ちたくないんで、名前を伏せてもらうのはいいですけど、『断罪結社』も『秘密』結社のままにしておいてくださいよ。さもなくば辞めさせてください」
「クローデリア様は安心してください。断罪確定前の大司教殺害だったので、殺人罪に問われかねない状況ではありましたが、うまく処理しておきました」
相変わらず俺の話は聞かねえな!
「私が非常時の宰相権限で、『断罪結社』に大司教の殺害を指示したということにしています。実際、王国の存亡の危機でしたからね。感謝こそすれ、誰も非難する者はおりませんよ」
クローデリアを庇うことより、自分の手柄にしたかっただけじゃないかと思うのは俺だけ?
「エリシア様にも『聖女』への復帰をお願いして、何とか了承してもらえたし、事後処理もすべてうまくいってよかった」
「そういえば、なぜエリシア様は『偽りの聖女』なんて呼ばれているのですか? 人気の高い聖女だったのに、いつの間にか表舞台から姿を消されていましたよね」
その俺の問いにはクローデリアが応えた。
「エリシアは聖女として確かにすごく人気があったんだけど……エリシアが聖教会のやり方に反発するようになって……気づいたら断罪されて、聖教会を追い出されていたのよね。そのときもグレゴール大司教側にに落ち度があるようには思えなくて……。それからエリシアは『偽りの聖女』と呼ばれるようになったの。きっと、その頃からずっとエリシアはグレゴールに恨まれていたんでしょうね。
断罪されてから、エリシアの能力を惜しんだレーヴェンハイト公爵家が保護していたから、それで私も狙われたのかもしれないわね」
「まさかジークフリート様がエリシア様を断罪したんですか?」
俺はジークフリートを問い詰める。
「しかし『名喰い』とは……かなり古い伝承にある禁術ですね。まさか現存していたとは」
ごまかしやがった。
「そしてそれが実際に使用されるとは……。そうやって気づかないうちに歴史は改竄されているのかもしれませんね。聖教会に限らず、王政府も都合の悪いことは隠蔽したり改ざんしたり、似たようなことをしてきたかもしれません」
ジークフリートが自嘲気味に呟いた。
「そうかもしれないですね」
クローデリアも同意する。
「正直に言うと、私は王政府よりも、大司教の考えのほうに共感しましたわ」
「は?」
ジークフリートと俺が同時に声を上げた。
「な、何を仰られますか、クローデリア様。あの大司教の狂った考えを支持されるのですか? 世の中が聖女や聖騎士だらけになってやっていけると思います? 魔物には勝てるかもしれませんが、自然とか他のものには勝てなくなりますよ。王国民が生きていくためには生産職とかいろいろ必要でしょう? 皆同じだったら社会は弱体化しますよ。
それにジークフリート様の前で王政府のこと批判したらまずいですって」
俺は必死にクローデリアを嗜めようとしたが、気を悪くさせるような発言になってないだろうか。
「いえ、聞かせてください、クローデリア様。あなたのお考えを。王政府の政策立案の責任者としても改善すべきことは知っておきたいです」
ジークフリートがそんなことを言うとは……。今回の件はいろいろ思うこともあるのか。
「ユウマの言うとおり、やり方にはとても賛成できないわ。でも、大司教は平等な世界を目指していたんです。王政府が『平等』を掲げたことなど一度もないでしょう? むしろ自分たちの地位や特権を守るために必死に民衆を見下して、虐げようとしているように見えるわ」
「……耳が痛いですね。あえて否定は致しません。ですが、クローデリア様、あなたも特権階級なのにそんなことを仰るのですね。地位が惜しくはないのですか?」
「惜しいと思ったことはないです。特権を失って不便になることもあるでしょうけれど、今はその特権も捨てたい気分だわ」
「……なぜそんな考えになったのか興味深いですね」
ジークフリートがそう尋ねると、クローデリアはちらりと俺のほうを見て微笑んだ。
「ふふ……ユウマはどう思う?」
なぜ俺に聞く!?
「……俺は目立ちたくないので王族にも貴族にもなりたくないです。なったらなったでジークフリート様に目をつけられて断罪されそうですし」
俺がそう言うと、二人は苦笑いした。
「そういうことじゃないんだけどな……」
クローデリアは釈然としない反応だ。
「特権も何も関係なく、私は、私と同じ立場で石を投げてくれる人が必要なの」
……クローデリアも断罪見物が趣味になったから、貴族をやめて平民として皆と石を投げたいってこと?
「……それはどうでしょう。少なくとも聖女や生産職よりは必要性の優先度は低いでしょう……石を投げたって治癒はされないし、何も生産されませんよ」
「少なくとも私にとっては石を投げる人が一番必要なの!」
「? そこまで必要なものですかね?」
クローデリアの考えていることがさっぱりわからん。
「ユウマは悪人は見つけられても、それ以外のことは何もわからないのね」
それはどういう意味でしょう? やっぱり名前を一度奪われて頭がバグったままなのか?
「ま、私は宰相の地位を捨てる気はないですよ。私のやり方で王国を良くしていくよう最善を尽くします。そのためにも、これからも『断罪結社』には活躍してもらいますからね!」
ジークフリートが宣言するが、俺は『辞めたい』と何度も言っています。




