第二話 公爵令嬢クローデリアの断罪1
俺はお手製の石袋を握りしめ、父とともに朝早くに王城前広場に到着したが、すでに断罪台の最前列付近には多くの人が集まっていた。
時間が経つにつれ、次々と人が集まり、広場は人で溢れかえった。
ここまでの大観衆が集まる断罪は、俺にとって初めてだった。
そしてついに断罪台上に主役たちが登場し、大歓声が上がった。
「おお、王太子レオンハルト殿下に、聖女セラフィナ様だ! なんと……国王フリードリヒ陛下までいるぞ。これはすごい」
父がいつも以上に興奮していた。
王太子や聖女はアイドルのような美男美女、国王も年輩ながら俳優のように整った容姿で、平民の鍛冶屋見習いの俺にはあまりに眩しい存在だった。
しかし俺の推しは若き宰相ジークフリート様だ。容姿端麗に加え、相手が誰であろうと物怖じせず、理路整然とした口上で悪人を問い詰め、すっぱりと断罪する。
俺はそれに合わせヤジを飛ばし、石を投げることで極上のカタルシスを覚えるのだ。
国王、王太子、聖女、そして宰相——この異世界でも主役級の人々が訴追側の席に座った。
そして、罪人として断罪台に立ったのは——
「あれは——公爵令嬢のクローデリア様ではないか……レオンハルト殿下の婚約者はずだが……いったい何をしたのだ……?」
公爵令嬢クローデリア——こちらもアイドルや俳優に負けないくらい美しい容姿だったが、性格に難のありそうな、勝ち気できつそうな顔をしていた。
王太子レオンハルトが席を立ち、クローデリアに向き合った。
「始まるぞ」
父の目が輝いた。いよいよだ。
「クローデリア・レーヴェンハイト、ここに婚約破棄を言い渡す!」
おお、婚約破棄からの入りか!
「そして国家反逆罪により、断罪する!」
国家反逆罪!? かなりの重罪だ。まさか死刑もありうるのでは!?
ところが、クローデリアは顔色ひとつ変えていない。
「言いがかりです。私は王国に楯突くようなことは何もしていません」
レオンハルトを睨みつけるクローデリアの顔に反省の色は微塵も見えない。見た目どおりきつい性格なんだろうな。
「この期に及んで否定するか! 王国の守護者たる聖女を殺害しようとしたことははっきりしているんだ!」
その言葉を受けて、聖女セラフィナが怯えたように目を潤ませている……ように見える。
レオンハルトは勢いに任せて迫るだけで、いまいち説得力が感じられない。
「やっていません!」
クローデリアはきっぱりと否定した。レオンハルトの追及にキレがないとはいえ、聖女を殺害しようとしたのになぜこんなに強気で平然としているのだろうか。少しずつ俺のヘイトが高まっていくのを感じる。
そこに満を持して、宰相ジークフリートが席を立つ。
「クローデリア様、きちんとした調査の上で、あなたはこの断罪台に立たされているのです。公爵家の屋敷のあなたの私室から、聖女セラフィナ様の魔力反応が残る髪の毛を埋め込んだ、『藁人形』の呪具が見つかっています。聴き取りの結果、あなたがセラフィナ様を疎ましく思っていることもはっきりしています」
さすがジークフリート様だ。説得力が違う。
観衆がクローデリアの悪事を確信し、広場は非難の声で騒然としてきた。聖女様を殺害しようとするなんて、俺たち王国民全員を危険に晒すのと同じだ。
自分たちも被害者なのだと思うと、俺のヘイトも今までにない最高潮に達しようとしている。
と、そのとき目の前に何か文字が浮かんできた。
【スキル獲得:断罪の石投げ】【効果:悪人に必中】
【スキル獲得:断罪の罵声】【効果:悪人を的確に罵る】
スキル……そういえば転生するときに女神がスキルをつけるって言ってたな。完全に忘れていたが、このタイミングで今さらスキル獲得とは……最高か!
美しい女性に石を投げるのは憚られたが、これも世のため、ということで、俺は振りかぶった。
スキルの使い方はよくわからないがとりあえず発動することを念じながら……
「断罪の石投げ!」
俺の手を離れた小ぶりの石がきれいな放物線を描いて断罪台へと飛翔していく。
悪人公爵令嬢クローデリアに石がぐんぐん向かっていき……聖女セラフィナの頭に命中した。
セラフィナが頭を抱えて痛そうにする。
え? 悪人に必中じゃなかったの!? 標的がズレてるよ……
このままでは俺はカタルシスも得られず、聖女様にも申し訳が立たない。
慌ててもう一投を試みる。
「断罪の石投げ!」
再び石は美しい曲線を描いて……セラフィナに命中。
何回投げても断罪している側の聖女に当たるんだけど! クソスキルじゃないか!
こうなればもう一つのスキルだ。
「断罪の罵声! 『偽聖女の陰謀を許すな!』」
は? スキル発動した途端、俺の口からまったく意図しない意味のわからない言葉が飛び出した。何を言っちゃっているの、俺?
周りもヤジを飛ばしているから聞こえていないよな……と思ったら聖女セラフィナが頭を抑えながら、怒りに満ちた目でこちらのほうを睨んでいる。アイドル顔が完全に般若顔になっていますよ!?
まさかスキルの効果で当人には俺のヤジが聞こえている?
するとジークフリートがセラフィナの異様な様子に気づいた。
「どうかされましたか、セラフィナ様?」
ジークフリートが尋ねると、セラフィナは無理やり表情を和らげようとして歪な笑顔になった。が、目が般若のままで怖かった。
「いえ、何でもございませんわ。あまりに観衆のヤジが口汚く、石まで投げてくるので、私を殺そうとした罪人とはいえ、クローデリア様もかわいそうだと思いまして」
「かわいそう? 憐れみよりは怒りの表情に見えましたが」
「私は聖女ですよ。怒りなんて感情は覚えませんわ。しつこいですわね、宰相様」
その口ぶりに反して、セラフィナが苛立ち始めているように見えた。
ジークフリートはそこで少し考え込むようにした。
「では聞き方を変えましょう。観衆の『偽聖女』という言葉に反応されていませんでしたか?」
え? ジークフリート様も聞こえていたの?
「そんなわけがあるはずがないではありませんか!」
セラフィナが突然怒りに満ちた大声を出したので、観衆が静まり返った。
「やはり聞こえていたのですね。……実は私も気になることがありまして……。聴き取り調査の中で、クローデリア様が聖女セラフィナ様を疎ましく思っていた理由というのが、聖女の素行に問題があったためだという声が多かったようなのです。クローデリア様、それは事実ですか?」
クローデリアは急な展開に戸惑いながらも答えた。
「はい……聖女はその治癒の能力を、王族や貴族にしか使いません。辺境から連れられてきた重病の子どもを平然と見殺しにして死んでいくのを笑って見ていたとか」
即座にセラフィナは反論する。
「高貴な方の治癒を優先するのはあたりまえじゃないの。辺境の平民の子どもが死んで、王国に何の損害を与えるというの?」
おや……?
「その前に、ちょっと待ちなさい。これはクローデリアの断罪の場よ。なぜ私が責められないといけないのよ」
「これはとても重要なことなのです、聖女様。国家反逆罪となればクローデリア様の死罪は免れ得ません。冤罪は絶対に避けねばなりません。それに、もし隠された別の重要な罪があるようでしたら、それこそ暴かれなければなりません」
「な、何を言っているの?」
「あなたに聖女としての人格に問題があることは先ほどの発言ではっきりしました。それから能力面についてですが、どうもあなたは軽いすり傷を治す程度しか実績がありません。もしや初歩的な魔法しか使えないのでは?」
「は? そんなわけないじゃない。私は高位の魔法が使えるから聖女になったのよ」
「……ではあなたの使える最高位の魔法をここで見せていただけませんか?」
「いいわ」
セラフィナは自信満々だった。っていうか「人格に問題がある」ってところは流しちゃうんだ……
セラフィナが手をかざし、詠唱すると、たちまちその手から眩い光が放たれた。
観衆が「おおっ!」と歓声を上げる。
光が収まり、目が開けるようになって見ると、自慢げな顔をするセラフィナがそこにいた。
人格はともかく、実力は本物なのか……




