第十七話 名もなき断罪3
翌日、王城前広場には多くの人々が集まっていた。もちろん俺もその中の一員だ。
これから手に汗握る断罪が始まるのだ。
そして今日は「偽聖女」という重罪が扱われるのだ。たぶん俺みたいにただの詐欺くらいに思っている人も多いだろうけれど。
それにしても、いくらちやほやされたいからって、嘘をついて聖女を騙るのはよくないな。しかし、あの偽聖女は、奴隷の子まで治癒してお金も取らないのは偉いな。嘘さえつかなければただの良い人なのに。
……あれ? そういえばあの偽聖女、嘘ついていたっけ? 「偽りの聖女」って二つ名があるって言っていたけど、それ自体は嘘じゃないよな。まあ、本人が言っているんだから偽聖女であることは間違いないんだ。たぶん。
そのとき大きな歓声が上がった。
断罪台を見ると、偽聖女の女性が登場し、王太子レオンハルトと宰相ジークフリート、そしてもう一人、偉い聖職者っぽい老人が続いた。あれは……確か大司教グレゴール様か? そういえば今回の偽聖女捜索は聖教会の依頼だってジークフリートが言っていたな。
まずはレオンハルトが口を開いた。
「名もなき女、おまえとの婚約をここに破棄する!」
名前も知らないのに婚約破棄!?
聖女「っぽい」だけでも婚約しちゃうのか、この王太子は……。
「王太子様、あなたと私は婚約しておりません」
何だって? 何が起きているんだ? 王太子が逆にフラれたということなのか? 婚約破棄返し……すごいものを目にしているのは間違いない。
「何を勘違いしているのか知らんが、『聖女』を名乗るからには王太子と婚約すると言っているようなものだぞ。つまり、『聖女』の身分を偽るということは、王家に取り入り、王政府を乗っ取ろうとする大罪——国家反逆罪なのだ! よってここに断罪する!」
勢いで通した……。こんなのが王太子で大丈夫なのか、この王国は?
観衆も盛り上がっていいものか困っているじゃないか。
そこにジークフリートが割って入る。真打ち登場だ。
「レオンハルト殿下のお言葉を補足いたします。聖女は王政府と並び立つ聖教会の頂点の存在です。つまり、国王陛下にも匹敵する責任を負う存在です。王国民を信仰によって正しい方向に導き、奇跡をもって安寧をもたらすという責任があるのです。聖女になりすますことは、王国を誤った方向に導き、危険に晒す行為なのです。よって国家反逆の大罪とされるのです」
一部の観衆が「それは許せん!」と声を上げ、熱が高まってくる。
さすがジークフリート様だな。それっぽい理屈だ。よくわからんけど。
しかし偽聖女は動じた様子がない。それどころか、優しい微笑みで言い返す。
「私は自分で聖女を名乗ったこともなりすましたこともございませんわ」
「何ですと? しかしあなたは『偽りの聖女』だと名乗ったではありませんか」
ジークフリートが身を乗り出して迫る。
「それは世間が勝手につけた二つ名で、私が自ら聖女だと名乗っているわけではございません」
そこで大司教グレゴールが前に出て、尋問を続けようとするジークフリートを制する。
「ジークフリート様、わしに尋問を任せてくださいませんか?」
本当はジークフリートのキレのある断罪が見たいところだが、今回の件に関してはグレゴールのほうが適任なのかもしれない。
「実はわしはおまえを知っておる。過去に聖女気取りで聖教会の活動を妨害し、我々に大きな損害を与えたのだ」
「グレゴール大司教、私もそれは認識しております。聖教会の——あなたの人道に反した行いは許せませんでしたから」
「聖教会の行いが非道だというのか? 人々を祝福し、治癒し、孤児に手を差し伸べる聖教会が非道?
皆様、聞きましたか? この女は明らかに聖教会の聖女信仰を否定し、その一方で自らを本物の聖女のように思わせようとする悪人です。国家反逆罪に加え、冒涜罪にも問われるべき……死罪が妥当と考えます」
「それは……」
偽聖女が反論しようとするが、煽られた観衆が大きな歓声と罵声を上げて、それを遮る。
これは有罪確定だな。よし。俺も断罪の熱波に乗り遅れないようにせねば。
罪状を「偽聖女」に設定する。
「行け! 『断罪の石投げ』!」
俺の手から放たれた石は断罪台に向けて飛び、美しい放物線ならぬUターン曲線を描いて俺に向かってきた。
いや、薄々気づいていたよ。俺の小石程度の小さい良心が何か引っかかっていたし。あれは本物の聖女だ。次からは容疑者を捕まえる前にちゃんとスキルで確認するようにしよう。
これは冤罪を生みかけてしまった俺に対する罰だ。甘んじて受けよう。
石は迷いなくまっすぐ俺の額を撃ち抜きめり込んだ。
痛い……痛いが何か目が覚めた気がする。
さて、どうやってあの「偽りの聖女」の冤罪を晴らすべきか。
「誰かあの偽聖女を冤罪に陥れようとしている人がいるんじゃないかしら」
うわっ! びっくりした。後ろから急に話しかけないでください。
振り返るとあの貴族令嬢が立っていた。
いや、いるんじゃないかなとは思っていたけど。
「……何の話でしょうか?」
「ユウマ、あなたが正しいことをしようとしていることはわかるわ。冤罪を晴らしたいんでしょう? 『冤罪に陥れようとする罪』を罪状として設定して、スキルを発動したらいいんじゃないかしら」
何でこの人、俺のスキルのことまで知っているんだ? ジークフリートの知り合いなのか? ……うん、確かにそれなら辻褄が合う。そういうことにしよう。
では言われたとおり、「偽聖女を冤罪に陥れようとする罪」の罪状で設定して突破口を探るか。
「断罪の石投げ!」
俺の石はまっすぐ断罪台に向かって飛んでいった。Uターンしないということは本当に冤罪を引き起こそうとしている者がいるということか!?
石は断罪台上の人物に当たった。——当たった人物は大司教グレゴールその人だった。
嘘でしょう? さっき「死罪が妥当」とか言ってたよ。冤罪で殺すつもり?
「ユウマ、ヤジもできる?」
そう、俺には石投げ以外にももう一つスキルがあるのだ。
【スキル:断罪の罵声】【効果:悪人を的確に罵る……スキル使用者が視認可能な範囲内で、設定した罪状に最も近い者が「悪人」とされる。同等の罪状の者が複数人いる場合はランダムの一人を罵る。該当者がいない場合は自らを罵る】
俺は貴族令嬢が味方であることを確信していた。彼女に向かって頷き、スキルを発動する。
「『断罪の罵声』! 大司教は名前を返して退場しろ!」
何か意味わからないの出た。
俺は貴族令嬢のほうを見る。
「名を返す……? ……ああ、そういうことだったのね……。それなら……やるしかないわね」
なんか納得しているようだ。
「わしに石まで投げて罵倒するとは……。貴様、名を名乗れ!」
気づくと壇上からグレゴールが俺を睨んでいた。
「絶対に名乗ってはだめ!」
貴族令嬢が俺に向かって叫ぶ。
「ユウマ、やっぱりあなたは私のヒーローだわ。ありがとう」
そう言うと、貴族令嬢は人をかき分けて断罪台に向かっていった。
大司教の護衛と見られる聖騎士が気づき、貴族令嬢を止めようとするが、剣の一閃で聖騎士は吹っ飛んだ。どうやら貴族令嬢はめちゃくちゃ強いらしい。
そして断罪台上にたどり着くと、「大司教、あなたは許されない大罪を犯したわね」と言って大司教の胸を剣で突き刺した。
え!? あの人、何をしちゃってるの?




