第十一話 偽聖女の断罪5
目を閉じたまま死を待っていたのだが、死はなかなかやってこなかった。
殺されるのを焦らされるのも嫌なんだけど……と思っていると、ドスン、と音がしたので俺は思わず目を開けた。
聖騎士と偽聖女が地面に倒れていた。
代わりに、一人のエレガントな女性が立っていた。
剣を握った、冒険者装備のクローデリアだった。
「クローデリア様!」
俺は飛び上がり、クローデリアに抱きついた。
「あら、今回は抱きしめてくださるのね」
一度失った命だ。公爵令嬢に抱きついて死罪になってももういいだろう。これは夢かもしれないし。
でも、感触もしっかりあるし、夢じゃなさそうだ。できれば死にたくないので、そろそろ離れよう。
「あら、もういいの?」
「はい……大変失礼いたしました。どうか訴えないでください。断罪される側はちょっと……」
不敬罪とか狼藉罪とかだろうか? 公爵令嬢に抱きつく平民など狂人の沙汰なので、普通であればその場で斬り捨てられて終わりだろう。
「何でユウマが断罪されるのよ」
「とにかく大変申し訳ございませんでした。どうかご容赦ください。……ところで、この屈強そうな聖騎士をどうやって倒したのですか?」
「峰打ちよ。死んではいないわ」
峰打ちって……普通に倒したのか……。クローデリアって本当に強いんだな。
「でもどうしてこんなところに?」
「ユウマを送り届けたときに、この場所を覚えたのよ。良い鍛冶屋ね。今度、私の武器もお願いしたいわ」
「いや、そうではなくて、どうして助けに来てくれたのですか?」
「そうそう。聖教会騎士団が市民を殺害していると公爵家に報告があって、嫌な予感がしたからここに向かって来たんだけど、途中でユウマが助けを求める声が聞こえた気がして、急いで来たら、本当に襲われていたじゃないの。A級冒険者ともなると第六感も優れているのよね」
本当に叫んでました。
「ユウマ、大丈夫か? 何だか騒がしいな」
俺が戻らないことが気になったのか、父が工房の奥からやってきてしまった。
「え? クローデリア様? 公爵令嬢の? 何でこんなところに?」
やってきた父がクローデリアを目にして言った。そりゃ驚くよね。
「あら、お父様。ごきげんよう。ユウマさんにはいつもよくしていただいておりますのよ。私の剣もお願いしたいわ」
クローデリアがエレガントな笑顔を父に向けた。
「ユウマが? ああ、この間の断罪のときのことでですね。剣はぜひお任せください。ただ、ちょっと今は立て込んでまして。最近、聖騎士様から大量の発注があったもので……。あ、聖騎士様が倒れてる! お客様!? ユウマ、どうなってんだ?」
父が狼狽え始めた。
「父さん、聖騎士様からの発注はお断りした方がよさそうだ。それよりも次の断罪に備えたほうがいいよ」
※
偽聖女は刻一刻と、加速度的に増殖しているようだった。
祝福の押し付けに聖騎士が同行することで、その押し付けは脅しとなる。
祝福を受けた女性は偽聖女になり、男性は偽聖騎士になり、新しく誕生した偽聖女と偽聖騎士が次の標的に向かい、さらに次の偽聖女・偽聖騎士を生み出すという、ゾンビ的な増殖を始めたのだ。
祝福を受けない者は聖騎士が殺害するため、偽聖女・偽聖騎士にならない者は、この世から退場、ということになる。今なら王都中を歩き回らなくとも、簡単に俺の石は「凶悪殺人犯」に当たるだろう。
いずれにせよ、このままいけば、人類は偽聖女と偽聖騎士だけになるわけだ。
そして、さらに悪い知らせがもたらされた。
「聖教会騎士団が王城に押し入り、地下牢の重罪犯が解放されました」
ジークフリートからの密使が俺の家の工房にやってきたのだ。
クローデリアも工房におり、二人でその知らせを受けることになった。
「王国騎士団は現在、聖教会騎士団と重犯罪者への対応で動けないため、『断罪結社』は直ちに首謀者と目される聖騎士長を見つけ出し、拘束せよ、とのことです」
ここまで来れば、聖教会の関係者が王国転覆を図っていることは明確だった。王国を混乱に陥れて王政府の機能を止め、最終的にはすべての王国民を従わせるつもりだ。
そして、聖騎士たちが主体的に偽聖女の蔓延を広げようとしているからには、その首魁たる聖騎士長が最有力容疑者ということなのだろう。仮に他の黒幕がいるとしても、聖騎士長さえ抑えれば、聖教会騎士団の暴走は止められるという算段だ。
俺はクローデリアと顔を見合わせ、頷き合った。
聖騎士長を見つけられるのは、きっと俺だけだ。そして、クローデリアでなければ聖騎士長にも対抗できないのだろう。
いまだに、なぜモブ平民の俺がこんなことに巻き込まれてしまったのか納得はいっていない。だが、熱い断罪が再び見られる日常を取り戻すためなら、俺も全力を尽くす。
断罪のない異世界に、俺が生きる意味はない。




