第一話 転生——趣味の断罪見物
小さなソフトウェアハウスに勤め、社畜歴25年、ようやく少しゴールもちらついて来たところだった。会社がソフトウェア開発のAI化に大きく舵を切り、俺は失職した。言われたことをただ盲目的に一心不乱にやって来た結果がこれだった。
その通知を聞いた直後、俺は倒れた。
連日の徹夜も当たり前の酷い労働環境で体調の不調は感じていたが、ろくに病院も行かなかったせいだろうか、と薄れゆく意識の中でぼんやり思った。
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「いらっしゃいませ〜。忙しいのでとっとと済ませましょう。えっとクスノキ・ユウマさん。異世界で何がしたいですか?」
甲高い声が頭に響いた。
目を開くと、そこには髪をぼさぼさにして目の下に隈のある女神?社畜?っぽいのがいた。
異世界転生? 急だな! 俺、死んだのか?
「異世界に転生できるの?」
「はい、そうです。10秒だけ時間あげます。早くしてください」
10秒? 何でそんな急かされるの? え? どうしよう。でももう忙しいのは嫌だな。勇者とか大変そうだしなー。でも何にもないのもつまらないなー。
「もう時間で〜す。時間切れだとランダムになります」
そんなリスクは取りたくない!
「あんまり表舞台には立ちたくないんだけど、ちょっとした趣味を持ちたいかな。あと、ちょっと社会貢献もしたい」
「控えめでいいですね〜。ちょっとした趣味に社会貢献、いいじゃないですか。じゃあ、適当にスキルもつけときますね。うん、使い方によってはチートになるかな〜。はい、じゃあ適当にがんばってください」
いや、適当だな!
しかし、異世界転生の話は最近よく聞くから、女神様も忙しいんだろうな。そこは同情する。
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希望どおり、俺は王都の平凡な平民の家に生まれた。
父は腕のいい鍛冶屋で、贅沢はできなくても、生活に困窮するわけでもなかった。趣味は断罪見物で、大きな断罪があると工房を閉めて観に行くこともあった。母は呆れながら、子どもの俺の面倒を見るのだった。
成長して15歳になった俺は父の仕事を手伝うようになった。
そして、ある日、父親が言った。
「おまえもそろそろ行ってみるか?」
俺は父が断罪見物に誘っているのだとすぐわかった。
それが俺のその後の異世界人生を大きく変えるとは、そのときは思いもしなかった。
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断罪の熱狂はすさまじかった。前世では仕事しかしていなかったので行ったことはなかったが、スポーツ観戦はきっとこんな感じなんだろうと思った。
王城前の広場に観衆が集まり、断罪台に罪人が立たされ、晒され、裁かれる。罪人の悪行が明かされ、観衆のヘイトが高まり、処罰が下されると爽快な気持ちになる。俺は安全なところから力いっぱいヤジを飛ばし、怒りが高まれば石を投げる。
この異世界でも、いや、前世でもここまでのカタルシスを感じたことはなかった。俺は父とともにどっぷり断罪見物にハマることになった。
裁かれるのは、貴族であり、高名な司祭であり、富豪の商人であり、罪状も公金横領、異端、暗殺など、多岐に渡った。
普段偉そうにしているやつらの悪事が暴かれ、それを非難する正義執行の快感はたまらなかった。
その日、父は朝から工房を閉めていた。
仕事でも見せないような、深刻で真剣な顔をしていた。
「父さん、どうしたの」
俺は不安になって尋ねた。
父は俺をまっすぐ見て言った。
「ユウマ、今日、かなり大きな断罪があるぞ」




