表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殴るパラディソ〜パラディンが致命打と攻撃速度極振りしたら火力職と同じくらい火力出んじゃね〜  作者: 幻翠仁


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/13

第9話 - 武器がない? 殴りゃ良いんだよ



 草原の真ん中で、パラディソは立ち尽くしていた。

 下着一枚。武器なし。防具なし。金なし。

 あるのは、身体だけ。武器になるものと言えば、拳だけだった。


「……ふっ……」


 鼻を通した、乾いた笑いが漏れる。

 詰み。普通なら、ここで街へ戻る。だが、パラディソは違った。


「この程度の苦境で、オレが折れるとでも……?」


 口元を歪め、パラディソは呟いた。

 呟いた後で、少しだけ考える。ゼリスヨは最底辺。核を壊せば倒せる。刃がなくとも、衝撃さえ加えれば――理論上では、倒せる。理論上は。


「武器がねぇなら作るまでだ……殴り殺してやる」


 拳を作り、左手に打ち付ける。

 軽い音。頼りない。だが、確かにそこにある。


 パーティの盾役だった頃、この拳で殴ることは殆どなかった。

 大剣を持ち、盾を構え、受けて、いなして、耐えて、時間を稼ぐ。殴るのはいつも、パラディソ以外の誰かだった。


 草が揺れた。風ではない。

 視界の端で、群青色の塊が跳ねた。ゼリスヨだ。

 速い。相変わらず、腹が立つほど速い。だが、パラディソは動いた。


「――ッしゃおら! かかってこいやぁ!」


 パラディソは避けない。構えもしない。

 ただ、前に出る。ゼリスヨが跳ぶ。

 顔面ではなく、胸元を狙ってくるのが見えた。


「ッらぁ!!」


 思い切り、拳を振り抜いた。

 ぐちょり、という感触。骨に、柔らかい反発が返ってくる。拳が、ゼリスヨの体内に半分沈み込んでいた。ぬるい。滑る。引き抜くのに、一瞬手間取る。その隙を、ゼリスヨは逃さない。反撃の跳躍。


「ちィ゙!」


 とっさに腕で顔を庇う。

 べしゃ、と音を立てて、ゼリスヨが前腕に張り付いた。すぐさま滲み出した溶解液が皮膚を溶かしていく。熱さに歯を食いしばり、その腕ごと地面に叩きつける。鈍い音とともに、草が舞う。さらに、もう一度。


「……離れ、やがれッ! クソゼリスヨが!」


 殴る。叩き付ける。拳で、地面で、草原で。

 武器などない。技術もさしてない。あるのは、体重と勢いだけだ。

 数度目の衝撃で、ゼリスヨの動きが鈍った。震えが遅れる。


「あ?」


 パラディソは気付いた。核が見えている。

 半透明の身体の奥。小さな、それでいて硬そうな塊。

 拳を握り直す。痛みはある。腕も焼けている。だが、今は関係ない。


「おらぁぁッ!」


 拳を、叩き込んだ。

 鈍い破砕音。次の瞬間、ゼリスヨの身体が一気に崩れ落ちる。群青色の液体が地面に吸い込まれていった。残ったのは、粘つく感触と、荒い呼吸だけ。


「……倒せた、のか……?」


 しばらくしても、動かない。

 ゼリスヨは完全に沈黙していた。やがてぽんという軽い音とともに、ドロップ品であるゼリー液が落ちる。ご丁寧に、瓶に入った状態だ。


 それを確認したパラディソは、その場にへたり込む。

 拳を見下ろす。赤く腫れ、所々皮膚が爛れている。


「……クソ痛ぇな」


 だが、口元は歪んでいた。

 武器はない。装備もない。金もない。それでも、倒した。


「んだよ……殴れば倒せんじゃねぇか」


 脳筋の結論である。

 草原の風が吹く。青い草が揺れる。

 下着一枚の男は、拳を武器にすることを覚え始めていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ