第7話 - 決め台詞が似合わない男
「――ッ!!」
勢い良く、上半身が跳ね起きる。
肺が痙攣し、空気を掴もうとして空振った。
「……はっ、はっ……はぁッ……!」
喉が焼けるように痛む。
胸が上下し、心臓がやけに耳の近くで鳴っていた。
宿屋。見慣れた天井。薄汚れた梁。
鼻腔を刺す、木と埃の匂い。パラディソはしばらくそのまま、呼吸だけに集中した。やがて、肺が落ち着いてくる。
ぎし、と音を立ててベッドの隅に腰を下ろした。
両肘を膝に乗せ、頭を抱える。
「……ゼリスヨに殺されるなんざ、死んだ方がマシだぜ……」
自嘲気味に、呟く。
最弱。初心者向け。肩慣らし。
その全部が、まとめてパラディソの顔面に叩き返された。
「動きが見えねぇとはなぁ……」
草が揺れた。その瞬間には、もう終わっていた。
避ける暇も、構える暇も、考える暇すらなかった。
「あぁ……反射神経ねぇ。そういや、ずーっと盾役やってたんだ。避ける必要ねぇんだから、考えたことすらなかったわ……」
視界が鈍い。反応が遅い。
レベルが高く、ステータスポイントの割り振りもしていたときは、それでもどうにか反応できていた。それがない今、反応できるはずがない。
耐久を捨てた。筋力も足りない。速度を活かす前に、潰された。
理屈は分かる。だからこそ、パラディソは腹が立っていた。
深く息を吐き、乱暴に顔を擦った。ぐいと立ち上がる。
「クククッ……おもしれぇ。奴は完膚なきまでに蹂躙してやる……」
口元を歪に変形させ、不敵に笑う。
そんなパラディソも、今は下着一枚。言う人が言えば決め台詞になる言葉を吐いても、今のパラディソには格好がつかない。
短剣、防具なし。下着のみ。
まずは装備品の回収作業に取り掛かる必要がある。
パラディソは壊れた客室のドアに足を向ける。
次に外へ出るときは、同じ死に方だけはしない。
少なくとも、顔面からは――と胸に刻んだ。




