第2話 - 雑踏の喧騒は、酷く冷たい
大通りは、朝から喧しかった。
露天の呼び声。人波のざわめき。荷馬車の車輪が石畳を打つ音。金属同士がぶつかる乾いた響き。それら全部が、パラディソの神経を逆撫でしてくる。
「……クソッたれ」
吐き捨てるように呟き、石畳に転がった石ころを蹴飛ばす。
肩に担いだ盾は重く、背中の大剣はやけに存在感を主張していた。
『盾役が前に出ないと、話にならねーだろ』
『火力の真似事なんかして、何考えてんだ』
『役割ってもんを理解しろよ』
ついさっきまで仲間だった連中の視線が、まだ皮膚に残っている。
思い出した言葉の数々に立ち止まり、頭を乱暴に掻く。
「あー、うるせぇうるせぇ! お前らがチンタラやってっからオレの体力が削られるんだろうが。つーか、今日の敗因はビショップの管理不足だろ」
誰に向けたわけでもない罵声が、喉の奥から溢れ出る。
突然大声を出したからか、周囲の雑踏はパラディソを避けるように通りはじめた。パラディソを中心に、空白が出来る。
通りの中央では、冒険者らしき一団が地図を広げて言い争っていた。
少し先では、剣を磨く若い戦士と、魔法書を抱えた魔術師が談笑している。どいつもこいつも、ちゃんと自分の役を演じている顔だ。
パラディソは舌打ちし、視線を逸らした。
壁際に寄りかかり、額を押さえる。
喧嘩別れだ。円満とは程遠い。
罵声も出たし、盾も一度投げた。それでも、装備と盾は戻ってきた。
「オレ一人じゃ何にも出来ねぇんだよなぁ」
誰も聞いていないのを良いことに、そう呟く。
だが、胸の奥は妙に静かだった。
空っぽではない。むしろ、変な熱が、じわじわと広がっている。守る相手がいないなら、好きに殴ればいい。役割を押し付けてくる声も、もうない。
「けっ……こうなりゃヤケだ。やってやろうじゃねぇか」
大通りの向こう、冒険者ギルドの看板が陽を反射していた。
パラディソは歩き出す。
悪態を胸に溜め込んだまま、殴るための準備をしに。




