表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殴るパラディソ〜パラディンが致命打と攻撃速度極振りしたら火力職と同じくらい火力出んじゃね〜  作者: 幻翠仁


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/12

第12話 - 自分でそのビルド、思い付いたんですか?



 カウンターに肘を付き、パラディソは最後のひと口を飲み干した。

 薄いスープ。味はほとんどしない。それでも、腹に落ちると、じんわりと身体が重くなる。そのまま、カウンターに額を預ける。


「あぁ……生き返るぜ」


 独り言だった。

 その頭上から頭を叩かれた。気怠げに横目を向けると、カウンターの内側で腕を組み、こちらを見るテーンシュと視線が交錯した。


「……パラディソ。身体、小さくなってねぇか?」


 言われて、パラディソはピクリと肩を揺らした。

 テーンシュは目を細め、じっとこちらを見つめている。冗談めいた笑みはない。酒も進んでいない。酔っている顔ではなかった。


「投げ飛ばして気付いたんだが、妙に軽くなってやがる。厚みもねぇ」


 宿屋の空気が、少しだけ重くなる。

 パラディソは片眉を跳ね上げ、視線を逸らした。

 頬を掻く。指が、やけに引っ掛かる。


「……あー、それがよ」

 一拍、間が空いた。


「オレ、今日ステータス初期化した」


 言った瞬間だった。

 テーンシュの目が、はっきりと見開かれる。椅子が鳴る音がした。次の瞬間には、カウンターを回り、巨体が迫る。問い返す暇すらなかった。胸ぐらを掴まれる。焦げ茶と橙色の景色がぐわりと跳ねた。


「――ッ!?」


 身体が宙に浮く。

 変な声が喉から抜け、次の瞬間には、床に叩きつけられた。鈍い衝撃が背中を打ち、肺から空気が押し出される。


「……がッ……!」


 視界が揺れる。

 酒瓶の破片が、少し転がった。


「テーンシュ! 何しやが、る……」


 怒鳴りつけようとした。

 だが、言葉は途中で止まった。見下ろすテーンシュの目が――冷えていた。怒りでも、呆れでもない。氷のように感情を削ぎ落とした目だった。


「……出ていけ」

「あ? 聞こえねぇよ」

「――さっさと、出ていけって言ってんだよ」

 低く、噛み殺した声。


「わざわざ底辺に戻ったテメェに、食わす飯はねぇ」

「あ!? オレはオレなりに考えてんだよ!」


 床から立ち上がり、テーンシュの胸ぐらを掴む。

 宿屋のざわめきが、遠のいた。誰も笑わない。誰も茶化さない。


「考えてるだ? じゃあ言ってみろ! なんで初期化した」

「殴られ続けるのに、嫌気が差したんだよ! オレだって、好きでパラディンになったわけじゃねぇ……オレも、強くなりてぇんだよ……!」


 パラディソは荒い息を吐き捨てた。

 胸ぐらを掴んだ手は離していない。だが、力は入っていなかった。ただ、縋るように布を握っているだけだ。テーンシュはその手を乱暴に振り払った。一歩下がり、冷めた目でパラディソを見下ろす。


「強くなりてぇ、だぁ?」

 低い声だった。怒鳴り声ではない。むしろ、抑え込んだ声だ。


「じゃあ訊くがよ。それはどんな強さだ」

「……あ?」

「剣か? 盾か? 魔法か? パラディンって職業は変えらんねぇ……それはこの世の摂理だ。その上で初期化までして、何に振るつもりだ」


 テーンシュが一歩踏み出した。

 床板が軋み、胸板が当たる。

 問い詰める口調ではなかった。だが、そこに逃げ道はなかった。


「何を捨てて、何を拾う気だ」


 宿屋が、完全に静まり返っていた。

 客も、給仕も、誰も口を挟まない。

 ただ、二人の間だけに、重たい空気が落ちている。


 パラディソは一瞬、言葉に詰まった。

 視線を逸らす。歯を噛み締める。逃げたかった。笑いで誤魔化したかった。だが、テーンシュの目は逸らせなかった。


「オレは……防御も、耐久もいらねぇ。当たらなきゃ、死なねぇ。殴られなきゃ、終わらねぇ。だから――速さと、運に振る」


 絞り出すように言い切り、顔を上げた。


「避けて、殴って、当てる。それと、運だ」

 自嘲気味に、鼻で笑う。


「笑えよ。パラディンが、回避して運頼みするって言ってんだぜ……でもよ、盾構えて突っ立ってるだけのオレは、もう嫌なんだよ……後ろで“頼むぞ”って言われ続けるのも、殴られ続けるのも……全部」


 拳を、ぎゅっと握る。

 言い切った。パラディソは、逃げなかった。テーンシュはその様子を見て、しばらく黙っていた。顎に手をやり、パラディソを見下ろす。


 テーンシュが何かを言い掛けた、その刹那。

 横合いから、幼い声が落ちた。


「自分でそのビルド、思い付いたんですか?」


 その声に、二人は顔を向けた。

 そして、顔を歪め、目を細め、同時に言い放った。


「「うるせぇ! すっこんでろ!」」


 宿屋に野次が飛ぶ。幼い子供が、目を丸くする。

 二人の対応に、客たちはブーイングを鳴らした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ