第10話 - テッテレー、パラディソは成長した!
草原の端で、パラディソは腰を下ろしていた。
殴って、殴って、殴り倒した。ゼリスヨを何体も。何度か危なかったし、何度かまた死にかけた。拳は腫れ、腕は焼け、下着は所々溶解液で腐食し、草と泥に塗れている。だが――死んではいない。生きている。
「……ヒール、」
荒い息を吐きながら、そう呟く。
手を翳すと、緑色の淡い光がパラディソを包み込む。
温かな風。朗らかな光。それが消える頃には、傷も消えた。
パラディンは、回復魔法を使うことが出来る。
ただ、パラディンは基礎魔法威力の数値が低いため、高レベルであっても、軽症しか治せない。本職のビショップには叶わないのだ。
「……はぁ……」
荒い息を吐き、地面に仰向けになる。
空は高く、雲は呑気に流れていた。苛立つほど平和だ。
そして、不意に。視界の端で、淡い光が弾けた。
次の瞬間には、脳内に軽快な音が鳴り響く。半透明の板が、視界の真ん中、空中に展開される。見慣れたそれに、パラディソは一瞬だけ目を細めた。
「来たな、レベルアップ」
レベルアップに必要な経験値は、非戦闘体勢になると集計される。
殴り続けた末の報酬が、一度に入り込む。表示を確認する。
パラディソはステータス画面をじっと見つめなかった。
正確には、一瞬だけ見て、もう十分だと判断した。
数字は知っている。
弱い。脆い。足りない。いちいち確認するまでもない。パラディソの視線は下段だけに落ちた。AGI。LUK。その二つしか見ていなかった。
AGIを上げれば、全体的な速度が増す。
敏捷。回避。攻撃速度。身体の動きが早くなる。
LUKを上げれば、致命打率のみが増える。
殴る。速く動く。
当たらなければ死なない。運が良ければ、尚死なない。
更に運が良ければ、強い魔物も倒せる。理屈はそれだけだ。
防御や耐性は、職業補正とレベルアップで伸ばせる。
今は、上げてもたかが知れている。どうせ、耐えられない。どうせ受け切れない。ならば、見る意味も、振る意味もない。
パラディソは指を伸ばし、淡々と操作する。
悩まない。比較しない。可能性も考えない。必要なのは、速さと運。上げて強くなれる道は、攻撃速度と致命打率のみ。それ以外は、今のパラディソには過剰で、興味すら感じられなかった。
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パラディソ/パラディンLv.5
HP:120/120
MP:25/30
筋力:18 攻撃力 :22
耐性:16 防御力 :15
敏捷:5→15 回避 :10→20
魔力:8 攻撃速度:14→24
精神:5 致命打率:0%→1%
ステータスポイント残り:0
STR:0
VIT:0
AGI:10
LUK:5
INT:0
DEX:0
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最後に、表示された数値だけが更新されていく。
パラディソは、それすら深く見なかった。
「――よっしゃ。まだ蹂躙し足りねぇ」
不敵な笑みを浮かべ、立ち上がる。
拳を握る。軽い。相変わらず、頼りない。だが、さっきより――身体は軽くそして速い。致命打率も、ほんの少しだけ上がった。
「考えるのは、死んでからでいい」
下着一枚の男は、再び草原へ向き直った。
歪んだ成長は、もう止まらない。




