開かれた本、その裏で動き出すもの
ぱたり、と分厚い一冊が閉じられた。
管理室の天井に並ぶランプが、古紙の色を淡く照らす。
しばらく黙っていたリュカは、深呼吸をひとつ置いてから隣のティオへ視線を向けた。
「……ティオ。覚えてるか? “感情屋”…あの不可思議な店のこと」
ティオは、棚から降ろしかけていた記録簿の手を止める。
「もちろん覚えてるよ。忘れようにも、忘れられない」
ティオはゆっくり椅子に腰をおろし、薄く笑った。
けれどその笑みは、思い出のせいでひどく重たかった。
「あのとき──あの父親が店の名を口にした瞬間、明らかに不可思議な行動を取った。
そして……亡くなった」
ティオは声を潜めるように言った。
その場の空気がわずかに沈む。リュカは聞き返そうとしたが、言葉が喉の奥で止まる。
「ここ最近、妙なんだ」
ティオが続ける。
「メモリーズブックの棚にいるとき、たまにあの店のことを思い出す……何か、動いているんじゃないかって思うんだ」
「嫌な予感……ってやつか」
「うん。
しかも、ただの不穏じゃない。
“誰かが、どこかで、確実に手を伸ばしている”……そんな気配がする」
ランプがひとつ、小さく瞬いた。
管理室の静寂の中で、その光の揺らぎがまるで警告のように思えた。
ティオは記録簿を閉じ、ゆっくりと立ち上がる。
「気のせいならいいんだけどね。でも……そうじゃない気がするんだ、リュカ」
リュカはしばらく沈黙した。
ただ机に置かれた本──〈陽だまりの庭で、恋をした〉を見つめる。
「……分かった。
注意しておこう。何かが動き出してるなら、俺たちが何とかしないといけない」
管理室の時計が、静かに時を刻む。
それは、これから先の物語が大きく揺らぎ始める予兆のようでもあった。




