54話
「……えっ?」
思わず息を呑んだ。
見たこともないほど滑らかな石床。
淡い青色の光を放つ案内板。
空気を震わせるような低い唸り音。
そして──
銀色の巨大な“何か”が、ホームの奥に静かに停まっていた。
「な、何……あれ……?」
エレナの声はかすれていた。
城にある馬車とも違う。
魔導騎士団の装甲車とも違う。
そもそも“車輪”が見えない。
巨大な鉄の塊が、まるで生き物のようにぼんやりと光を反射していた。
「これが……列車だよ」
隣でリュカが微笑む。
「れ、れっ……しゃ?」
エレナは聞き慣れない響きをそのまま口にする。
一歩近づくたびに、胸の鼓動が速くなる。
鉄の壁に触れてはいないのに、圧倒的な存在感に体が震えた。
「ちょ、ちょっと待って……! これは……馬もいないし……車輪もないし、どうやって動くの……?」
「んー、説明してもたぶん分かんないと思う」
リュカは肩をすくめる。
「ていうか……動くの?」
「うん。すごく速いよ」
「すごく速い……? こんな鉄の塊が……?」
エレナは両手を胸の前でぎゅっと握りしめた。
中世の常識で理解しようとしても、すべてが噛み合わない。
遠く、車掌のティオが私たちを見ていた。彼の制服の紋章が月光のように瞬き、切符を握る指先が確かな意思を示している。
ここが、始まりのホーム──時を裂く列車の、最初の足場だった。
列車の側面が反射する光に、エレナの瞳が揺れる。
「ま……待って、本当にこれ、乗るの……?」
「そうだよ。エレナの時間を戻すためにね」
リュカの言葉に、エレナはさらに混乱する。
言葉がうまく出てこない。
世界があまりに違いすぎる。
けれど──
列車の扉が軽やかな音とともに開いた瞬間、
エレナはもう二度と戻れない境界を越えてしまったのだと、
直感だけははっきり理解していた。
遠く、車掌のティオが私たちを見ていた。彼の制服の時の紋章が月光のように瞬いていた。




