時空電鉄サイド ──戻る者、見送る者
時空電鉄本部。巨大な時計塔の中心にある観測室では、リュカとティオが並んで巨大パネルを見上げていた。
ホログラムに浮かび上がる悠真の人生軌跡は、ゆっくりと折れ線を描き、赤色から青色へと色調が変わっていく。
「……終了だね。記憶の回収が始まる」
ティオが呟くと、透明なキューブがパネル下から浮上し、中に光の粒が寄せ集まって輝きを放った。
それは悠真が一週間で積み重ねた記憶や過去1年分の記憶が形になったものだった。
「よくやったよ彼は。最悪の未来は回避された」 ティオがそう言うと、リュカは無表情のまま頷いた。
「完全な解決ではないが――生きるということは、そういうものだ」
「……君ってさ、感情ないようで、案外いちばん情が深いよね」
リュカは苦笑すらせず、淡々と歩き出した。
「次の乗客を迎えに行く。案件はまだ残っている」
観測室の扉が閉まる。
ティオはしばらく棚を見つめ、先ほど収めた《悠真》の背表紙にそっと指先を触れた。
「忘れても……幸せでいてね」
祈るような声は、誰にも聞こえない。無感情に聞こえる言葉の裏に、わずかな優しさが滲んでいた。
ティオは回収された記憶のキューブを、ゆっくりと棚へ収める。
淡く光る背表紙には《悠真》という名が刻まれた。
「思うんだ。みんなが “記憶を失っても後悔しない” なんて、無茶な条件じゃない?時を戻せるなら、覚えていた方がいいに決まってるのにさ」
ティオの声は、どこか痛みに似た寂しさを含んでいた。
リュカは腕を組んだまま目を閉じる。
「記憶が残れば、人は永遠に過去に縛られる。
後悔を抱えたままでは、生き直しにはならない」
静かに、しかし強く。
「大切なのは “思い出すこと” ではなく、“変われたこと” だ。
その結果が未来を作る」
ティオは言い返さず、ほんの少しだけ笑った。




