管理室での会話
薄い雨の匂いが残る静かな部屋。
メモリーズブックの管理室――壁一面に古い棚が並び、背表紙の色褪せた本が規則正しく並んでいる。室内には紙とインクの、少し甘いような落ち着いた匂いが漂っていた。
机の中央には大量の書類が積まれ、リュカとティオが黙々と仕分けをしていた。
パラ、パラ……
書類をめくる音だけが、静かな空間に穏やかに響く。
「……一年分の記憶、また誰かのが消えかけてるな」
リュカが淡々とした口調で言い、黄色く変色した報告書をめくる。
ティオは頷きながら、別の紙束を整えた。
「消える前にここの保管分を整理しないと。列車に乗る人数も、ここのところ増え続けてる」
その言い方は軽いのに、目はどこか沈んでいる。
ふと、リュカが棚の隅へ視線を向け、首をかしげた。
「……あれ? こんな本、あったか?」
ティオも顔を向ける。
棚の一番下――誰も触れないような古い隙間に、一冊だけ色の異なる本があった。
柔らかなクリーム色の装丁。指先で触れた瞬間、かすかに温かい。
リュカがそっと取り出し、表紙に刻まれた文字を読む。
「『陽だまりの庭で、恋をした』……?」
「題名からして、ずいぶん古いね」
ティオが近づき、覗き込む。
本は軽く、まるで誰かの記憶が眠ったままのようだった。
ページを開くと、柔らかな黄金色の光がふわりとこぼれた。
絵画のような一枚の情景が浮かび上がった。




