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時間を巻き戻せる切符――代償は、君との一年分の記憶でした    作者: まなと
第十六章 さようならの、その先で

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49話

お千代の悲鳴が、夜に裂けた。

振り返れない、勇気がでない。ただ走るしかなかった。


蒼真が向かっていたその先は、山神神社だった。

鳥居は、夕闇の中に立っていた。

蒼真は、息を切らしながらその前に立つ。

背後では、まだ炎の匂いと悲鳴の残響が、耳の奥にこびりついていた。


「……一か八か、だ」


誰に言うでもなく、そう呟く。

蒼真は、ぎゅっと拳を握った。


「……それでも」


目を閉じる。


「祖母の家に来た、あの日に戻してください」


一歩、踏み出す。

鳥居をくぐった瞬間、世界が裏返る。


次に立っていたのは、現代の山神神社。


「……戻った」


目の前には、もう一つの鳥居がある。

蒼真は、息を整えながら見つめた。


——ここを、もう一度くぐれば。


まだ、時空管理局がタイムバグを修正していないかもしれない。また、戻れるかもしれない。

一瞬、迷いがよぎる。


——このままなら、危険にさらされることもない。


——学校にも行かず、誰とも関わらず、ただ生きるだけの毎日。


「……だめだ」


蒼真は、首を振った。


「戻らないといけない。絶対に」


もう一度、鳥居をくぐった。


風が、変わった。

湿った土の匂い。

遠くで鳴る鐘の音。

蒼真は、江戸の町に立っていた。

空は、夕暮れ。

朱に染まる雲の下で、屋敷の屋根が影を落としている。


「……十時間くらい、前かな…」


胸の奥で、そう思った。

まだ、間に合う。

蒼真は、屋敷へ走った。

人目を避け、回廊を抜け、当主のいる部屋へ。


「失礼します」


当主は振り向き、驚いた顔をした。

蒼真は、近づき、耳元で低く囁く。

当主の目が、見開かれる。


「まことか……しかし、それをすれば……」


「お願いします」


蒼真は、真っ直ぐに頭を下げた。


「今夜、すべてが決まります」


当主は、しばし黙った後、深く息を吐いた。


「……よい」


短く、しかし重い一言だった。


その日の夜。

月明かりの下、屋敷は静まり返っていた。

刺客たちは、影のように近づく。


だが——

その瞬間だった。

屋敷の外から。

屋根の上から。

庭の奥から。

一斉に、用心棒たちが飛び出す。


「今だ!」


火をつける暇すら与えない。

刃が交わり、影が倒れる。

刺客たちは混乱した。


「な、なぜ……!」


以前は、庭に集中させればよかった。


だが今回は違う。


全方位から来ることが分かっていたから、全方位で迎え撃てた。

戦いは、短かった。

当主は、その光景を見つめ、低く呟く。


「……屋敷の全方位に配置した意味が、ここで生きるとは」


蒼真が、当主に言う。


「さあ、向かいましょう」


「どこへ」


「——あの場所です」


月明かりの道。

以前、尊雅が馬に乗って現れた場所。


やはり、現れた。

尊雅と、数名の刺客。

だが、まだ気づいていない。

屋敷で何が起きたかを。


「なんだ」


尊雅は、鼻で笑う。


「二人だけか。逃げてきたのか、情けない」


手を振る。


「やってしまえ」


刺客が、動こうとした——その瞬間。


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