48話
母を喜ばせる未来。
それを、力ずくで掴む。
尊雅は、呼び鈴を鳴らした。
すぐに、数名の部下が現れる。
「これまでの指示は取り消す」
部下たちが、息を呑む。
「攻め口を変える。庭からではない」
一拍、間を置く。
「東、西、南、北。全方位からだ」
ざわ、と空気が揺れた。
「火を用いよ。すべてを包め」
誰も、口を挟まない。
「刻限も変える」
尊雅は、はっきりと言った。
「一時間後ではない。——今すぐだ」
その言葉が、すべてを決定づけた。
「行け」
部下たちは、深く頭を下げ、散っていく。
尊雅は、一人残り、静かに息を吐いた。
「……これでいい」
そう自分に言い聞かせるように。
その頃。
桐生家の屋敷で、蒼真は、強い違和感を覚えていた。
胸が、ざわつく。
理由は分からない。だが、嫌な予感だけが、確かにある。
懐に入れていた歴史書を取り出す。
指が、自然とページをめくる。
「……なに、これ……」
文字が、変わっていた。
暗殺の時刻。
手口。
被害。
すべてが、塗り替えられている。
「……未来が、変わった……!」
その瞬間だった。
——ドン。
遠くで、低い音。
次の瞬間、屋敷が揺れた。
「っ!」
「火だ!」
「外からだ!」
叫び声が、四方から上がる。
蒼真は、顔色を変え、走り出した。
「旦那様!」
当主のいる部屋へ飛び込む。
「どういうことだ、これは!」
蒼真は、息を切らしながら叫ぶ。
「時間がないんです!全方位から攻められてます!」
「なに……!」
次の瞬間、障子越しに炎が見えた。
東から。
西から。
南から。
北から。
逃げ場が、ない。
「逃げてください!今すぐ!」
「お千代は!」
「一緒に!」
三人は、使用人たちの悲鳴を背に、屋敷を飛び出した。
火の粉が舞い、熱が肌を焼く。
「母上が……!」
お千代の声が、裂ける。
振り返ると、奥の建物が炎に包まれていた。
「うわぁぁぁぁ……!」
そのとき。
炎の向こうから、馬の足音が聞こえた。
現れたのは、尊雅だった。
黒装束の刺客たちを従え、悠然と立っている。
「……お前が……!」
旦那様が叫び、尊雅の足元に縋りつく。
「お前が、やったのかぁぁぁ!」
尊雅は、冷たく見下ろした。
「離せ、お主が悪いのだぞ?お主のせいで、皆が巻き込まれ、被害を蒙る。余計なことをしなければよかったのになぁ」
足を振り払う。
蒼真が、愕然とした声を上げる。
「なぜだ……!一時間後のはずだった……!しかも、こんな……!」
尊雅は、口の端を吊り上げた。
「よく知っておるな」
一歩、前に出る。
「だが、我の方が一枚上手だったようだ」
その目が、蒼真を射抜く。
「時空鉄道とやらの……神からの贈り物を、受け取ってな」
蒼真の背筋が、凍る。
「……まさか……」
——こいつも、乗ったのか。
「だめだ……」
このままでは、全員死ぬ。
蒼真は、歯を食いしばった。
「……この方法にかけるしかない」
蒼真は全速力で走った。
尊雅が、冷たく笑う。
「この期に及んで、逃げるか」
肩をすくめる。
「まぁよい。こやつらさえ消えれば、何を申そうと、誰も信じはせぬ」
背後で、尊雅の声が響く。
「やれ」
その一言で、刺客たちが動いた。
蒼真は、振り返らない。
ただ、走る。
必死に、走る。
背後で——
「きゃあああああ!」




