表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時間を巻き戻せる切符――代償は、君との一年分の記憶でした    作者: まなと
第十五章 皇帝になれなかった男

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/64

46話

「……?」


円が描かれ、見知らぬ文字が浮かぶ。

ざわめきが広がる前に、光が強まる。

尊雅の視界は、白に飲み込まれた。


白い光が、ゆっくりと引いていった。

尊雅は、足元の感覚を確かめるように、そっと一歩踏み出した。

処刑台も、民のざわめきも、どこにもない。


「……ここは」


声が、やけに澄んで響いた。

そこは、どこか温かみのある店の中だった。


「ようこそ」


前方から、声がした。

振り向くと、そこに一人の青年が立っていた。

穏やかな笑み。落ち着いた眼差し。


「私はリュカ。時空鉄道の案内係だ」


尊雅は、警戒するように一歩身構えた。


「……鉄道?」


「そうだ。君は今、時空鉄道の待合室にいる」


尊雅は、眉をひそめた。


「冗談を言っておる場合ではない。俺は……」


言いかけて、言葉が止まる。

自分が、さきほど何をされていたのか、はっきりと思い出せる。

処刑台。

光。

消える感覚。


「……死んだ、はずだ」


リュカは、静かにうなずいた。


「少し違う。君は、処刑されるほんの少し前にここへ来たのだ」


尊雅の胸が、ぎゅっと締めつけられる。


「ここに来たということは、もう一つの選択肢が与えられた、ということだ」


「選択肢……?」


リュカは、一歩近づいた。


「時を戻すことができる。過去のある一点へ、君を送り返す」


尊雅の目が、大きく見開かれる。


「……時を、戻す?」


思わず、笑いが漏れた。


「そんなことが……あるものか」


「ある」


即答だった。


「ただし、代償がある」


尊雅は、笑みを消した。


「……代償とは」


「記憶だ」


リュカは、淡々と言う。


「戻る代わりに、君は“過去一年分の記憶”を失う」


尊雅は、言葉を失った。

一年。

この一年で、何があったか。


恐怖。怒り。絶望。

母の涙。

桐生家。

処刑台。


胸の奥が、痛んだ。


「……すべて、か」


「完全ではない。感情の名残は残る。だが、出来事としては、思い出せなくなる」


しばしの沈黙。

尊雅は、拳を見つめた。

震えている。


「それでも……戻れるのなら」


声は、小さかったが、確かだった。


「そんなもので戻れるのなら……安い」


リュカは、わずかに目を細めた。


「後悔はしないか」


尊雅は、顔を上げた。


「後悔は、もうした。これ以上、失うものなどない」


「……決まったようだ」


リュカは、軽く息を吸い、言った。


「時の流れよ、我が声に従い、迷いのない軌跡を示せ。 過去と未来を結ぶ道を、刻の裂け目に映し出せ。 光の輪が導くは、時空電鉄への扉。 今、現れよ、扉よ、我に開かれたる軌道の門よ。」


リュカの声が、最後の言葉を告げ終えた瞬間だった。

足元の空気が、ゆらりと歪む。


何もなかったはずの場所に、淡い光の門が浮かび上がった。

まるで空間そのものが、門として形を成していくようだった。

尊雅は、一歩、前へ踏み出す。

躊躇はなかった。


光の門をくぐった瞬間、視界が反転する。

――次に立っていたのは、ホームだった。

どこまでも続く線路。

静まり返った空間。

遠くで、列車が低く息をするような音を立てている。


「……ここは……」


言葉にした途端、手のひらに、紙の感触があった。

尊雅は、ゆっくりと掌を開く。


「切符……?」


いつの間にか、一枚の切符を握っていた。

行き先は書かれていない。ただ、確かに“乗るための証”だけがある。


「それ、君のだよ」


背後から、聞き慣れた声。

振り向くと、ティオが立っていた。

  

いつものように軽く笑っているが、その目は静かだった。

尊雅は、自然とで切符を差し出していた。


ティオは受け取り、鋏を入れる。

カチリ。短く、乾いた音がホームに響く。


「はい、どうぞ」


切符を返すと、ティオは一歩だけ横に退いた。

列車の扉が、静かに開く。

中から、やわらかな光が漏れ出す。


尊雅は、少しだけ立ち止まり、そして列車へと足を踏み入れた。

扉が閉まる。

外の世界が遮断され、

列車は、ゆっくりと動き始めた。

――過去へ向かう旅が、ここから始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ