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時間を巻き戻せる切符――代償は、君との一年分の記憶でした    作者: まなと
第十五章 皇帝になれなかった男

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45話

「ご理解、感謝いたします」


その言葉が、尊雅の胸を刺した。

その夜、尊雅は一人、灯の落ちた部屋にいた。

膝の上で、手が震えている。

恐怖が、遅れてやってきた。


——すべてを失う。


——名も、地位も、母も。


尊雅は、武士を呼んだ。

現れた男たちを前に、尊雅はしばし黙した。

そして、言った。


「……始末せよ」


声は、かすれていた。


「桐生家当主を。家ごと、口を封じよ」


男たちは、一礼し、何も問わなかった。

扉が閉まる。

尊雅は、膝に顔を埋めた。


——怖い。


——だが、戻れぬ。


数日後、報せが届く。


「……失敗いたしました」


尊雅は、ゆっくりと顔を上げる。


「……何?」


「何者かが、火騒ぎの誤報を流し……娘だけでもと思い追いかけたのですが、逃げられました……」


尊雅の視界が、赤く染まった。


——まだ、終わっていない。


——終わらせねばならぬ。


拳が、畳に打ちつけられる。

恐怖と悔しさが、胸を締めつける。

これまで積み上げたすべてが、音を立てて崩れていく。

尊雅は、震える息の中で、呟いた。尊雅は、震える息の中で、呟いた。


「……もう一度だ」


その言葉が、

二度目の暗殺へと、繋がっていく。

報せは、夜半に届いた。


尊雅は灯の前に座っていた。

書を広げてはいるが、視線は文字を追っていない。

胸の奥が、嫌に静かだった。

戸の外で、足音が止まる。


「……入れ」


現れた刺客は、入った瞬間に膝をついた。

その動きが、いつもより速い。

尊雅は、すでに悟っていた。


「申せ」


「……始末、果たせず」


一瞬、空気が凍った。


「……どういうことじゃ」


声が低くなる。

怒鳴るよりも前に、確認せねばならぬ。


「桐生家に差し向けた者どもは……」


武士は、額を畳に押しつけた。


「全員、捕らえられました」


尊雅の指が、わずかに震えた。


「……全員?」


「はい。屋敷内の用心が想定以上に厳しく、逃げ道も塞がれ……」


尊雅は、立ち上がった。


「当主は」


一拍、間があった。


「……無事にございます」


その言葉で、胸の奥が崩れた。


——逃げたのではない。


——捕らえたのだ。


——つまり、証が残った。


考えた瞬間、尊雅の中で怒りよりも先に、

恐怖が立ち上がった。


「下がれ」


刺客が去ると、尊雅はその場に立ち尽くした。


——終わった。


刺客が全員捕らえられた。

それは、ただの失敗ではない。

告発される。必ず。数日も経たぬうちに、朝廷は揺れた。

桐生家当主は、逃げも隠れもせず、堂々と訴え出た。


「我が家は、襲撃を受けました」


「刺客はすべて捕縛しております」


「その者らは、尊雅様の名を口にしました」


「尊雅様は帝の子ではありません」


広間に、ざわめきが走る。

尊雅は、その場に立たされていた。

無数の視線が、刺さる。

皇帝は、しばらく黙してから言った。


「……事実か」


尊雅は、答えなかった。

答えられなかった。

桐生家当主が、一歩前に出る。


「わたくしは、恨みで申し上げているのではございませぬ」


「国の根を揺るがすことゆえ、見過ごすわけにはいかなかった」


尊雅の胸に、怒りが込み上げる。


——正義。


——また、それか。


だが、その正義は、今度こそ逃げ道を塞いだ。

皇帝の声が、低く落ちる。


「奥方」


母が、はっと顔を上げる。


「役所へ行け」

  

母の身体が、わずかに揺れた。


「尊雅」


皇帝は、続けた。


「そなたもだ」


兵が近づく。

縄が、腕にかかる。母と目が合った。


「尊雅……!」


その声に、胸が裂けそうになる。


だが、尊雅は何も言わなかった。


——言えば、すべてが壊れる。


裁きは、早かった。

刺客たちの証言、動かぬ証拠。


「偽りの皇子、尊雅」


「帝を欺き、朝廷を乱した罪」


尊雅は、処刑台に立たされた。

空は、異様なほど澄んでいる。


——ここまで、か。


幼い頃の母の声が、頭をよぎる。


「皇帝になりなさい」


——あれは、何だったのだ。


膝が、地に押さえつけられる。


そのとき。


足元が、淡く光った。


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