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時間を巻き戻せる切符――代償は、君との一年分の記憶でした    作者: まなと
第十四章 記された扉

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41話

火矢のような光ではなく、用心棒たちの提灯が一斉に振られ、数百の影が闇を切り裂くように現れた。彼らは短咆哮とともに駆け寄り、刺客たちを包囲していく。黒装束の群れは、驚きと混乱の中であっという間に包囲され、動きを封じられていった。縄が振られ、手甲が叩きつけられ、刃は鞘に押し込まれる。庭は瞬く間に光と人声に満ちた。


「やつの言うことは本当だったのか……」


桐生家当主の声が低く震え、座敷の縁で硬く固まる。畳の上でその顔は、怒りと驚愕が交錯していた。

用心棒の中から、やがて一人の男が引き出され、庭先に釋放されるように据えられた。濡れた黒衣が泥を跳ね、額に汗が滲んでいるが、その目はなお冷たく光っていた。


彼がこの夜の先導者であることは、誰の目から見ても明らかだった。

当主は歩を進め、その男の傍らまで行くと、低く刃のような声で訊ねた。


「言え。首謀者は誰だ」


男は一瞬黙し、庭の石畳を見下ろす。口を開かぬ。沈黙が一瞬、鋭く場を支配した。


「答えぬか。答えぬなら、お主は役所へ差し出し、法に委ねる。処罰は免れぬ。全員もろともな、処刑かもしれぬ」


その言葉に、リーダーの肩がわずかに震えた。


「やめろ!俺が何をされようと構わん。だが……そいつらだけは、頼む。処刑だけは……」


その声は、思いのほか切実だった。周囲の用心棒たちの視線が彼へ向く。捕らわれた仲間たちの顔に、血の気が引いているのが見える。誰もが息を呑んだ。


「何をほざく、同情など容赦はせぬぞ」


リーダーは、ゆっくりと顔を上げ、泥にまみれた手で前髪を払った。その目は血走っていたが、言葉は震えていない。


「……ならば、私は言おう。首謀者は、皇子だ。第三皇子、尊雅だ」


その名が空気に放たれた瞬間、庭の空気が一瞬凍りついた。


提灯の光が彼の顔を照らし、聴衆の表情が一斉に変わる。尊雅――その名は公に語られぬはずの者の名であり、口に出すにはあまりに危うい重みを伴っていた。


当主の顔が蒼白になり、蒼真の胸は鋭い衝撃に打たれた。庭の遠くで、雪解けの水音がかすかに鳴る。暗闇の中で、人々の息が大きく揃った。夜の静寂は、その名の重さとともに音を失った。夜が明け、屋敷には静けさが戻っていた。昨夜の騒ぎが嘘のように、庭には霜が残り、空気は張りつめている。蒼真は再び、桐生家当主の前に座っていた。


当主はしばらく黙したまま、蒼真を見つめていたが、やがて口を開いた。


「……お主の申したこと。武士が首謀者ではなかったのか?」


蒼真は背筋を伸ばし、静かに言った。


「なら、昨夜の武士も、皇子が操っていたのかもしれません……」


当主は目を伏せ、低く続ける。


「しかし、暗殺を仕掛けてくるとは・・・・、ならば、これからどうなる。私は、何をなすべきだ」


その言葉を受け、蒼真は懐からあの歴史書を取り出した。そっと畳に置き、頁を開く。そこには、昨夜とは違う内容が記されていた。

蒼真の目が、文字を追って止まる。 

 

「……暗殺の記事が、消えてる」


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