41話
火矢のような光ではなく、用心棒たちの提灯が一斉に振られ、数百の影が闇を切り裂くように現れた。彼らは短咆哮とともに駆け寄り、刺客たちを包囲していく。黒装束の群れは、驚きと混乱の中であっという間に包囲され、動きを封じられていった。縄が振られ、手甲が叩きつけられ、刃は鞘に押し込まれる。庭は瞬く間に光と人声に満ちた。
「やつの言うことは本当だったのか……」
桐生家当主の声が低く震え、座敷の縁で硬く固まる。畳の上でその顔は、怒りと驚愕が交錯していた。
用心棒の中から、やがて一人の男が引き出され、庭先に釋放されるように据えられた。濡れた黒衣が泥を跳ね、額に汗が滲んでいるが、その目はなお冷たく光っていた。
彼がこの夜の先導者であることは、誰の目から見ても明らかだった。
当主は歩を進め、その男の傍らまで行くと、低く刃のような声で訊ねた。
「言え。首謀者は誰だ」
男は一瞬黙し、庭の石畳を見下ろす。口を開かぬ。沈黙が一瞬、鋭く場を支配した。
「答えぬか。答えぬなら、お主は役所へ差し出し、法に委ねる。処罰は免れぬ。全員もろともな、処刑かもしれぬ」
その言葉に、リーダーの肩がわずかに震えた。
「やめろ!俺が何をされようと構わん。だが……そいつらだけは、頼む。処刑だけは……」
その声は、思いのほか切実だった。周囲の用心棒たちの視線が彼へ向く。捕らわれた仲間たちの顔に、血の気が引いているのが見える。誰もが息を呑んだ。
「何をほざく、同情など容赦はせぬぞ」
リーダーは、ゆっくりと顔を上げ、泥にまみれた手で前髪を払った。その目は血走っていたが、言葉は震えていない。
「……ならば、私は言おう。首謀者は、皇子だ。第三皇子、尊雅だ」
その名が空気に放たれた瞬間、庭の空気が一瞬凍りついた。
提灯の光が彼の顔を照らし、聴衆の表情が一斉に変わる。尊雅――その名は公に語られぬはずの者の名であり、口に出すにはあまりに危うい重みを伴っていた。
当主の顔が蒼白になり、蒼真の胸は鋭い衝撃に打たれた。庭の遠くで、雪解けの水音がかすかに鳴る。暗闇の中で、人々の息が大きく揃った。夜の静寂は、その名の重さとともに音を失った。夜が明け、屋敷には静けさが戻っていた。昨夜の騒ぎが嘘のように、庭には霜が残り、空気は張りつめている。蒼真は再び、桐生家当主の前に座っていた。
当主はしばらく黙したまま、蒼真を見つめていたが、やがて口を開いた。
「……お主の申したこと。武士が首謀者ではなかったのか?」
蒼真は背筋を伸ばし、静かに言った。
「なら、昨夜の武士も、皇子が操っていたのかもしれません……」
当主は目を伏せ、低く続ける。
「しかし、暗殺を仕掛けてくるとは・・・・、ならば、これからどうなる。私は、何をなすべきだ」
その言葉を受け、蒼真は懐からあの歴史書を取り出した。そっと畳に置き、頁を開く。そこには、昨夜とは違う内容が記されていた。
蒼真の目が、文字を追って止まる。
「……暗殺の記事が、消えてる」




