40話
蒼真は言葉を選び、平静を装って説明を始めた。
「世の仕組みがそうさせます。表向き、朝廷――すなわち公家・貴族が儀礼の上では位を持つ。しかし、実際に国を動かすのは武士です。その歪みが、嫉妬や不満を生みます。『実務を担う我らが、なぜ上に据えられるのか』という感情が、やがて刃に向くことがあるのです。」
当主の顔に、否定しきれぬ疑念の影が走った。
「……武士がそのようなことを、信じがたし」と、低く呟く。
だが蒼真はそこで口を閉ざさず、ゆっくりと倉から取り戻した歴史書を差し出した。
「こちらを、どうかお目通しください。信じ難いならば、まずは形で示します。これは、私が持っていた――この時代で起きたことが記された『書物』です。ここをお読みください」
当主は一瞬、戸惑いを見せつつも冊子を受け取り、蒼真に促した。蒼真はゆっくりと桐生家のページを開く。そこにははっきりとした見出しがあった。
――「桐生家襲撃――暗殺」
活字の並びは冷たく、だが確かにそこに事実の輪郭を刻んでいる。蒼真は声を震わせずに説明を重ねた。
「昨日、貴家で火事にみせかけたのは――本来、あの日に桐生家で一家全滅の暗殺が予定されていたからです。私は――お千代様だけでも助けようと、その夜に行動を起こしました。そのために、暗殺の日がずれた。すなわち、刺客は今日の夜中に来るはずなのです」
座敷に沈黙が訪れた。当主は蒼真の目をじっと見返す。
「……嘘を吐いているようには見えぬ」
続けて傍らの使用人へ向き直り、声を張る。
「今より直ちに、用心せよ。馳せ参じる用心棒を雇え。門の見張りを固め、夜中の巡回を増やせ。侍を三組、交代で門前に置け。万一の備えは抜かりなきように」
使用人たちが慌ただしく動きを始める。蒼真は胸の中で、小さく息をついた。
安堵が少しだけ、肩のあたりからほぐれていく。だがその安堵が長くは続かないことを、彼の目はすでに知っていた。
夜は更け、月は厚い雲の向こうに隠れていた。屋敷の庭を包む闇は深く、ただ風が松葉を鳴らす音だけが静かに響いている。蒼真は縁側の窓から息を潜めて見張っていた。
遠く、垣根の影がぴくりと動いた。やがて、黒装束の一群が音もなく土を踏んで忍び入るのが見えた。数は数十。暗闇に溶けるような動きで、刀の柄が闇にぼんやり光る。じりじりとした緊張が空気を震わせた。
だが次の瞬間、庭に一斉に灯がともされた。




